俺だけFPS
銃と、剣と、XIV
なんだその技。見えたと思った瞬間喉に攻撃を受けていて、それを感じた瞬間に次は両腕にダメージエフェクトが出た。
クリティカルだったのだろう、ノックバックで俺は吹き飛ばされていた。壁に背中から激突した事で追加ダメージまで喰らって残りHPは1割弱だ。もう本当にギリギリだ。
「楽しいねミズキ!」
「ああ、今までのどんな試合よりも今が一番楽しいぜシェリー!」
FPSを八年ほどやり込んだ。最初に触ったのは8歳の時だっただろうか、それからゲームにハマって、それ以上にFPSにハマっていった。
中学入ってからはFPS以外のジャンルのゲームを触った覚えがない。
だけど、今この瞬間に俺は心の底から感謝している。ゲームショップの店主に、スバルや風船に、カゲにミルにジルに、女王と王女に、グランツにヘキドナに。
そしてこのゲームとそれを作ってくれた開発者。何よりも今対面する彼女自身に。
今この時間に関わる全ての人間に俺は感謝するぜ。
誰一人居なかったとしても俺にこの時間は訪れなかった。それは正しく運命で、それは正しく幸運だ。
だから、その時間を終わらせたくないと思ってしまう。
だからこそ、俺はこの時間に加減せず、終わらせる事で最高の時間を完成させよう。
「行くぞ、シェリー」
「うん!」
天魔絶息の片方、白いスキルエフェクトを纏った俺は純白の拳銃を投げ捨てる。
もうこの銃の仕事はもう終わっているから。
「させない!」
一回戦を見たお前は必ず俺の動作を止めに来る。
あの一撃必殺の大砲を見て、そんな隙をみすみす許してはくれるような相手ではない。
シェリーが距離を詰めてくる。それを防ぐには二丁拳銃の両方を足止めに使う必要がある。
それ以前に俺は電磁銃を出現させ装備してる。この状態のAGLでシェリーの速度から逃れるのはかなり厳しい。
「陽炎」
見えない弾丸を撃つ。これを避けてくれるのなら、俺は弾人入替で銃弾を自分へ当てられる。
「それは読めてる。だから、させない」
「ッチ!」
シェリーは遂に俺へ迫りながら、見えない弾丸を斬り裂いた。
陽炎も弾人入替ももう見せている。そこに銃弾を自分へ打ち込むという情報が加われば俺の狙いが読まれるかもとは思っていた。
陽炎が斬られるという事も可能性として考えていた。だから、お前なら、
「その可能性を掴めると俺は信じていたよ」
お前は俺を倒して優勝したんだ。それくらいしてくれなきゃ困るんだよ。
だからもう一手、放物線を描くように投げた俺の薬きょうに気が付いていたか?
弾人入替起動。
「うん、気が付いてる」
180度、慣性を残したまま回転し、シェリーの背面へ転移したはずの俺を、彼女はその両目で正面に見据えていた。
「だと思った」
だったら、もう最強の一撃は必要ない。次点でいい。
全速の一撃は何も天魔絶息の二次スキルって訳じゃない。
六発消費でも十分にその火力を発揮できる。雷のスキルエフェクトが銃を覆った。
地面まで3m程の距離。重力に準じるように、俺の身体が回転する。
頭が下に足が上を向く。
落下中にSRのエイムを合わせ、放つ。狙って撃つ為に俺に許された時間は約1秒。
明鏡、精妙巧微、天眼。
はっきり言って、余裕だよ。
戦闘用インベントリには自動リロード機能がある。勿論俺が実際にリロードするのに比べれば5倍くらいの時間が掛かるのだが。しかし、一度撃って即座に仕舞ったこの銃のリロードとコッキングは既に終わっている。
だからこの銃だけで出せるポテンシャルに関して言えば最大限を発揮できる。
隠して撃てばいい。落下星。
上から下へ撃つ場合の命中精度と弾速を上げるモーション補正。
そして、時計仕掛けの魔人の称号効果によって陽炎はもう溜まった。
「陽炎」
穿て。
「鏡花水月」
いつまで経ってもシェリーにダメージエフェクトが入る事はない。まるで銃弾がすり抜けたかのように。
それは彼女が口にしたスキルの能力なのだろう。
迫り来る彼女の速度はトップスピードのまま衰える事はなく、ついに落下中の俺へ刀を届かせる事ができる距離まで差し迫る。
腰より下へ下ろした刀を握る拳へ力が伝わるのが見ている俺からでも感じられた。
燕返しには及ばないものの、スキルエフェクトを宿した高速の一閃が迫りくる。
俺はそれを受け入れた。
「嘘……」
【純白天息】一度の戦闘につき一度だけ自分のレベルを5つ上げ、次に受けるダメージを一度だけ無効化する。
刃が俺を切り裂く事はなく、首を撫でただけだった。
刀を首で挟み、そのまま膝を着くように着地する。俺は片腕で持ち上げた氷怒の電磁銃を、シェリーの頭に突きつけた。
バチバチと雷が纏わりつくようなエフェクトが電磁銃を包み、パチパチと効果音が鳴る。
「さっき撃ったのはこっちだ」
天魔絶息の純黒の拳銃を軽く振る。
陽炎を使ったのは、銃弾が弾かれないようにするためじゃない。
何のスキルエフェクトもない弾丸を、電磁銃で撃った奥の手、希望の弾丸に見せる為の偽装だ。
「楽しかったぜ。シェリー」
最後の引き金を引く。既に俺はこの戦いを懐かしんでいた。
終わらせるのが、勝利するのがここまで惜しいと思わせる闘いが過去にあっただろうか。
いいや、これ以外にない。
キュイィィィィィン!! パァン!!
頭に大きなダメージエフェクトが発生し、さっきとは真逆に俺の銃弾によるクリティカルノックバックで遥か後方へシェリーの身体が吹き飛ぶ。
その時の彼女の表情は笑顔だった。
最高に楽しかった。
相手の考えを読む駆け引きが、一手間違えば負けるという緊張が、焦りを押し込む冷静さとの戦いが、その全部が生まれて一番楽しかった。彼女もそれは同じなのだろう。
「ありがとう」
勝鬨を待つ。
そして気が付く。
その文字は何時まで待っても表示されず、シェリーを吹き飛ばした砂煙の中で立ち上がる少女の姿に。
「使いたくは無かったんだけどね」
白龍を背負ったシェリー・バーリオンが姿を現す。
厳密にはそれは白龍ではなく、それを模したスキルエフェクトだ。
それを見れば、嫌でも感じてしまう。
絶対それ強化されてんじゃん!?
不知火、白龍、不死者って…………
お前かあああああああああ!!!!
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