戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と模倣でお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

マナ



 持ち物全てをゴブリンの落とした魔法の鞄に入れた結果重量までもが減少している事が分かった。質量保存の法則はどこへ行ったのやら。魔法ってのは何でもありだな。


 魔法関連、と言っても風魔法と神聖魔法だけだがこのスキルも僕の方が得意だったりする。感覚的には体内のエネルギーに属性という指向性を持たせ更にイメージによって形を創り出すことができる。
 そこで一つ実験をしてみることにした。その結果がこれだ。


 Aスキル Ⅰウィンドブレス Ⅰエアバレット Ⅰリモートアーム


 ウィンドブレスは追い風の効果を自分に付与する加速魔法。
 エアバレットは風の弾丸を飛ばす攻撃魔法だが、その貫通力と正確性は警察の持っていた拳銃を越えた。イメージ元が拳銃なのでイメージを増すために打ちまくったら銃は空になった。
 リモートアームは言葉通り遠隔の腕だ。気体を固定化して形成した腕を自由に動かすことができる。しかし密度が低すぎてその腕では力が殆ど入らない。剣を持たせて戦うとかぶん殴るとかはできなさそうだ。遠くの物を取る程度の魔法だと思っている。


 6階層の敵は継続してゴブリンだ。しかし弓や剣を持っているゴブリンに加えて杖や本を持っているゴブリンが現れていた。
 攻撃魔法に回復魔法、本を持つ奴に至っては一階層の犬とか兎を召喚してくる。ゴブリンが魔法使ってくるとか反則でしょ。






 ただ、弓より遅い火の玉に俺が当たるなんてことはあり得ないし召喚魔法なんてそもそも数の多いゴブリンに少し一階層の犬とか兎とかが加わっても脅威にはならない。
 何なら召喚魔法の使えるゴブリンは他の武器を持っているゴブリンよりも弱いからただ経験値を召喚しているようにしか見えない。


 新しいスキルの実験台にさせてもらおう。


 アクセルダッシュは10秒の間、速度を1.5倍するスキル。瞬間的に時速60kmくらい出てるんじゃないだろうか。
 剣術、体術、武術がレベル4と5になっていることで思った通りに体が動く。ゴブリン共が固まっている真ん中に入り込んで剣を振るえば10秒で6キル達成だ。


 スパイラルダッシュは3秒間速度を倍にすることで一気に駆け抜けるスキルだ。スパイラルクローと違い攻撃能力はないが、身体操作性能が上がった今の俺ならそれを再現することなど容易い。
 3秒で駆け抜けた全てのゴブリンの首を斬り飛ばす。一発のスキルで8匹殺した。


 ハイジャンプは二段ジャンプで定番っちゃ定番のスキルだが操作が若干難しい。空中で足場を発生させる感覚は慣れていないからだろうな。
 しかし一瞬にして敵の頭上を取れるこのスキルは俺の持つ移動スキルの中で唯一三次元的動きを可能とするスキルだ。頭上を取られたゴブリンは影に気が付いて上を見るが、すでに俺の短剣はゴブリンの頭に突き刺さる寸前だ。ゴブリンの目を抉り裂いて殺した。


 見切りの発動中は世界が減速する。スローモーションで見える視界の中でたとえゴブリン10匹に囲まれて同時に攻撃されたとしても回避するのは容易い事だった。


 クリティカルエッジは相手の弱点に攻撃する技。この技のメリットは俺自身が知らない弱点を知れる事だろう。ゴブリンの右胸に短剣が突き刺さると何かが砕けるような感触と共にゴブリンはすぐさま光と変わった。それが何なのかは分からないが光になる速さからしてゴブリンの弱点だったのだろう。この技の指示通りに攻撃するとゴブリンは面白いように一撃で沈んでいった。


 そして割と問題のスキル、キャノンドライブ。この、大砲の言葉を考えるのならば砲弾は俺自身なのだろう。
 ヤバい速さで加速するスキルだが、それは俺が走っているわけではなく前方への跳躍だ。一歩で凡そ10m弱進むこのスキルは体に大変な負荷がかかる。
 身体操作性能が上がってなかったら絶対に酔っている自信がある。ただし一級の攻撃力を持つ短剣をゴブリンに向けて発動するだけで一匹は絶対殺せる。得物が長ければ串刺しとかもできるし何なら拳で殺せそうだ。まあ拳で殴ったら十中八九俺の拳も砕けるだろうけどな。


 レベルも上がってきた事だが、早熟がある割にレベルの上がりが遅い気がするのはスキルの熟練度が上がるスピードが速すぎるだけだろう。まあ、レベルが何で上がってるのかもわかってない状態だからしょうがないか。多分モンスターを倒すことで上がっているのだとは思うが、500匹近いモンスターを殺してもレベル12だ。普通なら、単純計算で1000匹殺す必要があるのだから大変だな。






 あのさ、さっきのゴブリンの胸にあったやつ引きずり出してみてくれない?


