道化の勇者、レベル1でも活躍したい
才ある凡人
僕は多分、凡人だ。だけどそれは傲慢で、僕には才能がありそれは誇るべきものだと彼らは言う。僕は勉強ができた。僕は運動が出来た。僕は空気を読めた。
そして、僕は自分に欠落した物に気が付く。確かに、テストで1位を取るのは難しい事ではない。だが、教科書に書かれたことを書き写す事にどれだけの意味があるのだろう。
100点まではとれる。だけどそれは、人が決めた理解できる範疇の枠組みでしかない。例えば人の決めた点数に捕らわれず120点を出す人間が出て来たとして、僕はそれでも天才と呼ばれるのだろうか。
そんなのは嫌だ。全てのテストで100点? そんなの120点を創造できる人間の劣化でしかなく、100点なんて個人で出す必要はこの世界にはない。解らなければ聞けばいい、調べる方法は豊富だ。
学校で必要だった事は何でもできた。知識と人望、それだけで僕の必要な物は揃え終わった。
多分、いい大学には入れるだろう。そのまま一般より多くの収入を得る事も可能だろう。だけど、人間とはそれでいいのだろうか。先生に教わった事を実践する。先生は先生の先生にそれを教わったのだろう。僕たちは一体何時まで同じ事を繰り返すのだろうか。
800年代後半からある高校教育はもう150年近く前から存在している事になる。つまり、僕らの勉学の基本は150年前のそれが基本となっている。いつまで続くのだろうか。
づっと繰り返される時代の中に僕は生きていて、何故か今と未来に差を感じていない。スマホはたった10年で日本人の70%まで普及し。今現在を見ても、この国は、世界は変わろうとしている。
なんで、みんなはサラリーマンになろうとしているのだろう。そもそも、何故10年後もサラリーマンになれると考えているのだろう。
例えばこの世界がいつの時代も変化せず、同じ事を繰り返す世界なら僕は紛れもなく天才だ。けれど、この世界はいつも進化してきた。アインシュタインにもエジソンにもニュートンにも僕はなれない。
僕は何も造り出せない。それでも、僕は天才と呼ばれるに値するのか? 物真似に意味はない。どんな物でも最初に創った奴が一番すごいんだ。
そんな時、僕は見た。
彼女の姿を。
とある剣道の試合。学校の体育館で僕は彼女と出会った。
相手は全国大会の常連校。こちらは人数もギリギリの寄せ集め。相手の先方にさえ誰一人勝つことはなく、大将が出ていく。その彼女も、相手選手に翻弄されるだけで、僕よりも剣道が下手な凡人だった。
しかし、彼女はあきらめる事無く、食い下がる。相手も味方も観客も全てが彼女の負けを悟る。それでも彼女だけは諦める事はせず、一歩でも深く、少しでも早く多く手を動かす。それでも、力量の差は歴然で、誰でもが彼女に期待など抱いていない。
多分、彼女自信がそれを一番深く自覚しているだろう。
少しの打ち合いで彼女には圧倒的な隙が出来た。反応さえさせないような高速の一刀。彼女の面に木刀が近づく。
しかしその瞬間、彼女は加速した。反応しただけではなく、彼女の動きそのものが一段速くなった。急加速した彼女の動きに相手選手は反応できず、彼女は一本を取り返した。
そのあと、次鋒で彼女は敗北した。
電流が走るような感覚を覚えた。彼女は今の一瞬で一段階上に上った。それは僕の求めた進化に他ならない。その瞬間、僕は多分彼女に惚れた。
告白したらすごく驚かれたけど彼女は了承してくれた。
僕は決めた。僕が天才になれないのなら天才の力になろうと。
「昴君はなんで私と付き合ったの?」
異世界に連れてこられて不安にでも駆られたのだろうか。そんな顔は君には似合わない。
「人間って奴は自分の持っていない物を持っている人間に惚れるものさ」
「私は昴君と違って勉強も苦手で友達も少なくて、全然可愛くもないよ?」
「いや、美沙音は僕には持っていない物を持っている。だから美沙音がそれを持っている内は頼まれても捨てないよ?」
「私が何を持ってるって言うの?」
「それは内緒だよ。その方が面白いから。それに、多分勇者の殆どは君みたいな天才だけど本物は君だけだから」
「分かんないよ」
「君が僕の物であるって自覚さえ持っていれば僕はそれでいい」
「私が良くないんだっつの」
「それより、今度のイベントはそこそこ楽しそうだから美沙音も準備しておいてよ?」
「すぐに話を逸らそうとする。けど、私にそんな事言うなら昴君だって私の物だって言う自覚持ってよ」
「当たり前だ。僕は君の駒だからさ」
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