道化の勇者、レベル1でも活躍したい

水色の山葵

懇親会(物理)



 懇親会とやらが始まったが、俺は姫様の見張りと言う大役があるため彼女から目を離す事は出来ない。しかし、懇親会というからには貴族の舞踏会のような物を想像していたがどうやら違うらしい。集められたのは訓練場だ。俺達勇者は壁際に6人固まっている。向こう側には他国の勇者と思える奴が3人見える。


「麻霧さん。どこを見ているのですか?」


 篠目に睨まれた。俺はテロ行為染みた事をしようとしている可能性のある姫様を見張っているだけだが、それを言う訳にはいかない。


「篠目さんには関係ないかな」


「そうですか」


 何故か怒ったようにそっぽを向かれた。どうやら王城から引き抜きたい俺が国の姫を見ているのは都合が良くないらしい。
 篠目にこれ以上の話を聞くのは無理そうなので、四ノ宮に質問をする。


「それで、どうしてこんな場所に集められたんだ?」


「君はそんな事も知らなかったのか」


「俺は興味のない事には興味はないんだ」


「それには同意だが、私はそこまで肝は座っていないよ」


 皮肉られたっぽい。さて、コミュニケーションと言う奴は難しいな。


「どうやら私達は他国の勇者と戦うらしいぞ」


「そりゃまたどうして」


「勇者の価値は戦闘能力だ。顔見せと言っても本当に顔を拝ませるだけだと本当に戦術級の戦力として扱えるのか疑問が残る。それを上手く伝える手段として他国の勇者と戦わせてみるらしいぞ」


 確かに、顔を見せるだけなら魔道具や魔法で済みそうな話だ。だが、勇者の価値を判断できないならそんな物には意味がない。だったら実際に戦ってるところを見せようって腹か。案外、王族や貴族は合理主義なのかもな。まあ、災害級の魔王を相手に余計な事を言ってる場合でもないだけか。


 話がひと段落した所で、国王が立ち上がり何やら喋り始める。来賓への挨拶、勇者の価値、最後に「今回の勇者召喚は成功だと確信している」という事を長々と語り着席した。
 今度は大臣が立ち上がり最初の組み合わせを発表する。相手は炎の勇者ルファ・テランテ。こっちは四ノ宮だ。


「それじゃあ行ってくる」


 悠々と笑いながら彼女は中央へ歩いていく。それは四ノ宮宮根の勝利を確信するには十分だった。








 ◇◇








 私は何故この世界へやって来たのだろうか。
 勇者は魔王への対抗策として召喚されたらしい。
 だが、人が生きる意味は一つしかない。私は私の為にこの命を使う。
 そして、私は何故この世界へやって来たのだろうか。


 この世界へきて最初に興味をそそったのはスキルだった。その中でも魔法はまだ解析可能だった。あれは空気中の魔素の性質変化コントロールを行っているに過ぎない。
 物理法則を完全に無視する幻想的な何かに思えた、けれど種が分かればそれは科学である。
 しかし、固有スキルとオリジナルスキルは理解不能である。あれは完全に法則を変質させている。


「炎の勇者。ルファ・テランテだ」


 律儀に名乗る他国の勇者。相良に似た雰囲気を見せる。


「異世界の勇者。四ノ宮宮根だ。今日はよろしく頼む」


「こちらこそ」


 この世界への知的好奇心は一旦忘れるとしよう。私は勇者で学者だ。魔法もスキルも現象でありその解析は完了している。
 戦闘準備を整える。と言っても武器を持つわけではない。スキルという筋力が無くても振り回せる即死武器があるのにそんな物を持つ必要がないからだ。