 何言ってんだ僕ちゃん、サイコパスはどっちかっていうと俺の領分だろ。


 少し気になることがあるんだ。








 血が付くのは汚れるから嫌なんだけどな。まあ相棒の頼みだ、聞いてやらない訳にもいかない。
 それに後で落とすのが面倒なだけで血を浴びるのは気分がいい。神聖魔法を使えば服の汚れなんて一瞬でなくなるんだから別に問題はないだろう。


 ゴブリンを見つけて最後の一匹以外を殺す。最後の一匹の足首と手首を切り飛ばして右胸を鷲掴みにして抉り出す。ツメを食いこませて穴を開けて硬い何かを引きずりだした。
 それは紫色の石だった。しかし抜き取った瞬間ゴブリン諸共紫色の石は光になって消え去った。


 消えちまったぞ?
 いや十分だ。
 そうかい。それで何がしたかったんだ?
 少し変わってくれ新しいスキルを手に入れられるかもしれない。












 は意識を集中させる。ゴブリンの身体から出てきた紫色の石は僕が魔法を使うためにコントロールしているエネルギーを凝縮したような何かだった。短剣で突いたときには微かにしか分からなかったが、直に触れたことで確信した。あれは魔力を固形化させた物だ。


 ゴブリンは魔法を使うことができる。そして、恐らくあの紫色の石は魔法を使える生物だけの特徴だと思われる。
 あの石のような内臓は魔力を体外から集め、自分の魔力にするという効果を持っている。


 だから僕は集中する。意識するのは右胸の奥。僕が使う魔力の根源にして一番エネルギーの濃い場所。
 自分の身体を廻る魔力を感じることができる。それは全て右胸の奥に繋がっている。血液のように体を廻る魔力は右胸から出て右胸に戻っていく。


 しかし出る魔力と戻ってくる魔力とでは明らかに違う点が存在した。それは操作性。出ていく魔力は僕の体内にありながら全く自由に動かせない。反対に戻る直前の魔力は若干だが操作できる。
 僕がいつも魔法を使う際に使用しているエネルギーは既に戻っている右胸の奥に蓄積された魔力だったんだ。


 Pスキル 魔力感知 魔力循環


 新しいスキルを獲得していた。体内体外を問わず魔力を感知するスキルと魔力の循環速度を上げる事で魔力の回復速度を上昇させるスキル。


 まだだ。まだ知りたいことはある。
 この循環している魔力は体外から吸収された魔力だろう。それを体内で循環させることによって操作可能としている。なら体外の魔力とはなんだ。


 魔力感知を全開で発動する。最初に感じたのは音だった。キーンという耳鳴りが凄く小さく聞こえた。
 目を開けるとそこには白い粒が充満していた。その粒は発光しているようで神秘的な空間だった。
 その白い光の粒は、モンスターを倒した時に発生する粒と酷似していた。
 体から魔力を放出して白い光を包んでいく。


 Pスキル 魔力操作


 僕の魔力で空気中の魔力を包む。
 袋に入れるような感覚。そうすることで空気中の魔力は僕の支配下に置かれる。
 それを吸収する。自分の体内へ蓄えていく。
 弾かれた。やはり空気中の魔力を蓄えるには一度身体を循環させる必要があるようだ。
 その工程は僕の魔力に空気中の魔力を当てて性質を僕の持っている魔力へ近づけるためだろう。
 ならば、この支配状態を続けていればそれは僕の魔力性質に近づいていくのではないか。
 包むイメージではなく混ぜ合わせるイメージ。コネコネ。


 ビチャ。


 なんと魔力が液体になって床に落下した。


 樋口 徹
 レベル12
 ユニークスキル 早熟6 幸運1 天の塔転移権限
 Pスキル 剣術5 体術5 武術5 回避5 生命感知5 聴覚強化6 風魔法4 命中2 剣速上昇5 神聖魔法4 魔力感知1 魔力循環1 魔力操作1 錬金術1
 Aスキル Ⅱアクセルダッシュ Ⅲスパイラルダッシュ Ⅱハイジャンプ Ⅱ見切り Ⅰクリティカルエッジ Ⅱキャノンドライブ Ⅰウィンドブレス Ⅰエアバレット Ⅰリモートアーム Ⅰマナドレイン Ⅰマジックキャンセル






 錬金術ですかそうですか。

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