俺だけFPS
研ぎ澄まされた剣と、磨き上げられた銃と、Ⅱ
「クソが!」
シマシマは、そう吐き捨て睨みを効かせた。
どれだけ時間を賭けたとしても、どれだけレベルを上げたとしても、どれだけ装備を揃えたとしても、どれだけスキルを熟達させようとも、その剣が俺に届く事はなく、その銃弾が俺に当たる事はない。
そもそも、賭した時間が違い過ぎる。
このゲームは発売してまだ半年も経っていない。俺は銃弾の世界で8年過ごした。
ただ、それだけの単純な差。
魔法銃は通常の銃に比べて反動が恐ろしく低く、命中率が低いという事はない。
しかし、未だ俺に銃弾は一発も届いていない。
あの魔法銃に込められた魔法は光の線が発射される、レーザー銃の様な魔法だった。
反動無しの即着弾。確かに、性能だけを鑑みれば俺の銃など比べるべくもなく圧倒的汎用性の高さだ。
だが、その程度と言うほかない。銃弾を当てる技術同様、如何に銃弾を避けるかという事に長い時間を掛けた。
それは一朝一夕、ましてレベル制ゲームしかした事が無いような奴の銃弾が簡単に当たる程浅い時間じゃない。
確かにその魔法銃やレイピアはモンスターに対しては無類の強さを発揮するだろう。遠近両刀、リロードが要らない銃から放たれる避けきれない弾幕と、近づけば一瞬で串刺しにされるそのレイピアは、確かに大型になればなるほど驚異的な武器の様に思える。
だが、今ここで行われているのは対人戦だ。
確かにこのゲームのモンスターには高性能なAIが搭載されているように感じるが、それは獣としての知能であって、口が裂けても人と比べて頭が良いと言えるような代物ではない。
銃口の向き、発射のタイミング、視線、力の入り方、腕の上げ方、銃の握り方、足の位置、体重の寄り方。
その全てが俺やシェリーにとってはヒントになる。お互いがそれを意識して戦っていたならともかく、彼にはVRゲームにおけるPVPにおける基礎と言えるような事が出来ていない。
だから、彼の攻撃が俺に当たる事はない。
だが、驚愕するべく点もまた存在する。
同じように俺の銃弾も当たらない。常人なら回避不可能なハズの撃ち方をしているにも関わらず、シマシマは回避する。
いとも容易く、まるで何処に攻撃が来るか予め解っているかのように。
一度目は奇跡でも、二度続けば実力だ。
シェリーが銃弾を弾けたのは、俺の予備動作から弾丸がどこを狙って放たれるか予測していたからだ。
だが、それが出来るのなら魔法銃から放たれる銃弾はもっと考えられた物になるはずだ。
これは単純なプレイヤーの実力じゃない。
世界一位を越える回避性能は、一朝一夕に覚えられるような技術じゃないはずだ。
だからこそ、それこそが彼の言う楽しさという事なんだろう。
アーツスキルがユニークアイテムか知らないが、奴は俺の攻撃の未来を視ている。
「へっ、プロゲーマーってのはこんなモンかよ」
彼は俺やシェリーと同じ場所へ、ゲームシステムによって上ってきている。
ならば、それの精度を試させて貰うとしよう。
天魔絶息から二発づつ、合計四発の弾丸を撃ち放つ。
内二発はシマシマの左右を抜けるように態と外した。
残りの二発は試合開始から撃った他の弾丸と同じように、容易く回避されシマシマの背後へと飛んでいく。
やはり、横へ回避するな。そのまま前に突っ込んできてレイピアのレンジにしない理由は分からないが、それならそれで都合がいい。
天魔絶息を氷怒の電磁銃へと入れ替える。
ライトニングショット。この弾丸は速着の弾丸。この弾丸に関して言えば、彼の能力が発射されてから軌道が解るという能力であるなら回避する事は難しくなる。
キュイィィィィィン、パァン!!
速着の弾丸は確かにシマシマを捉えた。
しかし、ヘッドショットを狙ったその弾丸は兜に滑る様に当たりシマシマの真上、上空へと跳ねた。
なるほど、反射神経も上がってるって訳だ。
としたら攻撃範囲予測と反射加速?
バランス崩壊もいいとこな位に強すぎるだろ!
ただ、今のに反応できるって事は完全に意表を突かないと仕留めるのは難しそうだ。
しかも全身鎧のせいで多分倒しきるまでに結構な弾丸の数が必要だ。
「牙突百式」
まるで弓矢を引き絞る様にレイピアを自身へ引いていく。
だとするなら、そこから何かを発射する動作の様だ。どう見ても近距離武器なレイピアをこの距離で引き絞る。二択、自分事突っ込んでくるか、シェリーのスキルみたいに剣戟自体が飛んでくるか。
どっちでもいい。引き絞るなら方向は見えている。
タイミングを見切れば回避しきれる。狙いは頭、意趣返しのつもりか? そして、俺が顔を揺らすのに連動して切っ先が動く。
まだ狙いを付けている段階。
待て、待て、待て、今!!
