戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と模倣でお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

龍神1



 城の内部は外と比べて全くと言っていい程に音が無かった。


「まるで、誰もいないような」


 と、神道翔がつぶやくと、それをオリビア・ドラゴニアが否定した。


「確かに、この城の中には私の感知に引っかかる存在は一体しかいない。けど、その一体の魔力や生命力は今までのボスを軽々と超えているわ」


 それは僕も感じていた事だ。この城に入るよりもまえ、この島に上陸した瞬間に寒気が走った。間違いなくここにいるのは、今まで戦ったこともないような強敵だろう。


 少し進むと、大きな門があった。それは鳥居のような形をしていて横に開く襖のような形状になっている。しかし、サイズは普通の襖の数倍から十数倍ある。まるでこの先に10m以上の高さを持つような存在でもいるのだろうか。


「どうしましょうか?」


 九重斎が不安そうな目で問いかける。今までのボスクラスを見て平静を保てというのは無理な話かもしれない。そして、不安なのは彼だけではない。ここにいる全員が怖気づいている。誰も言葉を発しない。
 俯いてしまう。今まで中ボスですら僕以外は戦力外だったんだ。そもそも彼等を連れてくる意味合いは僕の魔力消費を抑えるという意味合いでしか機能していない。
 この中にいるであろうボスモンスターに対抗できるのも僕だけ。なら僕に判断が委ねられるのは自然な事なのかもしれない。




 どうしたい?


 さぁね。好きにしな。




 も不安そうだ。こいつがこんなにはっきりしない言葉を吐くのは初めてかもしれない。
 自信が無いわけではないだろう。勝てるとは思っているはずだ。だが、それは犠牲を考慮しなければの場合に限られる。


「はあ、しょうがないね」


 僕は無限収納に仕舞っていた在る物を取り出す。日本ダンジョンとアメリカダンジョンで手に入れた物で、両方とも49階層のボスからドロップした物だ。それは僕には扱えないが、扱える者が扱えば絶大な威力を宿す者。


 聖剣・カリバーン
 聖典・ギフト


 それは、聖剣適合者のユニークスキルを持つ人間にしか扱えない剣であり、それは聖典適合者を持つ存在しか扱えない本だ。
 聖剣は翔くんに、そして聖典は寧さんに。寧さんは聖典適合者なんてユニークスキルは持っていないが人格付与で安倍晴明を付与されて確信した、安倍晴明は聖典適合者のユニークスキル持ちだ。


 そして他にも使えそうな武具を取り出していく。


 不死王のローブ。それは使役対象の耐久力を飛躍的に高めるという効果の装備だ。
 龍槍・逆鱗丸。それは魔力を集中させる事で龍のブレスを彷彿とさせる高出力ビームを発動させる槍と小太刀の二対一体の武器。
 次元刀・雷切。簡易的な短距離転移スキルを使用者に与える刀。それは正しく雷の如き怒涛の攻撃を可能とする。
 泉の杖。魔力回復と体力回復を非常に高い効果で合わせ持ち、補助魔法の範囲拡大を可能とする杖。
 吸魔の籠手。籠手に触れた魔力を吸収し、魔力回復速度を飛躍的に上昇させ、更に自分の魔力を籠手に蓄える事で強烈なマナバーストを発生させる。その一撃は属性魔法と比べれば範囲に劣る物の一点の破壊力だけで見れば他属性の追随を許さない。


 そして、スキルスクロール。これも49階層のボスからドロップした物で二つしかないが、翔くんと寧さんに渡す。
 そのスキルは【一の権能】。つまり、敵が使用するスキル無効化を貫通し、スキルを干渉させる事ができるスキル。
 これは普通のスキルスクロールと違い、ユニークスキルを習得するスキルスクロールだ。僕もこんなものは初めて見たが、僕には無効化魔法があるので彼らにこれを習得させる。


「戦おう」


 僕はそれだけ呟いた。
 僕の出した武具やスクロールに驚いていた彼らは遂に決心を固めたようだ。皆装備効果を鑑定し、装備を装着していく。
 寧さんと水島姫乃による補助魔法での全体強化。九重斎は百鬼夜行によってなんと酒吞童子とがしゃ髑髏を召喚した。


