異世界に召喚されたのでさっさと問題を解決してから

水色の山葵

六話 転生者と冒険者



 お昼になるとミーナが袋を抱えて小走りでやって来た。
 報酬だろう。


「査定終わりましたよ。全部で金貨42枚です」


「おおー。結構な額になったな」


「決行なんてもんじゃありませんよ。大金ですよ!」


 いやだって最初から500枚持ってたから。
 要らないっちゃいらないし。
 まあ、この分なら老後とか真剣に悩まなくても済みそうだな。


「あのこの後って何しますか?」


「そうだな。昼飯だな」


「あ、まだ食べて無いんですね! 良かったらご一緒したいんですけど?」


 上目遣いである。
 正直あざとい。
 だが可愛い。
 断れん。


「いいぞ」


 胆力、ちゃんと仕事しろよ。
 いや、俺のせいですね。
 すんません。


「私はここでいいですけど。どこか案内してくれます?」


「すまんな。最近王都に来たばかりだから美味しい飯屋とか知らないんだ。デートしたいときは調べるから前もって言ってくれ」


「はい、解りました。じゃあ今日はここで手を打ちましょう」


「ああ。2人で出かける時は期待しといてくれ。美人受付嬢」


「美味いのか下手なのか良く分からない人ですね」


「そうか? 俺はモテるぞ?」


「そういう人はモテないんです。でもシル様はモテてそうな気がします」


「うむ。間違ってないな。早く座るといい」


「はい。お食事、御一緒出来て嬉しいです」


 俺とミーナの食事が来るまで適当な会話をした。
 2人分の食事が来ると食べ始めるのだが、正直言ってまずい。
 これは俺が革命を起こすしかないな。
 クックパットの知識もシステムには当然組み込まれている。
 汎用性は世界一の能力だと自負している。


「そういえば。朝来ていた黒髪黒目の冒険者って誰なんだ?」


「知らないんですか? 破壊魔法の使い手でルシア様です。この国で知らない人は居ない……と思ってたんですけど、ここに居ましたね」


「そうだな。正直知らない」


「3年ほど前に王都に現れて冒険者になった彼女は一年で冒険者ランクを最高のSに上げました。それからはこの国の王都でも一、二を争う冒険者です」


「へー。なら最強ってわけでも無いのか。じゃあルシアと一、二を争ってる冒険者ってのは誰なんだ?」


「そうですね。5年ほど前から世界的に見ても強力な冒険者が続出していまして。五年前は9人しかいなかったSランク冒険者は今300人近くいます。その人達の実力は私では判断できませんけど、皆さんお強いらしいですよ」


 なるほど。
 転生者として認知はされて無いが、強力な人間が出現したって事で一般的には転生者が認知されてるんだな。
 ってなるとミーナが俺と食事してんのもその強力な新人の可能性を危惧しての事か。
 つーかそんなに認知されてる転生者が多いのに魔物駆除に手間取ってるってのはどういう事なんだよ。
 激強の固体でもいんのか?
 戦ってみてえとも思えるが、もう少し自己強化してからだな。


「シル様? 知識が乏しいのもその強い人の特徴らしいですよ?」


 危惧ってよりか確信だったか。
 顔は美人でも腹黒だな、おい。
 まあ嫌いじゃないが。


「俺はまだまださ」


「登録して一日でランクを上げた人が何言ってるんですか」


「Eランクなんていくらでもいんだろ」


「違いますよ。今日の成績でBランクに昇格が決定しました。おめでとうございます」


 ミーナが拍手をしてくる。
 若干うざいが、俺がキレない事をわかってやってる。
 まあ可愛いは正義なので仕方が無い。
 女に乱暴したいなんて思った事も無いし。
 胆力のせいで変な欲情もわかないしな。
 ホント神スキルだわ~。


「ありがとう。さっきの強力な新人の話に戻るけどなんか特徴とか無いのか?」


「はい。比較的黒髪黒目の人物が多いと聞いています」


 やはり日本人を限定的に転生させているのか?
 まあ寝た時に聞けばいいか。


「じゃあ俺は金髪碧眼だから当てはまらないんじゃないか?」


「いえ、次点では金髪碧眼が一番多いですよ。人間の割合的にそういう人が多いだけかもしれませんけど」


 まあ、俺みたいに複合的な最強を持った奴なら最強の派生的に偽装の能力があっても不思議じゃない。
 ゲームキャラと同じ力とかな。
 そういう奴らは俺を含めて金髪碧眼にするって訳か。


「黒髪黒目は西の方の島国に多いと聞きますから、その国の方たちがこちらに流れて来て活躍していると言うのが共通認識ですね。何か特殊な訓練でもされているのでしょうか?」


「何で俺に聞くんだよ。俺は西の島国なんて行った事ねえぞ」


「いえいえ。もしかしたらと思っただけです。気にしないでください。今は食事を楽しみましょ」


「そうだな。美人さんと食事出来る機会もなかなか無いし」


「私の事はちゃんと名前で呼んでほしいんですけど」


「ごめんごめん」


「許しましょう」


 その日は魔物狩に出る気も起きなかったから宿に戻って昼下がりから寝床に着いた。
 女神さんとも喋りたかったしな。






「よお女神さん」


「あっ。もう来たんですか? 今日は早いですね」


「へえ。女神さんも今日なんて時間の流れで生活してんだ」


「貴方が毎日来るせいですよ。それよりこっち見ないでください」


 どうやら女神さんはお着換え中のようだ。
 まあ俺の取るべき行動は一つしかないよな。


「いやいや、紳士的な俺は女神さんのような美人が着替えてたらガン見するようにしてんの」


「恥ずかしいです」


「凄い楽しいです」


「最低ですね」


「眼福でございます」


「もう終わりましたよ」


「ちょっと待って着替えてるとこ良く見えなかったんだけど。もう一回着替えない?」


「意味が解りません」


「そっかそっかつれないなー」


「魚ではありませんので」


「それは流石に爺臭いっすよ女神さん」


「はあ。何か質問があるんじゃないのですか?」


「あれ、もしかして心読めちゃう系?」


「読みたくありませんよ。でも女神の加護の効果で私は貴方の動向を観察できるんです」


「へえー。って事は女神さんも俺に興味ある訳だ」


「あっ。いや……無いです! 早く要件を言いなさい。追い出しますよ」


「女神さん顔赤いよ?」


「知りません!」


「そろそろ女神さんを弄るのも飽きてきたし本題ね。転生してるのって日本人だけなの?」


「飽きてきたって貴方が始めたんでしょう。まあいいです、私の分身は千人程いますが日本だけでも一日で死んでいる人間の数は三千を越えます。世界中を処理するにはこの世界の管理を放棄しなければならなくなりますが、それでは本末転倒です。ですのでカルチャー的に異世界に順応できそうな日本からのみ転生者を選んでいます」


「サンキュー女神さん。それとさそろそろ名前知りたいんだけど。あ、俺はシルね」


「そういえば知らないのですよね。私の名前はシルフィーナです」


 なんか神々しい光が女神さんの後ろから見えた気がした。


「いや、今更神々しくなっても……」


「うるさいですね。要件が終わったのならさっさと帰って下さい」


「じゃあまた明日来るから」


「はい……」


「急に照れんなよ」


「その、また来るんですよね?」


「当然。じゃあ今度は笑顔で出迎えてくれよシルフィーナ」


 俺の夢はさめてしまったようだった。

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