上体を後ろへ落としこむように逸らす。
上を向く姿勢になった俺の目前を、空気で出来た刃が通過していく。
額にダメージエフェクトが現れる。攻撃範囲を見誤ったらしい。
「やってくれる」
「避けてんじゃねぇよ」
けどな、攻撃を避けながらコッキングとリロードをするくらい余裕なんだよ。リロードした氷怒の電磁銃と天魔絶息を入れ替える。
ホワイトブレスを発動し、自分の頭へ銃口を向ける。
「言っとくぜ。お前を倒すのにスキルなんざ必要ない」
俺はそう言い放ち一気に接近する。既に天魔絶息の白は捨てている。
残る黒を自分のこめかみに向けて撃つ。同時に氷怒の狙撃銃を出現させ。装填完了。
これで、マガジンサイズ16発の全速の一撃を放てる。
もう黒にも用はない。インベントリへ仕舞って電磁銃を両手で持つ。
「何してやがる!?」
銃を持っている相手がまさか距離自ら縮めてくるというのは不可解に映るかもしれない。しかし、攻撃範囲が解って反射速度が多少上がった程度で対応できると思わない方がいい。
「アイスリング!」
ベルトに取り付けられたUSBメモリ型のアクセサリーから、地面を凍らせる魔法が放たれる。
「っと!」
それを見て、シマシマは一歩後ろへ飛びのいた。
だが、前へ走る俺と後ろへ飛びのく相手とでは俺の方が速いのは明白。
一気に姿勢を低くした俺はシマシマの足へ向けて蹴りを放つ。脚を引っかけて転倒させればそれで終わりだ。
だが、当然それに気が付いたシマシマは強く足を踏ん張る。
SRを持っている状態で姿勢を崩せるだけの蹴りを放つのはステータス的にも難しいだろう。
だから、それはフェイク。
「ライトニングショック」
二つ目の魔法は麻痺の魔法、腰からシマシマへ向けて放たれた雷は足に力を込めた事で脚を移動させての回避動作を不可能にさせ、麻痺魔法からの逃げ道を塞ぐ。
「ぐっ!!」
バチバチと身体に雷のスキルエフェクトを宿したシマシマは焦りによって表情を歪ませた。
「なんてな! 麻痺耐性は完璧なんだよ!」
そう言ってシマシマはレイピアを俺へ向けて振り下ろす。
かなり大振りな一撃だ。しかし、しゃがんだ状態の俺に回避動作をする余力はない。
「切断――」
一気に速度が上がる。それがそのスキルの効果なのだろう。
音に襲われているかの様な速度で放たれるその突きは俺の様な紙耐久のプレイヤーが貰えば恐らく一撃死だろう。
だが、全てはもう終わっている。
「刺と……つ……?」
キュイィィィィィィィィィィィィィィィン、パァァアン!!!!
「晴れ時々、落雷注意だ」
その場に俺は居らず、シマシマは天から降り注ぐ雷の弾丸に焼かれた。
「なんでだよ……」
「おっと、まだHPが残ってるのか」
しかし、電磁銃のライトニングショットは雷属性であり、特大の麻痺蓄積値を与える。このゲームに関税耐性と呼べる耐性は存在しない。
必要な状態異常蓄積値を増やすというのが状態異常耐性の本当の能力だ。そして、マガジン16発分の麻痺蓄積値は尋常な数値ではない。それを完全に耐えるのは以下に151レベルとは言え無理だったようだ。
証拠に、シマシマの身体からは間違いなく麻痺状態を表す雷の黄色い雷のエフェクトがパチパチと漏れさせながら、地面に這い蹲っている。
「銃弾と俺の位置を入れ替えるスキルだよ。前の試合でも見ただろ? 転移先はお前の兜が弾いた俺の銃弾」
天眼と精妙巧緻によって跳ねた銃弾を見つけ出し、落下までの時間を計算して突っ込んだ。
姿勢を低くしたのは落ちてくる銃弾に気が付かせないようにするため、距離を詰めたのも同じ理由だ。
「ああ、スキル使わないってのは嘘だよ」
パン!
天魔絶息の一発でシマシマの身体は完全にポリゴン化していった。俺の勝ちだ。
全速の一撃を耐えていたのはシェリーの白龍のスキルとか、俺が前スバルに貰った騎士道札見たいなHP1で耐える類の効果だったようだ。
「なんだこれ?」
試合が終わったにも関わらず勝鬨もないし、シマシマが消えた場所に球状のアイテムが落ちていた。
試合でアイテムロストするなんて聞いて無いぞ?
「ミズキ?」
そう後ろから声が聞こえ、振り返ればそこにはシェリーが居た。
は?
その後、次々と青い光の柱が闘技場に幾つも現れる。
スバル、風船、BB、シマシマまで、この大会の参加者が次々と転移してくる。
「演出……か?」
参加者29人全員が集まると、何時の間にかそいつはそこに居た。
『余はカイゼル・EX・スミス。貴公等の余興は思ったよりも楽しめた。では本番を始めようか』
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