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戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と模倣でお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

最強の冒険者の報告 sideオリビア=ドラゴニア



 何が起こっているの?
 私は今何を見ている?


 私は龍の血というユニークスキルを持っていて、それを使用する事で身体能力の全てを3倍近くに引き上げる事ができる。実際、挑戦していなかっただけで全力を出せば9階層のボスも倒せると自負している。
 しかし、それでも彼には遠く及ばないだろうと感じてしまう。本能で理解させられる。


 私が恐怖で泣き出しそうだった1階層の敵を笑顔さえ浮かべながら屠っていく。
 何度も一階層に挑戦して戦闘に慣れて来た私を吹き飛ばしたユニコーンを、まるで蟻でも潰すように殺し尽くす。
 三階層のガーゴイルは翼を撃ち抜かれて地面に落とされて頭に短剣が突き刺さり消滅した。
 四階層はヘルハウンド。炎を吐く狼型の魔物だが、その炎の中を涼し気に突っ切っていく姿には乾いた笑いが零れてしまった。


「お疲れ様です、徹君!」


「ああ、さんきゅ」


 今目の前で起こった虐殺とも呼べる光景を見ても、彼の隣の少女はいつもの事だとでも言わんばかりに微笑みながらタオルを渡している。
 彼らは二人とも同じ鞄を持っていて、それは日本国から凄く自慢されたと大使が歯ぎしりしていた無限収納のバックだろう。


「凄いですね」


「ん? ああ、あんた日本語喋れたんだな。なんで敬語?」


「ごめんなさい、まだ日本語は得意ではなくて」


「そうか。このまま行けば夕方には終わりそうだな」


「はは、そうね……」


 在り得ない。こんなスピードで攻略できるのはフル装備のアメリカ陸軍一個中隊くらいだろう。それを単独で行っており、尚且つそれでも勝てなかったボスすらも苦に感じていない存在。
 在り得ないわ。単一の生物としての能力を超えている。


「それで、竜人ドラゴニュートさんは暴れなくてもいいのかい?」


 笑いながら彼は問いかけてくる。私の全てを掌握していると言われているような気がする一言を。


「ええ、大丈夫よ」


 我ながら凄く間の抜けた顔をしてしまったと思う。普段の私は最強の冒険者として恐れられる側の人間で、どこかで私以下の能力しか持たない男を馬鹿にしていた。
 しかし、この存在を目の前にしてしまえば私など井の中の蛙なのだと理解させられてしまう。
 だから彼の栄光を称えるように、卑屈な笑顔を浮かべるしかない。


「徹君! 駄目ですよ、ちゃんと本気でやらないと!」


「うっせえ。相手が弱すぎて本気なんて出したら一瞬で終わっちまうんだよ」


「その戦闘狂気質のせいでどれだけ私が冷や汗を流しているのか解っているのですか?」


「はいはい。次からはちゃんとやりますよ」


「よろしいでしょう」


「チッ」


 これで本気ではないのか。一体私は何を見ているというのだろうか。


 それからは一瞬の出来事が3回続いた。気が付けば敵の首が飛んでいる。
 キマイラもコカトリスもペガサスもミノタウロスも全て一刀の下切り伏せられた。


「これが彼の本気……」


「? 違いますよ。徹君は遊びを止めただけで本気なんてこれっぽっちも出していません」


「そうなの……?」


「でもきっと9階層の敵には少しだけ本気を出すんじゃないでしょうか。幾らあの人でも、ちゃんとしたスキルを使わないと少し厳しいと思いますし」


「おい! 聞こえてんぞ! 後9階層はお前の出番だ。俺の能力はまだ人前で使えないってあいつが言ってたの伝え忘れてたわ」


「徹さんが……。そうですか、解りました!」


 あいつとは誰だろうか。そして今朝までの彼とはかけ離れた話し方の彼は本当に彼なのだろうか。


「すいません。どうやら本気は見せられないようです」


「構わないわ。もう報告する内容は決まったから」


「そうですか。では私も少しだけ頑張ろうと思います」


 そう言って少女は少年に並ぶように駆けていった。9階層モンスター『ドラゴン』を前にして。


 9階層の階段の目の前にある扉から中のドラゴンの姿を見た事はあったが、中に入るのはこれが初めてだ。入ってしまえばどちらかが死ぬまで出られない結界が発生する。
 実際、私は結界内に入る予定はなかった。しかし彼らの自信と結界に入る足の軽さに一緒に入ってしまった。


 ユニークスキル龍の血は身体強化の他に私に眼の能力を授けた。相手が自分よりも格上か格下か判断できるという能力だ。そして何故彼の能力が分からなかったのか今理解できた。


「ダブルウェーブスラッシュ」


 銃弾すら通さない赤い鱗を全身に纏う巨体が、見えない斬撃によって浮き上がり壁まで吹き飛んだ。
 正しく剛力、正しく魔法、正しく奇跡、正しく英雄。
 私は彼の力を知る事を拒んでいた。今だから、こんな光景を見せられた後だから解る。彼の強すぎる力を見てしまえば抗う事ができなくなる。だからこそ、私の能力は彼の力を測定不能アンノウンとしたのだろう。


 壁際まで吹き飛ばされたドラゴンが怒り狂ったように炎の息吹を放出する。しかし、それは彼に届く前に光の粒となり消滅する。龍のかぎ爪を受けても、彼は悠然とドラゴンの前足の上にすり抜けた様に立っている。
 天を駆け、ドラゴンの鼻先を見据えた目は赤く光っていた。空中を蹴って加速する。ドラゴンの顔面にドロップキックを食らわせる。
 又してもドラゴンは壁に激突し、今度は怒る気力もない程に衰弱しているのが解る。今なら私が単独でもいい勝負になるのではないだろうか。


 しかし、彼らの力の証明はまだ続く。


「汝、強靭な肉体と強固な鱗を併せ持つ赤き龍にして伝説の龍。汝の名はドライグ。森羅万象を読み解き、在るべき姿へ戻るがいい」


 少女が何やら不可思議な呪文を唱えている。まるで映画や伝承に出てくる魔法使いのようなその言葉は目の前の龍を読んでいた。
 突如としてドラゴンが白い光へと変わっていく。まるで少女の言葉に導かれるように。
 私の竜眼は確かに少女を見ていた。詠唱が始まると同時に、その存在の密度が跳ね上がった。まるで幾百年を生きた何かを見ているような気がした。


 私の頭を幾つもの疑問が過っては消えていく。きっとそれが分かった所で私には、いや誰だって彼らを止めることはできないだろう。
 ならば、これは私が考える問題ではない。私は今見た現実をただ我が国に伝えるだけ。私にできることがあるとするならそう、『彼らには絶対に敵対するな』と付け加える事くらいだろう。


 そして第10階層で手に入れた鑑定解析というスキルのおかげで我が国にその力を文字として提出できる。


 レベル50オーバー。
 7つのユニーク。そして数多のスキル群。


 少女の方もそれに見合う能力を秘めている。これは文字では分からないが、私が見た光景を話せばいい。どうせ私以上の冒険者は存在しない。私のいう事なら聞いてくれる、それを信じるしかない。


 彼は気が付いているのだろうか。その能力は国家一つを脅かせる程だということを。

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