道化の勇者、レベル1でも活躍したい
俺達の戦いはこれからだ(本気で)
「まず、第一に何故勇者に対してまで信用を欠く行為をする?」
尋問の開始である。さて、勝利条件と敗北条件を確認しよう。目的意識に欠ける人間は無能と呼ばれる人間に分類されるから。
勝利条件、つまり俺にとって最良の状態はこの2人から信用を勝ち取り、敵対的行動をとらせない事。更に、協力関係を築き詳細鑑定能力で得た情報をリークしてくれるような関係を築く事。
逆に敗北条件は敵対的に思われた挙句、あらゆる面で足を引っ張られる事。
俺の情報を流し過ぎても減点だ。神との会話はともかく、俺の最終目標について知られるわけにはいかない。
それに、この世界の知識にも言っていい物と悪い物がある。階級なんかの話はするわけにはいかない。
要するに、いつもと同じか。情報を渡さずに情報を得る。
その才、次の情報元になりうるように良好的な関係を築く。信用を得ればいいのだ。
「スキルの実験ですよ。道化師がどんな物は解らなかったので。それに思慮深い人間が身近に居るのは不安でしょ? まあ、あまり意味は無かったようですけど。どうして俺の道化に気が付いたんですか?」
スキルを可視化できるとしても、俺が道化師を使用している可能性は五分だろう。多少あほくさかったとしても、それが本音である可能性もあったはずだ。
「そもそも、あんなに頭の悪そうなやつが道化師なんてスキルを選択する意味がないだろう?」
あ、確かに。あの性格の奴なら戦闘系スキルで統一とかしそうだ。俺のミスだな。第二王女が言っていたのはこういう矛盾点の事か。
「はあ。確かにそうですね……」
道化師はどう言ったって俺が言いたいことを喋っている事には変わりない。
なら、自分として俺の言葉を喋っている癖に言い方は俺ではないのだ。そりゃ矛盾が生じるだろう。
俺自身の思考を道化に寄せて喋る必要があるか。今度誰か、それっぽい奴をトレースしてみるか。
「じゃあ、黒峰さんは勇者に対して害意がある訳ではないんですね?」
「そうだよ篠目さん。さっきはホントにごめんね? あと麻霧でいいよ」
「それはもういいです。でしたら、麻霧さんのスキルの数について質問させて頂いてもいいですか?」
「大丈夫だよ。俺のスキルはあの爺さんから貰ったのはみんなと変わらない。けど、ちょっとあの爺さんをだまくらかして倍の量のスキルを貰ったのさ」
「騙した?」
「ああ。爺さんが五つだけ質問していいとか言ったから、詳細は省くけどそれを逆手にとって俺のスキルの数を増やしてもらった」
うん、あれは別に言うような事でもないだろう。正直、賭けだったし。
「あの神様的な人にそんな要求が出来たんですか?」
神様『的』な人て。そんな事言っていいのか? 多分、色々見られてるぞ。あれはそう言う存在だ。プライバシーとかそんな概念もってないだろう。
「まあ、そう言う理由で俺のスキルは多いんだよ。まあ、予想は付くと思うけど呪いみたいなもんだから」
「ああ、やはりレベルストップとかはそう言う意味だったんだな」
「そうです。レベルストップはそのままレベルが1で固定されます。強制転移夜獄は10時になると夜獄に転移させられて朝六時くらいまで帰ってこれません」
「夜獄?」
「そうです。平均レベル10以上の化け物の巣窟ですよ」
平均レベル10以上。その異常さが伝わったのか、二人とも一気に青ざめる。
「なあ麻耶君、確か王の側近の騎士でもレベルは……」
「はい、宮根さん。黒と白の騎士は共にレベルは7でした」
「そう。レベルは1レベルにつき身体能力が前のレベルの1.5倍される。つまり最低57倍だ」
「57倍……」
「そんな場所で麻霧さんは一人で戦っていたのですか?」
「まあ、そうなるな」
「そんな。それなのに、私は麻霧さんに疑いの目を向けて」
「いや、それは俺自身が招いた種だよ。今の話だって必要だったからしたに過ぎない。別に俺は不幸自慢がしたいとかじゃなくて単純に勇者との敵対を避けたかっただけだから」
「それにしたって……」
はぁ。道化師を発動する。
「じゃああんたが変わってくれるか? この世界の転移は接触してる奴も連れてけるらしいぞ? あんたも俺と一緒に平均レベル10以上の化け物共の住まう地獄に落ちてくれるか!?」
少し熱くなった。と言うか普通に失礼かもしれないな。
けれど、この2人という確実に人類最高戦力に足りえる勇者をこんな俺の為に失うわけにはいかない。
ここまで言えば一緒に来る可能性なんて残ってないだろう。
「行きます!」
「え?」
「私も麻霧さんと同じ苦痛を味わいたいです。共感したいです。仲間になりたいです。私は私の勝手な感想で貴方の事を何も知らない状況で貴方を疑いました。ですが、私の単語感知で貴方が『悪人』でない事は解っていたのです。なのに、それすらも私は貴方のスキルなのではないかなんて的外れな可能性を考えて……私は大馬鹿者です!」
なんだろう。メンヘラとかヤンデレとかいうのに絡まれた気分。というかドエムかなんかですか?