「この二体を召喚してしまうと、召喚のキャパシティが一杯になって5時間はこれ以外の魔物を召喚できません」


 そして翔君と工藤伸は剣を手になじませるように振っている。武器に秘められた能力の確認もだ。


「これが、聖剣か……」


「転移した直後の戦況把握が重要だな」


 雅花蓮は籠手に魔力を溜めて、僕が渡したポーションを呑んでまた溜めるを繰り返している。ポーションにも使用制限があるので限界まで溜めるつもりだろう。僕も魔力譲渡で協力しておく。


「っ? ありがと」


 一瞬驚いたような顔をした彼女は、僕がやった事だとすぐに気が付き礼を言った。


 オリビア・ドラゴニアは彼等とは違い武器の確認はしている物の、覇気がない。なまじ感知能力に優れているというのも考えものだな。


「どうしましたか?」


「怖いの。この先にいる何かが」


 蛇に魚ときたら、最後はあれだろう。もしも本当にこの扉の奥にあれが居るのなら、オリビアさんが本能的に怖がるのも解る気がする。
 と、物思いにふけっているとオリビアさんがジッとこちらを見ていた。


「何ですか?」


「ああ、いえ、別に初めての経験って訳じゃなかったなと思っただけよ」


 何故か、そのオリビアさんは今までの俯いた表情から回復していた。何か彼女の中で心境の変化があったのかもしれない。




「そんじゃあ、行くぞお前ら!!」


 は怒気を高めるように声を張り上げる。最終決戦だ。攻略難易度レベル100、面白れえじゃねえか。


 扉を開けた瞬間、感じたのは肌寒さだった。その中は、大きな階段と鳥居が立っていて、その先に見えるのはひとつの祠。更に天井は存在せず、すっかりと暗くなった空からは夜風が肌を撫でていった。
 感知スキル全力起動。


「上だ!!」


 俺の声と共に皆が上を向く。最初に動いたのは雅花蓮だ。


「マナバースト、解放!」


 俺はその魔力に無効化魔法を付与する。バシッっと凡そ自然発生する音とは比べ物にならない程の音量が発生する。そこには顔面を弾かれ、尚も悠々自適に浮遊する白い龍の姿が見えていた。


「聖剣解放!」


「聖典解放……」


 神道翔は声高らかに聖剣を鞘から抜き放つ。その瞬間、聖剣は今までの黄金の魔力とは比べ物にならない程の光量で輝いた。そこに込められた威力が今までの黄金の魔法とは全く別格の強さを誇る事は誰の目からも明らかだろう。


 椎名寧は呟くように本を開く。その面影からはいつもの彼女の表情はうかがえなかった。まるで彼女が彼女ではないようで。そして、それは事実なのだろう。彼女の能力である降霊術によって、今彼女の身体は完全に安倍晴明の物となっている。
 そして流れるように、まるで何度も開いたことがあるように一つのページを開いた。


「ブレイブオーラ」


「浄化の光:付与」


 ブレイブオーラは黄金の光を身体全体に纏う事で身体能力を飛躍的に向上させ、何よりも触れるだけで異形を消滅させる効果をもたらす圧倒的な攻撃力を手に入れる能力だ。
 浄化の光もおおむね、ブレイブオーラと違いはないが、こちらは付与術、そして対象は神道翔だ。二重に付与された黄金の光は更にその光量を増した。


「ブレイブブレード」


 念じるように、神道翔はその言葉を口に出す。そして、体を覆っていた全ての光が剣へと集約された。


「剛力、流水、早業、風脚」


 四つの強化魔法によって更に翔のステータスが上昇する。
 聖剣を上段に振り上げた。その切っ先は天を向き、それが振り下ろされた先にいるのはまるで虫の足掻きでも見るように佇んでいる白龍。


 聖剣が振り下ろされる。瞬間、白龍が黄金の光に飲まれた。剣筋をなぞる様に放出された光は浄化の光。今までは全ての異形を消滅させてきた一撃。一の権能の能力は一の権能を持つ二人の前では無力だ。
 期待はあった。しかし、それでも闇夜を照らす光が止むのと同時に、まるでその攻撃を嘲笑うかの如く龍はただ佇んていた。