「四ノ宮殿も後衛型なのか?」


「この世界に来たばかりで前衛後衛というのが良く分からないが、多分そうなのだろうな」


 遠距離から攻撃できるかと問われれば可能だ。近距離からの攻撃も可能である。そして、両方が一般人なら即死級の威力を持つ。しかし、他国の勇者と言うからには彼もそれは同じだろう。少し卑怯だが、詳細生物鑑定を発動する。
 レベル9。スキルは『炎弾』1つだけ。この世界ではスキルは一人1つか二つ程度らしい。しかし、炎弾という奴は強力なスキルとは呼べない。あれは炎魔法の劣化スキルだと騎士が言っていた。しかし、相手は勇者だ何をしてくるか不明な状態で下手には動けない。


「ならば、打ち合おうか」


「そうだな」


 筋骨隆々な割に直接殴る訳ではないというギャップに驚きを隠せないが、見た目で人は測れないという事だろう。幾ら初心者と言ってもそう簡単に負けてやるつもりはない。私より年下のようだしな。


「『炎弾』」


 手の平を私に向け、一言つぶやいた瞬間、直径30センチ程度の炎が高速で放たれる。しかし、レベル3の動体視力をもってすれば回避は簡単だ。まあ、逃げ惑うのも芸がない。それに麻霧君に対して失った私の威厳も取り戻さねばならないからな。


「『炎弾』」


 形状。指向性。速度。温度。パラメータはこのくらいでいいか。魔法とは要するにプログラムだ。そのパラメータ設定を完璧に同じにすれば、彼の放った炎と全く同じ強さの炎を形成できる。私のスキル『刻印』は接触した物質に対して完全な支配権を得る事が出来る。それは粒子を知っていればそれを支配する事も可能だという事を示す。これは魔法スキルでないし、そもそも対外の魔力を使用しているので威力やスタミナが私の魔力スペックに依存しない。


 炎弾同しがぶつかり合い対消滅する。


「ほう。炎魔法か」


 違うが、やっている事は同じだ。わざわざ訂正する必要もない。


「では、これはどうだろうか『炎弾』」


 先程と同じようんい炎の玉が手の平に形成される。
 しかし、さっきと違って炎が手の平に収束する。まさにそれはレーザー銃の前段階のような。
 発射される。それは弾ではなく線として発射された高熱のレーザー。速度は先ほどの比ではない。
 しかし、私の思考速度は並みではなく。見たままをコピーするのに時間は必要ない。まったく同じ炎によるレーザーを発射する。別に私は彼と違い相手に手の平を向ける必要もない。胸の前で炎が収束し、またも対消滅が発生する。


「魔法発動速度も相当であるな」


「光栄だね」


「では、本気で行きましょう」


 どうやら、やっとお遊びは終わりらしい。


「『炎弾』」


 今度は同時に10の直系30cmの炎の玉が出現し、それがバラバラに飛ぶ。


 しかし、炎の玉はどれも私を狙って追いかけて来る。ホーミング性能有りか。


 どうせ私の敵ではない。同じ事を同じように返してやればいい。八方、いあや十方から迫りくる炎に対し同じ威力の炎を当て、対消滅させる。


「まだまだ! 『炎弾』!」


 今度はレーザーを同時に十本。更にホーミング効果も付いている。なるほど、どうやら彼と私のやっている事は同じらしい。結果と言う意味でも、方法という意味でも。しかし、恐らく彼はプログラムとかそんな制御をしている訳ではなく、感覚で制御しているのだろう。それが私と彼の差だ。


 弾数100。速度200m/s。温度1800度。形状レーザー。


 赤い10の光線。青い100の光線。それが衝突する。ルファ・テランテの顔は驚愕に染まる。


「一つ忠告をさせてもらう。炎のプログラムを使う度に編むなんてのは10が限界で当然だ。だから今度から炎弾を弄る時はショートカット登録をした方がいい」


「な、なにを言って!」


「後で教えるよ。それより、降参は?」


「する! 降参だ!」


 衝突後、無数の青い光線が突進する光景を目の当たりにして、彼に続行の意思はなかったようだ。
 不完全燃焼だな。もっと歯ごたえが欲しい物だ。
 しかし、直感でプログラムを編むというのは魔法スキルならともかく『炎を飛ばすだけのスキル』でできる物ではない筈なのだがな。実に面白いな。

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