「いやいや。そもそも、何度も言うけどあれは俺が撒いた種であって篠目さんが気にするような事じゃないし、俺に付いてくるっつても危険があるだけで意味なんてないようなもんだぞ?」
「はい。足手まといにならないよう心がけます」
「いや、そういう問題じゃなくて!」
「どうやら。もう何を言っても無駄のようだぞ?」
「四ノ宮さんも止めてくれ。篠目さんが行っても何のメリットも無いってわかってるんだろ!?」
「そうか? 私は君が居れば彼女は死なないと思っているよ。君とて彼女をここで失う危険性は分かっているだろ? なら君は麻耶君を守るはずだ。それなら何の心配もないし、彼女が強くなる事も出来るだろう。一石二鳥だな」
「なんで俺が篠目さんを守り切れるって確定できる!?」
「私は。あの爺さんに1つも質問しなかった」
「は?」
今はそんな話はしていない。
「まあ聞け。普通に考えれば上限まで質問するのが最良の選択肢だ。しかし、私は質問しなかった、出来なかったんだよ。あの爺さんの異常性と溢れるプレッシャーに押されて、緊張で吐きそうだった。だからあの御仁からスキルを奪い取れる程に力のある君を尊敬する」
「だから、それはレベル10の脅威に対して意味がある物じゃないだろうが!」
「だったら、なんで君は今生きている? レベル10の怪物相手に何故16時間も生き残っている?」
「それはスキルが……」
ここで口を紡ぐ。これは言っていい情報ではない。
「いくら有用なスキルでも、それを使い熟せなければ無意味だ。それに音速に近い性能の怪物相手にスキルがどうとか言う理由でレベル1の人間が歯向かえる物なのかな?」
それだって、あの熊が悠長だったからに他ならない。俺の実力とは何の関係もないし根拠にもならない。しかし、多分それを言っても躱されるだけだろう。だったら考えろ。
勝利条件と敗北条件を変更。
勝利条件は二人を死なせない事、そして俺の能力を極力バラさない事。敗北条件は二人が夜獄で死ぬこと。俺の能力の詳細が露見する事。
特に幻想世界と時空神の加護は強力過ぎる能力だ。それを知られる事はいらぬ警戒心を植え付ける事となる。
「分かったよ。それなら一度俺と一緒に行ってみよう。それで暇な時はまた手伝ってくれ。ただ俺と違って二人は不眠って訳にはいかないんだから今日は無しだ。足手纏いは勘弁してほしい。明日、昼間に眠ってから行こう」
「はい。解りました」
「ああ、麻霧君。当然私も行くのでよろしく頼む」
いや、あんたも来るんかい。
いやけどまあ、勇者一同は俺と同じ世界の住人で、それだけでそこそこ信頼を置ける人達だ。
だから敵対したくないし、協力したいと思っている。
それに夜獄には安全地帯を設けているし、いざとなったら短距離転移で逃げられる。保険は十分にある状況なのだから、以外といい練習場所になるのかもしれない。
まあやばそうなら止めさせればいいだけの話だ。
この時の俺はそう考えていたのだ。後で後悔するとも知らずに。
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