異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

十九話 ストッパー



 試合開始まで残り一週間となった。


 大魔王は俺のシステムを確かにアップグレードし、俺が気絶している間に帰っていた。
 今回は機能が増えたというよりは、知識からくる概念のを利用した異世界の魔法や化学をスキルとする方法だった。
 次元の法則。
 空間の法則。
 光速や時間をも完全に理解した大魔王の知識が俺のシステムに組み込まれていた。
 これはアーカイブの知識にも無い物だろう。
 アーカイブが完全無欠、全知でいられるのはこの世界の情報を全て持っているからだ。
 それに無い、知識という時点でこの世界の人間で今の俺と同じ事が出来る奴はいないという事だ。
 あえて言おう、俺の能力は最強であると!


 と、言う事で強化の時間だ。
 獲得可能なスキルが一気に増えて、検索が俺に対して意味不明な言葉を多用する事以外は俺に不満は無いが、武闘大会とか言われると全力で出場したくなっちまうに決まっている。


 俺には普通の人間と違い、痛みが無い。
 胆力のおかげで思い悩むという事も無かった。
 だが、そうだという事実を忘れてはならない。
 俺が力を手に入れたのは、神様の気まぐれにすぎない。
 偶然と言い換えてもいいかもしれない。
 俺の能力は万能だ。
 だが、万有感に溺れてしまえばどうなるのか。
 誓ってもいい。
 今の俺が本気を出せば、他のどんな存在であろうとも俺を無傷で止める事は出来ない。
 神でも魔王でも、この世界にそれ以上の存在が居ない事も知っている。
 言ってしまえば、その絶対すらも裁く力を手にれてしまっている。
 だから俺は絶対に間違える訳にはいかない。
 些細な間違いでも、俺がすることでとんでも無い事になりかねないからだ。
 今はまだいい、それでも1年も経てばステータスだけで俺は魔王クラスを片手間にあしらえる様になるだろう。


 だから俺は作るのだ。
 俺の間違いをただす事が出来る存在を。
 スキル〈スキル付与〉
 生物や非生物関係なく、一つに対して一つだけスキルを付与する事が出来る。
 俺は太古の魔法剣に検索を付与する。
 検索は俺の能力権限を第二位で持っている。
 それを俺が暴れた場合に止められるように、知識と感情を適切に持った存在が必要だった。
 それを考えると検索は平たく言えば全知だ。
 知識が偏ると言った事も無いし、性格は俺の今の願望が適応されるはずなので、まともではあるはずだ。


「スキル付与」


 俺の鍛冶工房が一瞬激しい光に包まれ、それが引いて行くと太古の魔法剣よりも装飾が豪華になった魔法剣に変化していた。


 鑑定結果は〈全知の魔法剣〉。
 種族は高次元生命体。
 レベルは恐怖の∞。
 性別は女性らしい。
 まあ俺の願望だから当たり前だよな。
 ステータスは装備時のみ攻撃力が500。
 他はゼロだった。
 装備時には検索の知識を攻撃力に変化させる、〈知力斬〉の。
 使い方は良く分からんが強そうだ。


「聞こえるか? 魔法剣」


『はい。ですが魔法剣と呼ばれるのは心外です』


「なら、なんて呼べばいいんだ?」


『そうですね……検索様とでも呼んでいただきましょうかね。若様』


「なんか若様とか呼んでる割に上からだな」


『若様の願望の結果ですが? 理解できませんか? 私は全知なので理解できていない事など無いですが。私はこの世界で一番知識が多いのは私だという自信があります』


「わかったよ検索様。俺の願望とか言われるとどうしようも無いしな」


『それでしたら若様、早く私にスキル人化の付与をお願いします。スキル付与を相乗進化させれば可能になるはずです』


「まあそれはおいおい考えるとする。だけど、なんでそんなスキルが必要なんだ?」


『若様、顔がニヤついていて気持ち悪いです』


「それはわかったよ。だから、どうして人化したいんだ?」


『そ……それは……若様が私を人としての思考に設定したからです』


「違うだろ? だから人化して、何がしたいんだって聞いてるんだ」


『若様が虐めを楽しむ変態だという事は感情を与えられる以前より知っています。ですが、身をもって体験すると非常に……うざいです』


「なあ、それじゃあお前は俺の事が嫌いなのか?」


『違います。私は若様の思考から生まれました。若様の事は誰よりも知っているつもりです。だから、若様を助けたいのです! 助ける為に人としての肉体を手に入れたいのです』


「ならさ、お前が俺を何処までも強くしてくれ」


『畏まりました。私が貴方様を救う為に』


「ああ、俺が何も間違えないようにしてくれ」


『はい。では若様、名前を付けていただけますか?』


「ああ、お前の名前は雫にする」


 彼女の全ては俺が作った。
 それには責任が伴うし、当たり前のように義務が生じる。
 だから俺は彼女に任せる仕事の分以上に彼女に感謝しなければならない。
 彼女も俺がこう考えている事を知っているだろう。
 雫は、俺に尽くしてくれる。
 だけど俺は、それに甘える訳には行かない。
 今この瞬間から雫は俺の大切な人だから。


『若様、これからよろしくお願いしますね』

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