戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と模倣でお前のスキルは俺のもの〜
天空の島
「また、凄いメンツですね」
「ええ、日本の最大戦力です」
「オリビアさんもいるのはなんでなんだろうか」
「アメリカはダンジョンに関してかなり真剣ですからね。今回も強引に頼み込まれたんでしょう」
「巫女に勇者パーティーに夜王に龍姫、人類最高戦力じゃないこれ?」
「一番大事な不明を忘れていますよ」
飛行機を使って天空の島入り口までたどり着いたのは僕達、現在の人類最高峰の冒険者たちだ。
合計8人のうちにワールドランキング5位以内が5人いるという核弾頭クラスの戦力だ。
けど、ウィンが言うにはこのダンジョンの適正レベルは100。今のメンバーでどれだけ食らいつけるかだな。
「それにしても試験官さんがランキング一位の人だとは思いませんでした」
そう声をかけてきたのは勇者こと、神道翔。解析鑑定をかけたところ彼らのパーティーはレベル20代前半ほどまでレベルを上げていた。試験があったのが一ヶ月前だという事を考えると成長スピードはかなり速い部類に入るだろう。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
短い挨拶を済ませて勇者はパーティーの下へ戻っていった。
「やあ、不明くん!」
「お久しぶりですオリビアさん」
「それで、今は何階層まで進んでいるんだい?」
「昨日50階層に到達しましたよ」
「ワオ!」
この人には、どうせバレるまで聞かれる事が目に見えているので下手に隠した方が面倒くさいと最近気が付いた。それを狙っていたのだとしたら僕の負けでいい。
「流石ですね、徹さん」
「ありがとう。寧さんはどれくらいまで進んだんだい?」
「私はまだ30階層までですね」
以外だ。彼女の能力があれば強敵と呼べるようなモンスターは存在しないはずなのだが、ボス階層じゃなくて物量で止まってるとか?
いや、百鬼夜行があってそれは考えにくいか。まあいい、彼女が僕と肩を並べると判断できた時は彼女の方から話してくれるだろう。
「私はまだコロセウム22階層までなのに、二人とも凄いわね」
「いえ、そんなことは……」
「オリビアさんは最近ユニークスキルを封印してるって聞きましたけど?」
「あちゃーばれちゃってたか。でもそんな事はないよ、ただ少しだけ制御って物を練習しているだけ」
オリビアさんの言葉の真意は分からないが、龍の力が制御できるようになれば身体能力三倍程度では済まない性能になる事は予想がつく。オリビアさんと勇者はいい勝負なんじゃないだろうか。
彼女のレベルは28だった。
「やあ徹くん。いや、今は不明と呼んだ方がいいかな?」
「九重さん、お久しぶりです。名前でいいですよ、僕の情報はかなり厳重にブロックされているようですから」
「まあ、それもそうか。ここにいる人間はもう知っているような物だしね」
「それより、ダンジョンから出てきてよかったんですか?」
「家族は今30階層の街にいるから誰かが到達するにしてももっと先だよ」
「なるほど、それで……」
「ああ、なんだかんだ君とはそんなに一緒に攻略できていなかったからね。それに寧さんもかなりレベルアップしているから楽しみししておくといいよ」
話も半分に、皆の準備が整った。天空の島は文字通り空に浮く島の形状のダンジョンだ。
その大部分は庭園で構成されていて、中央に城のような建造物が建っていた。
城は二つの塔と中央の建造物で構成される。
「どうします? 取り合えず真ん中の城まで行きますか?」
ゲーム的な予想をすれば塔二つは何かのギミックが隠されているのだろう。もしかすると先に二つの塔をクリアしなければ倒せないような敵が出てくる可能性もある。しかし、今は情報が何もない状態だ。このダンジョンは僕は攻略中の他のダンジョンに比べれば非常に小規模な物だが、しかし攻略適正レベルの高さを考えればこのダンジョンで起こる困難は今までのダンジョンの比ではない。
「いや、隣の二つの塔に何か隠されている可能性も考える必要があると思う」
僕は城まで行ってみるという翔の提案にそう答えた。
