異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから
十七話 ギルド長
クエストを終えたのは良いが、まだ昼間だ。
今は換金待ちなのだが、かなり時間がかかっている。
さて、これが終わったら何をした物か……
一人の時は呑気に冒険者のステータスを覗き見るなんてことも出来たんだが、いまとなっては家や家族と呼べる人が出来た。
今までののような気楽な生活を捨てる気は無いが、そのせいで大切な人を苦しめる気も全くない。
それに冒険者のステータス把握は終わってるしな。
十分の一になってるから、Bランクで平均二百程、Aランクは三百ほどだ。
Sは最高ランクなだけあって三百以下のステータスの人間は見た事がないが、転生者らしい奴は大体が三百に毛が生えた程度のステータスしか持っていなかった。
フィーナに聞いて見た所、転生者には最低限の身体能力と前世の記憶と言語理解の三つは必ず与えるらしい。
それが三百ぴったし。
まあ俺以外の奴は魔物を倒したってレベルが上がる訳でも無いし、例えば最強の魔法しか使ってないのだとすれば、身体能力が上がらないのも頷ける。
という事で換金を待っている時間はもうそろそろ終わるらしい。
これから何するか何にも考えてねえや。
まあ家でゴロゴロしてても誰も怒らないだろう。
うん、そうしよ。
漫画やアニメが見れればな~。
魔王の時空移動の知識を使って異世界物品の召喚とか出来ないかな。
「えっとシル様、聞いてましたか? 合計金額は金貨31枚です」
「あ、ああ聞いてたぞ。金貨31枚ね、それよりランクはどうなった?」
「聞いて無いじゃ無いですか…… その件でマスターからお話があるそうなのでついてきてくださいと言ったんです」
「そっかそっか、了解」
「それでは御三方、こちらへ」
ミーナに連れてこられた部屋の扉にはギルド長室と書かれていた。
どうやら、テンプレに激突するようだ。
まあ他の奴はどうか知らんが、俺については隠す事も無いし、適当にすまそ。
厳つそうなギルドマスターが出て来るのかと思いきや、奥の椅子に座っているのは真面目そうな男だった。
一応鑑定しとくか。
って、コイツ転生者じゃねえか。
最強の古武道を有している。
その派生なのか、気配察知や隠密のようなスキルを多量に持っている。
ギルドで見た他の転生者とは比較にならない強さだ。
平均ステータスも比較にならない。
身体能力も他の転生者と比べて高く、平均が千以上ある。
年齢は二十六才で年上だ。
筋肉なんて全く見えないのに、めっちゃ武闘派である。
「君がシルさんですか?」
「はい。俺がシルです。後ろの二人は付き添いのような物なので気にしないでください」
ギルドのロビーで待ってもらってもよかったのだが、何となく離れる気がしなかったので連れてきた。
それと相手が年上で礼節を持った対応をするので有れば、俺にもその程度の事は出来る。
根がガサツな訳では無いのだ。
多分。
まあ、うちのノルは元貴族らしいから、それをマルパクした口調で話せば問題無いだろう。
そもそも冒険者に敬語を求めてもいないだろうし。
「今回この部屋に来てもらったのランクアップさせるかどうかの最終確認を私が行うためです。私はここでギルド長をしているタナカというものです」
「そうですか」
偽名でも何でもなく普通にこの世界でも、この名前のようだ。
解り易くて結構。
「はい。それにあたり幾つか質問させて貰っても?」
「解りました」
「まず、貴方は転生者ですよね?」
「はい、そうです」
「……そうですか」
何かギルド長が狼狽えてる様に見える。
なんかしたか?
「申し訳ありません。この部屋に来た転生者は大体否定するか、同じ異世界人を見つけて安堵するかなので。私は今回もどちらかの反応かと……」
見極めなんてスキルを持ってるクセによく言う。
それともそういうスキルじゃなかったのか?
まあ、ばれてもまずい事が思いつかないしな。
俺だけが目立つ分には都合がいい。
アーカイブや魔王の事に関心が向かないようにする。
まあ調べて分かる事でもないと思うがな。
つーかもう黒髪に戻しちまっていいかな。
「私達転生者。いえ、少なくともこのギルドに所属している転生者の中ではこの世界の住人にはその事を漏らさないのが常識なので、今後お気を付けください」
「解った」
あれ、これ本当に俺の早とちりだったっぽいな。
まあいっか。
「それでは、Sランクへ昇格して頂きますね。ギルドカードをお渡しください」
「随分簡単なんですね」
「このギルドのトップが私になってからは、出来る限り同郷の方の願いは聞くようにしています。それに実力的に問題なさそうですので。実はBランクの依頼を四つ受けた程度では絶対にSにはなれませんよ」
「そうか、なら感謝しておきます」
「はい。それと昇格には関係ないですが、カードの書き換えが終わるまでの間、幾つか個人的にお伺いしても?」
「いいですよ。何でもお答えしますよ」
「まず、貴方の能力で世界の移動は出来ませんか?」
「転生者を元の世界に返すという事ですか?」
「はい。ギルドにはそれを望んでいる者もいます」
「申し訳ない。それは俺の能力ではどうしようも無いです」
事実だ、今のところ獲得可能スキル全てを見てもそのような事は出来ない。
転移魔法も世界は越えられない。
「そもそも、この世界に居るのは地球で死んだ人間ですよね。帰る事なんて可能なんですか?」
「異世界からの召喚魔法は存在します。返す魔法は見つかっていませんが」
「なるほど、そのような能力を女神に頼んだものがいるかもしれないって事ですね」
「はい。何か解ればあ伝えしますよ」
「それはありがたい」
俺は戻りたいとは思っていないがな。
「後、今度国中のSランク冒険者が集まって武闘大会のような催し事をするのですが、参加されますか?」
武闘大会、心躍る響きだ。
レベルアップも出来るかもだし。
レアスキルも見れるだろうし。
良い事尽くめなんじゃ無いだろうか。
「出ます!」
「「私も!」」
いやいや、どうした二人とも!?今まで黙ってたじゃん。
そんな戦闘狂キャラじゃなかったじゃん。
「い、いえ参加条件はSランク冒険者という事なので」
ほらタナカさんも引いてるよ。
「で、ですがパーティー戦の方は参加できますので、お二人はそちらなら出られますよ」
おお、そうなのか。
連携とか考えるか?
いや、魔王と女神の連携って何……
「それはそうと、お二人も転生者なのですか?」
「いえ、二人はこの世界で出会った仲間ですよ。転生者ではありません」
「そうですか、失礼しました」
失礼、なのか?
ちょっと常識が足りてない気がするな。
この世界でまともに会話した人数って二十人いないからしょうがない。
実際、俺がこの世界に来てまだ二週間経ってないからな。
「俺からも聞きたいんですが、その大会ギルド長も出るんですか?」
「出ますよ。私は一応シード枠で一回戦免除になっています」
ギルド長と適当に異世界談話に花を咲かせていると、直ぐにカードの更新が終わり俺たちは帰路についた。
勿論その話にレティとフィーナは口を挟めないでいた。
今度皆に地球の話でもしよう。
大会は二週間後に行われるらしい。
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