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戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と模倣でお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

帰ってくる場所



 フランスで起こった大量のモンスターがダンジョンからあふれ出てきた事件は解決した。セバスさんの持っていた天道というユニークスキルによって操られたモンスターが溢れてきたというのがフランスと日本の見解だった。
 しかし、あのスキルに本当にそれほどの能力があったのか僕は疑問に思う。
 フランスにあふれ出たモンスターの総数は500以上と推測された。しかしたった一人の魔力量でそんな事が本当にできるのだろうか。


 あの悪魔は全く口を割らなかった。自分の主の事、自分自身の事、そしてセバスさんの事。言いたくても話せないのだと思われる。誰かに召喚されたと言っていたが、そいつがこの悪魔にそう命令しているのだろう。
 かなり用心深い人物だ。


 そして、セバスさんの言葉から出た天道という日本語。ステータスの文字はこの世界に存在しない言語だが、誰でも理解することができる。それはつまり、自分の使用する言語に変換されるという意味だ。
 つまり、フランス人であるセバスさんが日本語のスキルを持つのはおかしい。
 まるで、誰かにそのスキルを渡されたかのようだったと寧さんは言っていた。
 そして、それは恐らく日本人。


 そうだな。そろそろ、ちゃんと見なければいけない。
 椎名寧と九重斎を手中に収めようとし、ダンジョンの出現という今までにない規模での怪異の脅威に何故か全く反応を示さず、国の命令さえ無視できる存在。いや集団と言うべきか。


 一ノ瀬家。


 別に、今までそれから目を背けてきた訳じゃない。ただ、直近の脅威が無かったから放置しただけ。
 斎さんの問題はダンジョンに移住する事でほぼ解決しているし、寧さんの問題も寧さんがこのまま順調に実力を伸ばしていけば解決する問題だと考えられたから。
 僕に対して脅威となり得ないのであれば無視してもよかった。


 しかし、まさか古くから日本の裏の世界を統べる陰陽師の家が悪魔なんて代物を従えているとは。


 今まで、野放しにしてきた訳じゃない。日本政府が頼れなかったから別の国に依頼をしただけ。
 一ノ瀬家を調べてほしいと。


「それで、このメンツという訳なの? ミスターアンノウン」


「僕としては君に直に報告するのは吝かではないけど、まさか別の国にも頼んでいたんだね」


「徹さん、何故、この三人を集めたんですか?」


 ホテルの一室。一泊するのに6桁の金額がかかる一部屋に四人の人物が居た。
 一人目は僕。そしてアメリカの探索者、オリビア・ドラゴニア。更にフランスの騎士王、アーサス・ペンディアス。そして最後に、正式に僕のパートナーになった椎名寧。
 寧さんの実力はこの数ヶ月で飛躍的に向上した。安倍晴明の能力の完全使用、付与術の極致へ至った事、そして僕と似て非なる力、抱く理想を自身にエンチャントする事で能力を飛躍的に向上させる魔法。
 彼女自身が僕へ僕の隣に立ちたいと述べてくれた。一度は決別したが、彼女の意思はもう崩れる事はないだろう。ダンジョンでの経験は彼女の精神面にもかなり良い影響を与えたのだろう。


「アメリカとフランスには一ノ瀬家について調べてもらっていたんだよ。この件については日本は頼りにならないからね」


「な、なるほど。フランスダンジョンの大暴走についても一ノ瀬家が関わっている可能性がありますしね」


 そうだ。一番の問題はそれだ。もしも、ダンジョンを利用してフランスの滅亡なんて企んでいたとしたら、そう考えるとこのまま野放しにして置くわけにはいかない。


「結論から言わせてもらうよ、セバスと共に居たフードの男から得た情報でいえばセバスが一ノ瀬家と関わっている事は間違いないよ」


 アーサスの言葉で決定した。一ノ瀬家は黒だと。


「詳細を聞く前にアメリカからもいいかな? 一ノ瀬家って日本の退魔業の全てを牛耳ってはいるけど、仕事をしているのはその分家とか野良の退魔師だけで、本家の人間はどうやら仲介をしているだけの様だわ。そして今回のフランスのような事件はダンジョンが出現する前から幾つか起こってる。私が調べた限りでは、幾つかの戦争に彼らが関わってる事が分かったわ。そもそも、アメリカはここ300年位で世界に起こっている戦争について疑問が幾つかあったの。国トップが、まるで悪魔に取りつかれたように全く逆の意見を言う様になって戦争が起こったり。温厚だったはずの国の住民が、誰かに操られるようにテロ行為を繰り返す様になったり。調べた結果、その全てに一ノ瀬家とやらが関わっている事が分かったわ」


