道化の勇者、レベル1でも活躍したい
地獄旅行
「それで、なんで五人もいるんだ?」
篠目さんと四ノ宮さんと約束した時間。彼らは10時数十分前に俺の部屋の扉を開いた。他の勇者三人も連れて。
「いやだってー、私怖いし」
気色の悪い仕草と共にそんな事を言う四ノ宮宮根。黙れクソばばあ。
「ああん?」
「なんでもないですー」
この女、俺の顔から思考を読み取るスキルを有しているらしい。
「だから、迷惑だって言ったじゃないですか」
篠目麻耶は反対していたようだ。しかし、四ノ宮には逆らえなかったらしい。これが歳の差か。
「しかし、この場合悪いのは私ではなく、嘘を付いていた麻霧君だと思うのだが?」
くそ、反論できない。
「まあ、諦めてよ麻霧君。僕らも行くのはもう確定だよ」
真田昴。確かにこいつの言っている事は正しい。
今更、俺が駄々をこねても俺が転移する事は確定であり、俺が拒否したとしてもこいつ等に取り押さえられて試合終了だろう。
なら、黙って成り行きを見守った方が賢い。そもそも2人も五人も大して変わらん。
どっちにしろ、俺に他人を守るようなスキルは無いし、勇者のレベルがどの程度上がってるのかも気になる。技量って意味でな。
レベルは鑑定で判明している。篠目と四ノ宮が2で真田、相良、坂嶺の三人が3だ。本来は年に1も上がれば上出来なのだが、彼らは三日で上げている化け物共だ。
低い内のレベルアップはそれほど難しい問題でもないが、それにしても三日は早すぎる。
「それにしても、あれが全部嘘だったなんてね」
どうやら、俺の道化師はバレているらしいので今更発動させる気にもならない。
「お前の才能は人を騙す事なのかもしれないな」
坂嶺、相良が同じような反応を見せる。てか嘘はついてないって!! 一つしか……
「もうすぐ10時になるね」
壁にかけられた時計を見ると、残り数分だった。
「それじゃあ、俺の身体のどっかに触ってくれ」
そう言うと、みんな俺の服の一部を引っ張る。かなり暑苦しいが、すぐに終わると諦める。
時間が来た。一瞬に景色が変わり、俺達勇者全員が部屋から消えた。
「ここが地獄ねぇ?」
「暗くて何も見えないわ」
「僕の魔法で明かりを出そう。『ライト』」
「お、これでよく見えるな」
「ですが、レベル10越えの魔物が居る中でそれは危険なのでは?」
「いや、この辺りは俺のスキルで俺と俺の許可した人間以外は立ち入れないように法則を弄ってるから安全だ」
法則を弄る。うん、パワーワード過ぎて草。
「それが、麻霧君のオリジナルスキルなのかな?」
どうやら、四ノ宮は俺のスキルを全部ばらした訳ではないようだ。
「そうだな。それより、真田もオリジナルスキルを持ってるのか? 後、もう君はいらないぞ」
「そうか」
「麻霧、私達勇者はどうやら全員オリジナルスキルを持っているようだぞ?」
あんたには行ってねえよ、ばば……なんでもないです。顔に出てないのに気が付かれた。
にしても全員オリジナルスキルを持っているってのは可笑しい。勇者でもオリジナルスキルを持っているのはその代に一人程度だったはずだ。本で読んだ知識と食い違う。
俺達を選定したのは時空神の加護って名前から複数名の上位存在だと予測できる。それで、全員にオリジナルスキルを渡してるって事は、今回の魔王はそれほどヤバイって事か?
それとも他にその要因があるのか。
そこで思考を打ち切る。これ以上は予想にしかならないので意味がない。
「全員、オリジナルスキルを持ってるか…… なら隠しても仕方ないか。俺のオリジナルスキルは『幻想召喚』と『時空神の加護』の二つだ。だから、他の奴もスキルを教えてくれ!」
こんな場所まで来たんだ、もう隠してったって邪魔になるだけ。死亡理由:連携不足なんてのは御免だ。
どうやらスキルを隠したい奴はいないらしく、全員のオリジナルスキルと固有スキルが出そろった。
俺:固有スキル 言語理解 勇者の加護 無機物再生 強制転移夜獄 レベルストップ 永続行動
オリジナルスキル 幻想世界 時空神の加護
真田昴:固有スキル 言語理解 勇者の加護 模倣
オリジナルスキル 真価
坂嶺美沙音:固有スキル 言語理解 勇者の加護 神経加速
オリジナルスキル 神速
篠目麻耶:固有スキル 言語理解 勇者の加護 単語感知
オリジナルスキル 読切
相良豹麻:固有スキル 言語理解 勇者の加護 不動盾
オリジナルスキル 無効
四ノ宮宮根:固有スキル 言語理解 勇者の加護 刻印
オリジナルスキル 再生
通常スキルは量が多いのでので割愛した。それにしても強力な能力のオンパレードだ。オリジナルスキルはマジでヤバイ。俺の幻想世界が特別強いのかとも思っていたがそんな事は微塵も無かった。
真田昴の『真価』は無機物に限りそのランクを強制的にSに引き上げる効果がある。
坂嶺美沙音の『神速』は観測したあらゆる生物の速度と同じ速度で移動出来るというチートだ。見た中で一番素早い生物の移動速度をトレースできる。
篠目麻耶の能力『読切』は発動した時に視界内にある情報を一瞬で理解する事が出来る。特に再使用時間も存在しないらしく戦闘中に連続で使用する事で相手の凄き全てを文字通り読み切る事が出来る。
相良豹麻の『無効』は発動から最大1分間、全ての外的要因を無効化する。再使用時間は3分と長くはあるが、その一分間は無敵になる事が出来る能力だ。
四ノ宮宮根の能力『再生』は一見回復能力のようにも思えるが、無機物有機物全てに対して有効で生物に触れる事で相手を赤子に戻したり、剣をインゴットに変化させる事も出来る。発動条件は触れるだけ。一撃で相手を無力化できるのだから文句なしでチートだろう。
てか、五人ともチート過ぎてやばい。
「それで、これからどうするんだ? ここにこもっているだけじゃここに来た意味がないぞ?」
「相良さん、ここの生物は全部レベル10以上の性能を持ってる。今の俺達じゃ全滅がオチだ!」
俺は正直、この場所から誰一人として動いてほしくない。この範囲内からレベル10の化け物を観測してそれで終わりでいいんだ。
そうすればこいつ等だってこんな場所に好き好んで来たいなんて言い出さないだろう。
「いや、そうでもないかもしれんぞ?」
四ノ宮がニヤニヤしながら、そんな事を言ってきた。
「麻霧は知らないかもしれないが、ここに居る勇者は例外なくレベル7の騎士を1対1で倒しているんだからな」
「は!?」
いやいや、俺の鑑定でこいつらのレベルが2か3って事は解ってる。
幾らスキルがチートだからってレベル7の騎士に勝てる理由にはならないだろう。
いや、可能だからこそ勇者に選ばれ、全員がオリジナルスキルを持っているのか?
それに俺だって幻想世界でレベル10以上の熊を一匹殺している。あの圧倒的なスキルの能力を思い出すとそんな事も不可能ではないような気がする。
「じゃあ、とりあえず詳細生物鑑定で近づいてきた奴の能力を見てから決めよう」
「了解した」
相良の短い答えと共に、方針が決定された。俺は何時でも幻想召喚の発動が可能なように準備しておく。
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