戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と模倣でお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

勇者





 四人は一階層の敵には苦戦も見せずに勝利した。


 最初の兎は工藤伸の剣術でいとも簡単に倒された。雅花蓮の魔法も威力は申し分なく一階層の相手ならば一撃で燃やし尽くしてしまう。


 神道翔と水島姫乃の力は分からないが、一階層では工藤伸と雅花蓮の独力で倒してしまうので必要ないだろう。


「さて、これで君たちにもステータスが見えるようになったはずだ」


「これがステータス……」


 四人とも目の前に現れた情報を戸惑いながら見ていた。


「説明するね。レベルはモンスターを倒す事で上昇し、数字が大きくなればなるほど身体能力を向上させる。スキルは君たちが現在使用できる特殊能力だとでも思ってくれればいい。横に書かれた数字は熟練度、そのスキルのレベルといったところだね。そのステータスについてはまだまだ謎が多いからこれ以上の情報は自分で確かめてみるのが一番確信を持てると思う」


 さて、次の得物は流石にきついかもしれないな。
 ダンジョンにはユニークモンスターと呼ばれる個体が存在する。
 その階層に出現するモンスターの強化種でスピードパワー共に格段に上がっている個体。大きさも1.5倍くらいある。
 もはや兎ってか狼みたいな大きさだ。ちなみに『あいつ』はそれも含めて瞬殺してしまうので違いに気が付かなかったとか言ってた。


「これは、何かヤバいのが来る……」


 最も早くその脅威に気が付いたのは意外な事に神道翔だった。これが直感の能力なのだろうか。
 魔力感知を持っている雅の感知領域よりも神道翔の直感の感知領域の方が大きいのは確かだな。


 目の前に今までの兎とは比べ物にならないサイズの兎が現れた。圧力も段違いだ。これで気が付かなかったとかやっぱあいつアホだ。


「これは流石に君たちには手に余るだろう。僕が相手をするよ」


「いえ、俺にやらせて下さい」


 そう言って神道翔は僕の前に出る。まあいいか、ユニークと言っても一階層モンスターじゃ即死は殆どありえない、即死さえしなければハイヒールで回復できる。


「分かった。けど危険になったらすぐに手を出すから」


「はい。ありがとうございます」


 彼は抜剣する。しかし他の三人は静観していた。


「君たちは彼に加勢しなくていいのかい?」


「はい。翔君は負けませんから」


 強いという意味ならば、身体能力や戦闘技術的に見ても工藤伸の圧勝だろう。雅花蓮と違い神道翔には魔法の才能もない。
 ならば何故三人とも勝利を確信した目をしているのか。


「二人も同じ意見かい?」


「俺はあいつが負けるとこを見た事がない」


「そうね、私もあいつが負けるとこはなんでか想像できないわ。私の魔法だってギャグパートしか当たんないんだから」


「ギャグパート?」


「気にしないで、ただあいつが勝つのは絶対なのよ。それはどんな因果も関与しないあいつだけで完結した勝利。どんな怪物でもどんな魔法でもあいつから勝利をもぎ取る事ができない。何故ならあいつを相手にした瞬間にそいつは勝利という選択肢を失うから」


 彼らの言っている事は正直意味が分からない。
 ただ、巨大兎が神道翔の間合いに入った瞬間魔力感知が在り得ない程の魔力を感知した。
 それは神道翔が抜き放った剣に収束していく。高いレベルの魔力感知があって初めて分かる。これは魔力で構成されてはいるが普通の魔力ではない。
 魔法とは魔力に属性を持たせる事で物理的干渉力を与え、実際の現象とし出現させる技術である。
 しかし、彼の魔力にはどの属性も当てはまらない。属性魔法とは何かが違う。名づけるなら黄金に輝く魔力。


 それが剣を纏い刀身が黄金に光り輝く。流れる様に彼はその剣を上段から振るう。生命感知と魔力感知を全力で発動し一挙手一投足を解析する。
 刀身が兎に触れた瞬間、兎は光の粒子へ変わっていった。切り裂いたわけではない、ただ触れただけ。兎は存在を否定されたかのように消え去った。


「ダンジョンに潜っていればこの力が何なのかも解る時が来るでしょうか?」


 剣を鞘に仕舞いながら神道翔は僕に問いかける。ただ、僕に恐怖はない。恐怖とは未知から来る。つまり彼の能力を既に一度見ている僕からすれば恐れる要素ではない。
 魔力で構成された生物を強制的に魔素へと分解する能力。それは寧さんの理を読み解く魔法と同じ力だ。


 つまり彼の能力は魔法であり、寧さんと同じ属性を持った一撃という事だ。


「ああ、きっとその能力についてももっと解ると思う」


「そうですか。皆、僕と一緒に冒険してくれないか?」


 神道翔は他の三人に頭を下げた。僕には何をしているのか分からないが、彼らには彼らの事情があるのだろう。


「あたりまえじゃねえか」


「私は最初からそのつもりですよ!」


「どうしてもって言うなら手伝ってあげるわ」


 彼らのダンジョン攻略はめちゃくちゃいい感じに終わった。
 ダンジョンから出ると四人にお礼を言われた。悪い気はしなかったが同い年に言われるのは何かこそばゆかった。


 結局その日は彼ら以外が来る事はなく終了した。






 一日平均6.7人が僕のところへやってくる。その殆どがユニークスキル保持者だ。
 僕の方もルーチン化してきたので、作業のようにダンジョンについての情報を説明していく。
 最初の神道翔ほど派手な能力はなかったが、どれも強力な能力ばかりだった。


 二週間がたった頃、なんと神道翔率いるチームが9階層を攻略したという情報が入ってきた。
 まあ、寧さんと同じ力だ。酒吞童子クラスならば一撃で消滅させられるだろう。驚く程の事じゃない。
 変化があったとすれば『あいつ』の方だ。




 うかうかしてられないか?


 フン、俺たちはアメリカでダンジョン攻略するから勝負はできねえがコロセウムは20階層だろうが30階層だろうが俺が攻略してやるよ!

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