「ひっ……」


 言葉にならないという表情で寧さんが悲鳴を漏らす。凍てついた空間で、オリビアさんがため息を吐く音だけが聞こえた。
 流石アメリカと言うべきなのか。そこまで調べ上げてくれるとは。


 一ノ瀬家の業の深さがそこまでだとは。世界で戦争を起こす。それに何の意味があるというのか。


「少なくとも、一ノ瀬は家がらみで世界の敵をやってる訳だ。そこにどんな意思があるのか知らないけど、少なくともフランスは喧嘩を売られてるんだ。黙ってる訳にはいかないよ」


「アメリカも、もしも君がそこと喧嘩するならお姉さんを筆頭に、色々を協力してあげるわ。私の国は紛いなりにも世界の警察とか名乗っちゃってるしね」


「私も、徹さんにばかりご迷惑をかける訳にはいきません。私も戦います!」


「まあ、少なくとも今のすぐに戦争する訳じゃないから。けど、そうですね少し僕の方でも調べてみます。残党とか残したくないし、いつでも動けるように準備しておいてもらえるとありがたい」


「ああ、分かった」


「了解したわ」


 そう言って二人は帰った。














「それで、寧さんは人を殺せる?」


 僕は、今更ダンジョンに入ってもないような人間に負けるとは思っていない。それが戦争屋のようなことをしている集団だったとしても少し魔法を扱える程度の人間が、僕を止められるとは思えない。
 けど、今回の戦いはそういう戦いじゃない。


「相手はダンジョンのモンスターじゃない。僕や君と同じ、人間だ。その命を君は消せる?」


 寧さんは俯く。それは絶望している訳でも現実を知って挫折しようとしている訳でもない。そんなのは、そんな事をする時間は彼女もっとずっと前に終わっている。
 彼女は考えているのだ。思考を巡らせ何かを考えている。


「私は人を殺せませんし、殺すつもりもありません。全員捕まえて然るべき場所へ突き出したい」


「日本に彼らを裁ける場所はないよ」


「はい。だから、今回は彼らのルールで行こうと思います」


「彼らのルール?」


「はい。一ノ瀬家はフランスで王女を操り、国家転覆を目論んだ。だから、今回は一ノ瀬家を転覆させる。私は、一ノ瀬家を乗っ取ります。これからの裏のルールは私が決めます」


「ふっ」


「なっ、なんで笑うんですか?」


「いや、いいと思うよ。そうだね、君にはその能力があると僕も思う。君がこの世界を見守ってくれるなら僕も安心だ」


 そう言った瞬間、寧さんの顔色が変わる。今までに見せていた自身のある表情ではなく、まるで捨てられる直前の子供のような不安な表情。


「やっぱり、徹さんは向こうの世界へ行くんですか?」


「なっ、どこでその話を」


「外務大臣からメールで聞きました」


 はぁ? 何やってるんだあのおっさん。いや、寧さんには伝わっていると勝手に思ったのかもしれないか。


「そっか。そう、僕は向こうの世界へ行くよ。そうしなければ結局危機は何も解決しないのだから」


「私を連れて行ってはくれないんですか!? やはり、私では力不足ですか? なんだってします。私は貴方を守りたいんです。徹さんと、貴方と同じ場所に立っていたいんです!」


 溢れている涙が彼女の言葉がどれほど本気かを告げている。
 けど、


「ダメだよ」


「いや……嫌です!」


「君とパーティーを組むのはこの世界での話だ。じゃないと、この世界を僕が帰ってくる場所を誰に預ければいいんだい、君以外の」


「それって……」


 涙が零れ続けるその瞳を僕に向ける。


「ああ、僕が帰ってきたらまた一緒に冒険してほしい」


「帰ってこれるか分からないじゃないですか」


「僕が死ぬと思ってるのかい?」


「……その言い方はずるいです。思ってないって言うしかないじゃないですか」


「あはは、ごめんね。けど、僕は戻ってくるよ。向こうの世界を探索してからね。そしたら、その次は僕と一緒に向こうの世界へ行ってくれ」

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