「じゃあ手分けでもする? 私はそれでもいいわよ?」
オリビアさんの意見もそれはそれで危険だ。
「何の情報もない現状で戦力を分散させるのは危険ではありませんか?」
九重さんも僕と同じ考えに行き着いたようでオリビアさんの意見に反論した。
「なら、選択肢は一つしかありませんね。攻略順序は両端の塔からで皆で一つずつ攻略していきましょう」
寧さんがまとめてくれた。不服そうにしていたのは翔以外の勇者パーティーのメンツくらいだったが、それでもこれ以上にいい案がある訳ではないようで、不満ながら納得はしたという感じだ。
しかし、塔に到達するよりも前に片付けなければならない問題が出現した。
「モンスターだ!」
工藤伸が叫ぶ。
「出現数3、個体名キマイラ、マーメイド、ケンタウロスです」
それに呼応するように水島姫乃が解析鑑定を発動し相手の情報を読み取り始める。
このダンジョンのモンスターは混合種とでも定義するべき生物という事だろうか。モンスターに共通する部分が二つ以上の生物の特徴を持っているという事。ケンタウロスとマーメイドは人の上半身を以てはいるが知性を感じる事はできない。それに人と言うには髪の毛が生えておらず、知性を感じるような眼の色はしていない。口から漏れ出る声も「うぁ」とか「ヴぃ」とかゾンビという言葉がピッタリの鳴き声だった。
「スキルは飢餓、眠歌、連撃よ」
雅花蓮は水島姫乃の足りなかった情報を補う形でスキル名を読み上げた。
「分かったぜ! 俺がキマイラをやる。飛翔斬撃!」
伸の飛ぶ斬撃はキマイラへと命中した。キマイラは仰け反った物の、顔面に斬撃を受けたとは思えないほど無傷だった。
キマイラは前足を振り上げ、工藤伸を目掛けて振り下ろされる。それはスキルとすら呼べる物ではなく、ただ身体能力から起こされるカマイタチ。これが適正レベル100のダンジョン。
「氷殻!」
「氷盾!」
僕と九重さんが同時に放った氷のドームと、六花弁の花のような盾に守られ工藤伸は無事だった。ただ二つの氷魔法の内盾は破壊されドームはひび割れている。ただ前足を振り下ろしただけの攻撃がこの威力。
「まずいね」
「そうですね、あの腕力は前回の私とどっこいどっこいかも」
九重さんは今の魔法の手ごたえから目の前のモンスターの脅威度を引き上げた。
オリビアさんの龍の血もこの相手が強い事を認めているようだ。
「なら、私と翔君のユニークスキルで対処します!」
「それしかないね!」
寧さんが詠唱を開始し、翔の剣に黄金のオーラが宿り始める。
「獅子の頭に羊の身体、蛇の尾を持つ…………」
「ブレイブオーラ……解放!」
ただし、二人が準備に入るこの段階を目の前の異形が制止して待ってくれるわけもなく、二人の準備が完了するまで僕達で時間を稼ぐ必要がある。
「バリア」
「氷殻、聖なる加護」
「氷盾」
「アースウォール」
水島姫乃、僕、九重斎、雅花蓮の魔法が同時に発動し、四つの結界を創り出す。
その結界にケンタウロスが突っ込んでくる。馬の下半身を持つケンタウロスの突進はそれ一つとっても必殺技と言うにふさわしい威力を持っている。
ケンタウロスのスキル、連撃が発動する。ケンタウロスが持つ武器は槍だが、それが結界を殴打する度に衝撃音が強くなっていく。一枚目のバリアは4発の攻撃で敗れた。二枚目の氷殻は3発。氷盾は二発。最後の砦であるアースウォールは一撃で破壊された。
全ての結界を破ったケンタウロスが最初に狙ったのは寧さんだった。本能的に彼女の詠唱を脅威だと判別したのかもしれない。
ただ、その目の前に一人の男が庇うように立ちはだかった。
「ブレイブソード!!」
黄金の剣は敵の存在を否定するように一刀でケンタウロスを切り裂いた。
「汝の名はキマイラ。森羅万象を読み解き在るべき姿へ戻りたまえ!」
彼女の言葉は異形の魔獣を否定し消し去る。
最後の一匹は……とっ。もう終わっていたか。
蝙蝠の翼と酷似した部位を出現させたオリビア=ドラゴニアは上空へ舞い上がり落下の速度によって威力が上昇した踵落としを脳天に突き刺していた。
なんだ、みんな結構強いじゃないか……
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