「そんな……」


 神道翔絶望の表情を浮かべる。今のが正真正銘最強の一撃だったのだろう。
 そして、今までただ見ていただけの白龍も動き出した。その動きは非常に遅く、まるで遊んでいるかのようだった。


 白龍が天を向くと、いきなり雷雲が発生した。
 ヤバい。


「バリア!」


「マナバリア!」


「氷壁!」


 全部の魔法に無効化魔法をエンチャントするが、俺の感がそれだけじゃ防げねえって言っている。
 嵐の加護と神聖の加護を起動。この魔法は対象のダメージを一定量まで吸収し無効化する。そして、当然無効化魔法を付与だ。


 バリバリバリ!!っと幾つもの雷が俺たちの頭上から降ってくる。その速度は音速を越えていて回避するなんてできようはずもない。ただ、誰もダメージは受けていないようだった。




 ヤバい。無効化魔法を使い過ぎだ。魔力が足りない。


 解ってる!




 俺は空の妖刀を強く握る。工藤伸が次元刀・雷切による転移で白龍の懐まで一気に移動する。
 俺もそれに合わせて天狐で加速して接近する。百鬼夜行によって召喚された酒吞童子は俺と同じく天剣流剣術である天狐を習得している。左右から挟み込む。


「鏡花水月」


 安倍晴明のその魔法によって俺に掛かっていた重力やら風圧やらの力が無効化される。


「飛翔剣!」


 無効化魔法を付与するが、ダメージを与えられているようには見えない。


「天舞」


 空中から回転するように刀を振るい、幾重にも切り付ける技。それを左右から酒吞童子と同じタイミングで発動する。無効化魔法を翔と寧以外の全員の全ての攻撃に付与するとなるとやはり魔力が足りないが、それをしなければ攻撃する意味がない。
 付与。


 酒吞童子は5m以上の体格を持つ鬼で、その太刀もそれに見合うだけのサイズを持っている。それが天舞を使えば、ダメージも入るかと思ったが、なんと鱗に弾かれた。金属音のようなものが幾つか響いただけで終わる。


ッチ。


 今度は白龍がうねる。そして天候が雨に変わった。そこから降ってくる雨はまるで矢の如き貫通力を持っていて、人間の身体なんて簡単に貫通するだろう。
 受ける訳にはいかない。風魔法で吹き飛ばす。豪風を発生させ、横向きの風によって雨を俺たちからそらす。少し隣の地面が穴だらけになった。


 なんとか凌いではいるがこちらはじり貧。向こうは対して防御姿勢も取ってないのに無傷と来た。
 魔力も心許ない。


「俺が攻める。全員俺の補助をしろ!」


 ブレイブソード起動。先読みの魔眼フューチャービジョン起動。超加速リミットアクセル、影移動。影を司る夜は俺の空間だ。
 夜を伝って白龍の背後の影から姿を現す。俺の足の下には今白龍が居る。


全能力向上フルエンチャント


「原初の光」


 身体能力の全てが上がり、翔の黄金の光を俺が受け継ぐように俺の剣が黄金に光る。
 更に、ずっと上空に身を潜めていたオリビアが動く。


「メテオインパクト!」


「両断剣!!」


 刃が延長される両断剣を龍に突き刺す。ザ・ワンを付与している今の剣なら突き刺せる。オリビアに無効化魔法を付与する事も忘れない。
 オリビアのナックルが白龍の左頬を捉え、俺の両断剣が背中から腹に貫通する。


 白龍は血を流し暴れまわる。


「まだまだ行くぜ!」


 突き刺したままトルネードファングを起動する。剣を逆手に持ち替えて、回転する。白龍の胴体に縦の切り込みを入れる。鱗は硬いが、一度貫通させてしまえば大した事もない。


 白龍が落下を始めた所で、俺も地面に戻るように飛び降りた。


 そして気づくのだ。夜だったはずの辺りに何故か太陽が輝いている事に。

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