聖鎧ザンヴァイル 少年たちの戦場

原作・氷川輝/著・進藤雄太

第二話 戦艦アムルダート

 時を同じくしてアフリカ大陸東部のサバンナ地帯でも激しい戦闘が繰り広げられていた。
 比呂弥たちと似た姿をした、騎士のような人型の姿が、見える範囲だけでも複数確認できた。
 
 一方は全長一キロ以上を誇る巨大な空中戦艦、もう一方は大地と空を一面黒で覆い尽くす勢いを見せる、漆黒の鎧を纏った軍団であった。

 「まったく、いい加減にしてほしいわね! いくら倒してもキリがない!」
 
 アクアマリン色の鎧を纏う女騎士が愚痴る。

 「敵ザンナイトを追った比呂弥とは連絡ができたのか!? ジゼル!」
 
 クンツァイト色の鎧を纏った騎士が叫んだ。

 『まだよ。どちらにしてもこの戦域を突破しないと身動きが取れないわ兄さん』
 
 「ジゼル」と呼ばれた女性は通信機の先から冷静に答えた。

 「こんなところでもたついてられないというのに!」

 『まぁまぁグレイ、何にしてもやつらを全滅させなきゃここは通れないってことだろ? それなら話しは簡単だ!』
 
 パパラチアサファイア色の鎧を纏う騎士はひょうきんな口調で通信に割り込むと、すぐ後ろにいた女騎士に目配せをする。

 「両腕、両脚、全ランチャー照準固定! 一斉射撃……いっけぇぇぇぇっ!」
 
 エメラルド色の鎧を身に纏った女騎士が全身に装備したミサイル、グレネード、ビームランチャーを敵部隊目掛け一斉に発射した。逃げ場を奪うように広範囲に爆発が生じ、敵部隊を一気に消し飛ばす。

 「全弾発射確認。各武装排除。続いて近接戦闘へ移行するわ」
 
 女騎士は全身に装備された武装をパージすると、腰に収納されたビームショットガンを取り出し飛翔していった。

 『道が無けりゃ、こじ開ければいい。俺たちは無敵のエンジェルだぜ?』

 「……お前の言うとおりだ、アッシュ」

  仲間と通信を交わしていた一瞬の隙を突かれ、敵兵士が特攻をかける。

 「死ねぇーっ!」
 
 次の瞬間、敵はこめかみを撃ち抜かれ崩れ落ちる。

 『油断しないで兄さん。いくら私でもこの乱戦、味方の全てはカバーできないわよ?』

 「助かったジゼル! 全エンジェルメンバーズに告げる! アムルダートへの敵進行を食い止めつつ、敵部隊を叩く! 今は、比呂弥を信じるしかない!」

 「艦砲射撃、一斉照射! 目標、敵クローンナイトおよび敵ザンナイト! 撃て!」
 
 戦艦ブリッジからの指示と共に、戦艦に搭載された数十基の砲塔からビーム砲が敵部隊の集団に撃ち込まれ、一瞬にしてその数を減らした。
 そこにピンクダイアモンドの輝きを放つ騎士から通信が入った。まだ年端も行かない少女の声である。

 「アムルダート、聞こえますか!? 比呂弥の居場所は特定できたんですか!?」

 「先ほどアフリカ大陸の西側で戦闘が確認されました。どうやら敵ザンナイトと交戦している模様です」
 
 巨大戦艦「アムルダート」の指令ブリッジより、部隊との通信を担当するオペレーターのエミリー・ハッキネンが応答する。

 「私、比呂弥の援護に向かいます!」

 「いけませんアリル! こちらの戦力も残り僅か、今は目の前のザンナイトの迎撃が優先されます!」
 
 ピンクダイアモンド色の女騎士をアリルと呼んだ艦長らしき女性は、強い口調で制止した。

 「でも、それじゃあ比呂弥が!」

 「ここでアムルダートを沈めるわけにはいきません、目の前の敵に集中しなさい!」

 「レインさん!」

 「そうしなければこちらがやられてしまうわ!」
 
 レインと呼ばれた艦長風の女性はそう言うと、他の味方ザンナイトに向けて指示を出した。

 「これより敵ザンナイトとの総力戦に移行します! 損傷の少ない者は負傷者の救護を! 残りの者は私に続きなさい! 全力を持って、ここで敵ザンナイトを撃破します! 主砲用意! 味方は敵を引き離しつつ陣形の再構築を! 整備班は各部隊の出撃を急がせつつ弾薬の補給、救護班は負傷者の救助を急いで! 機関最大!」
 
 レインは艦全体の動きを把握しつつ逐一指示を与え続け、急速にエネルギーを主砲に充填させた。



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