異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

二十二話 vsギルド長タナカ



「準決勝開始!!」


 準決勝ともなると祭りの盛り上がりは最高潮に達しようとしていた。
 俺の対戦相手はギルド長タナカさんだ。


 打ち上げられた魔法弾が爆発する。
 だが俺とタナカさんは動かない。
 両方とも踏み込み方を悩んでいるのだ。


 俺の方も、そしてタナカさんの方も察知系のスキルを多数所持している。
 完全に前衛だが、ゲームだったらタンクもアタッカーも特殊攻撃さえも出来そうな万能ジョブ。
 それが今のタナカさんだ。
 だがそれは俺も同じ。
 だからこそ、相手の一挙手一投足だけ見て両方が踏み込めないでいる。


 両方が両方の狙いが解るからこその緊迫と硬直。
 タナカさんと俺の硬直が面白くないのだろう、観客の緊張は当に解けている。
 だが、審判の騎士は戦いに注意するようなことは無い。
 一定以上の強さを持つ人間には解るのだろう。


 さて、俺もこのまま硬直を続けて何か武術を前世で納めているであろうタナカさんの隙を見つける事など出来ないだろう。
 両方が動かなかった場合俺の負け筋が先に作られる、ならば俺が先に動くしかない。


「フルエンチャント。ブラックトルネード!」


 武術を納めている相手に自ら近づくのは自殺行為。
 ――タナカさんもそう思っているだろう。


「転移」


 目立つように配置した竜巻を目隠しに、俺はタナカさんから見て右側に転移する。
 竜巻の暴風はタナカさんの目を閉じさせる。


「ですが察知スキルで見つけられます若様」


「解ってる」


 察知スキルはいわば第六感の延長線上だ。
 転移したからと言ってそれから逃げ切れるとは思えない。
 だから最後は、コイツで決める。


「霊化!からの更に転移!」


 今度は真後ろに移動する。
 これで攻撃する瞬間に霊化を解除して一太刀浴びせれば俺の……


「勝ちだ!」


「そんな簡単に倒されるわけにはいきませんね」


 その瞬間タナカさんは俺の方を向いていた。
 なんで反応出来てんだよ。


「私がこの世界に来る時少しだけ私の身体能力と技術が向上したようです」


 スキルの付与か。
 前世の時から持っている戦闘系技能はこの世界においてもスキルとして付与される。


「そして私は地球で退魔師としても活動していましたから」


 そうか、確かにタナカさんのスキル欄には霊的感知のスキルがあった。
 そして勿論俺はそれを完封していた。
 だが、スキルが消えたとしてもこの人は持ち前の直感で俺を認識したんだ。


 タナカさんは俺の黒炎を纏った剣を腕で弾いた。
 岩の様に堅い感覚を抱いた。
 これは硬化スキルか。
 俺ほどでは無いがこの人もレパートリーが多すぎる。


 タナカさんは俺の崩れた姿勢を見逃す事なく、反撃して来た。
 突きからの回し蹴り。
 突きを横に流し、バックステップで蹴りを避ける。
 だが、タナカさんは更に流れるような動きで肩から突進してくる、硬化も発動しているようで食らえば数十メートルは吹っ飛ばされそうだ。


「ヘルファイヤ」


 それを俺は前方に獄炎を放ち、その爆発力を利用する事で無理矢理間合を取った。


「なかなかですが、いくら小細工を打ち込もうが決め手が欠けていますよ」


 解ってますよ言われなくても。
 決め手……何か無いのか?
 俺の手持ちの中でタナカさんに一撃当てる方法。
 少し久しぶりだが、あれをやるか。


 俺はアイテムリストを開き、作ったは良いが使わずに放置していた武器を取り出す。
 宿り木の弓。
 この弓は神さえも殺す大樹の枝から作成されている。
 要するに一撃の重さに関してはその他の追随を許さない弓だ。


 一度転移で距離を最大限取った俺は武器を交換し、タナカさんに構える。
 弓技:ドライブショット
 弓技:クイックショット
 エンチャントウェポン
 加速力と連射力が向上した矢を6回射る。
 獄炎を纏った矢が飛来したタナカさんは最小限の綺麗な動きで回避する。


「まだだ」


 次元の矢。
 ターゲットに指定された相手は俺の行う遠距離攻撃を回避する事が出来なくなる。
 物理法則を無視した動きで矢は方向を変える。
 察知スキルで直ぐに矢を感知したタナカさんは手の甲で全ての矢を打ち落としてしまった。


「マジかよ」


 だが、まだだ。
 今度は10本の矢をそれぞれ違うエンチャントで飛ばす。
 インパクトの瞬間がずれる事で少しだけ隙を生ませるの狙いだ。
 手の甲で払うには足を止める必要がある。
 そこを狙って。


「グランドプリズン!」 


 タナカさんの周りの土が盛り上がり全方向の地面がひっくり返り、土の壁がタナカさんを閉じ込める。
 俺は急いで全知の剣を取り出す。
 知力斬!
 知力斬の威力はイメージの頑丈さで効果範囲に差異が出る。
 今回イメージしたのは何度も自分で使った都合上一番想像しやすいと言っても過言では無い魔法。
 ヘルファイヤ。


 扇状に展開される獄炎は、土の牢獄をぶち破り中を滅茶苦茶にした。






「熱いですね。蒸し焼きになるかと思いました」


「じゃあなんでなって無いんですかね」


 瓦礫の山から出てきたタナカさん……無傷じゃ無いっすか。


「私は結界師と合気道も免許皆伝ですから」


 さっきも思ったが結界師とか退魔師って技術として地球に存在するのかよ。
 つか合気道は今の一連の動作のどれと関係するんですかね。


「タナカ選手、結界の破壊が確認されました敗退です」


 え、あ、結界は今ので壊れたのか。
 焦って損した。


「よってシル選手決勝進出!」


「負けてしまいましたか」


「いやいや長引いたらそれだけ俺の勝率が落ちますよ。それにタナカさんにはまだ見せてない切り札が3つはあるでしょ?」


「いえ、正しくは10個ほどあります」


 ええ……スキル欄以外に隠し玉あるのかよ。


「それにシル君にもまだ見せてない物があるのでしょう?」


「まあ、タナカさんと違って10はありませんが」


「それは流石に嘘でしょう。20はあるでしょう?スキル」


 そのままタナカさんは去って行った。
 てか、やっぱりスキルを確認するスキル持ってんじゃねえかよ。
 はあ、敵わねえな。それになんで隠密をすり抜けてるんですかね。

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