戦闘狂の迷宮攻略 〜早熟と模倣でお前のスキルは俺のもの〜

水色の山葵

知性を持つ魔物



 第五階層。そこへ到達した瞬間ステータスに新たな文字が追加された。


 ユニークスキル 天の塔転移権限


 このスキルの詳細を見てみるとダンジョン内の現在到達している階層へ直接転移ができるらしい。転移位置は下の階層の階段の前。つまりその階層の最初だ。
 転移には詠唱時間という物があり、30秒ほど無防備になる。戦闘時の使用は無理だろう。


 そして第五階層のモンスターはゴブリンだった。今までの獣の咆哮とは違う明らかに意味のある言葉を使い、道具の使用や他の個体との連携を主体に戦ってくる。


 用心は必要か。行けるか?
 当たり前だろ。


 俺に変われ。


「ゴギャグギャ、ギギギ」


「悪いな日本語以外はノーセンキューだ」


 アクセルの急接近から首を跳ね飛ばす。今の俺のスピードは自動車並みになっている。反応はできても対応はできないほどの加速。
 しかし、仲間はすでに到着している。連戦か、望むところだ。


 Aスキルには連続使用を制限する時間が存在する。俺のスキルは基本的に5秒から10秒の再使用時間が発生し、その時間は感覚的に理解できる。
 ただし、スキルの連射が不可能かと言えばそうじゃない。再使用時間が5~10秒であれば他のスキルを回している間に使用可能となりえる。


 ドライブ起動。ドライブは使用して一歩目の移動距離が倍になる。
 更にスパイラルクロー。これは一歩で駆け抜けた場所にいた敵を切りつける技。移動距離が倍になるドライブと同時に使用することで対象となったゴブリンの数は5体。


 Aスキルは基本的に自動的に体が動く感じだが、ある程度の自由度が存在する。スパイラルクローでどこを攻撃するかは俺の命中精度によって自由自在だ。そして三つのスキルによって身体操作性が向上している俺ならすべての斬撃で首を斬り飛ばす事など造作もない。


 レベルは上がらなかった。蛇で稼ぎ過ぎたようだ。この階層はさっさとスキップするべきかもな。


 生命感知と聴覚強化を研ぎ澄ませる。Pスキルは基本的にずっと発動し続けているがその効果は自分の意思である程度操作可能だ。オフにすることも可能だった。


 ただ敵は知性を持つ生き物だ。本当にこれで終わりなのか?


「ギ!!」


 悲鳴や鳴き声というよりはもっと短く、まるで何かの合図のようなそんな声が一本道の奥から聞こえた。
 その声の方向から飛来するのは無数の矢。それも一本道の通路を埋め尽くすような量の回避不可能なほどの。


 パリィは不可能。あの数すべてに短剣を当てることなど物理的に不可能だから。
 アクセルやダッシュじゃ回避する方向がない。ステップも同じ理由で却下。
 カウンターは手の届く位置に敵がいない時点で意味がない。ジャンプ程度の移動では弓の弾幕は避けられない。
 風魔法も神聖魔法も意味がない。弓を弾けるほどの魔法は覚えていない。だったら俺は前に出る!


 剣術、体術、武術、回避、風魔法《追い風》、剣速上昇による身体強化全開。
 更に、ダッシュ!アクセル!!ドライブ!!。
 加速に加速を重ねて。


「スパイラルクロー!!」


 弓を仮想敵と認識する。スパイラルクローは駆け抜けた位置にいる敵を切り裂く。


 それが何本であろうとぶち抜ける!、なんてことはない。スパイラルクローは何も不可思議の力で敵を攻撃しているわけじゃない。ただ通り過ぎざまに短剣で攻撃しているだけだ。当然放てる攻撃の数には限度があるしそもそも手の届かない位置は対象にすらならない。


 ならば全てを弾くことは諦めよう。
 左腕に一本、右足に一本、それと無数の切り傷。しかし、命は守った。
 ゴブリン共は目と鼻の先、1m未満。


 発動可能なAスキルはパリィとジャンプだけだが、そもそもこの程度の相手と真っ向勝負するのに敵が何体いようがスキルなんて必要ない。


 首を切れば生き物は死ぬ。頭を貫いてもいい。心臓でもいい。生物における弱点なんてものは無数に存在する。血管が密集している場所を切り付けてやればそれだけで出血多量でゲームオーバーだ。簡単な作業。生き物を殺すなんてその程度の事だ。


 レベル11
 ユニークスキル 早熟5 幸運1 天の塔転移権限
 Pスキル 剣術4 体術5 武術4 回避4 生命感知4 聴覚強化5 風魔法3 命中1 剣速上昇4 神聖魔法3
 Aスキル Ⅱアクセルダッシュ Ⅲスパイラルダッシュ Ⅱハイジャンプ Ⅱ見切り Ⅰクリティカルエッジ Ⅱキャノンドライブ


 神聖魔法便利すぎ。完全回復するのに10分位かかったが穴の開いた腕と足が完治した。レベルも3まで上がったし他のスキルも着々とレベルが上がって言っている。


 さて、ゴブリンの基本ドロップはそいつの持っていた武器の様だ。しかし要らない。武器なんてかさばるし何よりどれも使いかけの武器でかなりボロい。素材としての価値はあるのかもしれないがそのまま使うというのは相当な事がない限りありえないだろう。


 レアドロップは流石に無しか。ゴブリンのレアドロップもランクの高い武器なのだろうか。


 ゴブリンの弓
 ランクF
 効果 命中精度低下、攻撃力低下


 こんなのを落とす奴のレアドロップなんて期待してもいいことなさそう。
 僕にもコレクター魂があれば別なのかもしれないが生憎そんなものは持ち合わせていない。


 精神世界で僕が考えている間に外の『俺』がゴブリンのレアドロップを見つけたみたいだ。幸運の効果恐ろしや。
 さて、期待せずに見てみるか。


 魔法の鞄
 ランクA
 効果 見た目以上の物質を収納できる。収納スペース100m×100m×100m。鞄の口に入りきらないアイテムも収納可能。


 ゴブリンやっば。これが外の世界で平然と使われる時代が来たりするのだろうか。『俺』が100匹ほどゴブリンを殺して手に入れたってことは他の人間なら200匹程度狩ればいいことになる。乱獲んじゃないかゴブリン。哀れ。


 適当に合唱している内に俺との入れ替わり時間が来た。戦闘は基本的に『俺』の役割だ。僕の役割は知る事。斥候とでも考えるのが簡単だろう。生命感知と聴覚強化は『俺』よりも僕の方がうまく使える。まあ、戦闘していない事が前提ならばの話だが。


 凶暴性のお陰で知識面が戦闘以外で役に立たないレベルで終わってる『俺』には地図を作るなんてことは不可能だ。僕の場合は頭の中で地図を作ることができる。それが立体だろうがそんなに複雑だろうが。マッピングなんてスキルを獲得できない内は僕の仕事はこれになるだろう。
 さっき『俺』が通った場所も僕の記憶に焼き付いているのでそれ以外の場所を進む。


 『俺』が出てきた回数は5回。それはつまり戦闘回数なのだがそれくらいの切り替わり回数で次の階層への扉を見つけた。
 全力でマッピングに努めればこのダンジョンという奴は3時間程度でフロア全てを周れてしまうほどの大きさだ。


 さて、交代だ6階層の敵も任せるよ?
 今んとこはよゆーだぜ。



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