俺だけFPS

水色の山葵

歌姫は一人で歌わないⅤ



「本気で言ってるのかい?」


 思いついた作戦は確かに普通に考えれば常軌を逸した考えだと俺自身も思う。しかし、それ以外に勝ち筋を見つけられないのは事実。ボスと雑魚の攻撃は耐え凌げているが、依然としてボスの環境変化は二分毎に行われる。カゲの必殺技で回復したミルとジルのMPがまた枯渇すれば早速勝ち目と呼べる物はなくなってしまうだろう。
 六分。さっきの戦闘から割り出したこの環境変化を耐え凌げる残り時間だ。その間にこいつらを倒しきる必要がある。


 その上で最大の問題は風船とスバルの攻撃力が著しく下がっている事だ。効果が無いとは言わないが、動き出す前の状態に比べて明らかに効きが悪くなっている。カゲや俺の銃弾、試しに撃ったジルの魔法とかは普通に通るのに二人の攻撃だけが聞きづらい。だからこそ、この作戦しか方法が無いと思う。


「良いんじゃねえか? どうせこのまま何もしなくてもジリ貧だ」


「だけど……。いや、それしかないか」


「「「スイッチ(だ)(だね)」」」


 俺の役割ロールを変える。今までのは補助サポーター。今からは遊撃アタッカーだ。
 子供でも解る簡単な話だ。攻撃が通用しないのなら、通用する奴が攻撃すればいい。俺の銃弾は奴にも十分通用する。そりゃ火力で二人に勝る気はしないが、今の二人が出せる火力に比べれば普通に超えている。
 それだけ、二人の火力が下がっているのか、もしくはそれだけ二体の耐性が上がっているのか。どちらにせよ、このまま二人をメイン火力に使うのは間違っている。


 だから、俺が前に出る。いいや、それは少し違うか。俺のポジションはあくまでも後衛。けど、前に出て戦えない訳じゃない。


 まずは後衛から潰す。


 ダン! それは俺の持つ狙撃銃から放たれた鉛玉を証明する音。
 そして、それは誰にも当たらない! ポジションチェンジ。いっきに天使の懐まで上り詰める。お前は腕を魔法に使っている。どうやってこの距離の俺を攻撃するんだろうな?
 ゼロレンジバースト、射程距離を大幅に減らす代わりに一発の威力を倍加させる。クリティカルショットを重ね掛けして、俺の出せる最高火力。勿論、狙撃銃の三発発消費効果も発動させている。
 バコン! と凡そ生物から出ない音が響き、天使が少し後ずさる。やはり、俺の攻撃は効いてるみたいだ。


「なら畳みかける!」


 狙撃銃は次弾装填動作コッキングがある。だから一発でいい。戦闘用インベントリの二丁の拳銃と狙撃銃を入れ替える。こっからはちまちま削らせてもらう。
 ウィークアイから、奴らの弱点が頭ってことは解っている。ならそこを狙うのが最上で、それを出来る武器が手にある。後はやるだけ!


 天使が後ずさった事で、少しだけ距離ができる。それを利用し、二つの腕から浮かび上がった光球が放たれる。急旋回して、俺へと向かってくるそれは追尾性能がかなり高い魔法らしい。神経を麻痺させるような状態異常を付与するそれは、もし間違って当たれば致命傷となり得る攻撃だ。
 サークルムーブ。円運動を補正するこのスキルは光球が左右から旋回して迫ってくるのに対して、一歩右にそれる事で着弾のタイミングをずらし、小刻みの右回転で右の光球を左へと流し、一歩遅れてきた左からの光球を右へ逃がす。どうやら180度回転して迫ってくるような事は無いようだ。
 すり抜けるように左右へ飛んで行った光球は、射程を越えたのか消失した。


 撃て、拳銃を撃ち続けろ。命中精度を、リロード精度を上げろ!視野を増やせ。スカイアイの情報から、未来を予測し、最適な場所で銃弾を届けろ。
 ほら見ろ、魔人が後ろで動いているぞ!なら、その腕に銃弾をぶち込んで威力を削げ、スバルに受け止めさせるな、受け流させろ。雑魚の動きも頭に入れろ。風船とカゲの間を縫ってこれる位置の雑魚にも目を向けろ。前に居るこいつだけが俺の敵じゃない。フィールド全てを見透かして、優先順位を確定させろ!


 マガジンは戦闘用インベントリから音声認識で出せ。空中に出して、マガジンを片手で差し込め。クイックリロードは毎回使える訳じゃない。右と左の拳銃を独立させろ。リズムじゃなく、理性で制御しろ。
 リロードしながら、銃を撃て!銃を撃ちながら、周りを見渡せ!
 避けろ、撃て、見ろ、撃て、そして。


 天使の翼がはためく。巨大化し、攻撃範囲を拡張し、回避不可能な羽ばたきを生み出した。それには魔人の衝撃波と同質な何かが込められていた。強風に押し飛ばされ、ポジションチェンジを使う前の位置まで吹き飛ばされる。
 くそ、空中じゃ体勢が制御できない!


 天使は腕から、光でできた槍のような物を創り出す。それを投擲する準備を整えていた。翼と腕、合わせて四本の攻撃手段があれば俺を吹き飛ばしながら狙い撃ちする魔法を用意する事も可能だという事なのだろう。
 だが、俺の持てる手段は消えていない。


 そして、頼れ!


「スバル! 俺を守れ!」


「やっと、無意識で敬語が取れたね。防御移動、体力増強、超防御壁!」


 俺の前に一瞬にして現れたスバルの盾と脚に強いスキルエフェクトが生まれる。


 キィィィンンン!!


 槍と盾がぶつかり合い、尋常ならざる衝撃と音が生まれる。
 土煙が巻き上がり、スバルと槍の姿が見えなくなっていく。ただ、頼るだけでいいとは思わない。頼るとは信じる事だ。スバルを抜けて槍が俺へ迫る事は、絶対に無い!!


 拳銃と狙撃銃を入れ替える。コッキングを終え、スカイアイを発動させる。
 今の俺は火力《DPS》だ。だったら、やる事は一つしかない。空からの視界により、俺と天使の射線を計算する。一時の方向。


「悪いが。次いでにヘッドも貰うぞ」


 弾薬を3発消費。これで、銃に入っている弾は切れる。だから、当てるんだよ。スコープは覗かない。土煙から映らないから。
 スカイアイから、俺の吹き飛ばされる方向を、天使と俺との距離と角度を、発射時のタイミングを計算する。


「いま」


 マイクロショット起動。


 撃ちだされた弾丸は砂ぼこりを突き抜け、天使の頭へと吸い込まれるようにぶち当たる。
 速攻クイックリロードを使う。ああ、完璧だ。今まで一番スキルと俺の動きが噛み合っている。一秒の30/6030フレーム。それだけの時間でリロードが完了する。


 たった数分、もしかしたら一分経っていないかもしれない。それだけの時間前に出ただけなのに、スタミナが切れている。
 回復するまで動けない。


「休みなさい。次で決めます」


「じゃな。お主の時間は儂らが稼ごう」


 着地場所に挟むように現れた聖女と魔導士は、俺が現実世界で見た事もないような戦う人間の表情かおをしていた。
 二分経ったか。天使と悪魔の頭の針が二時を指し示す。


 環境変化は見た事が無い新しい世界へと景色を写させる。


『流星群』
『溶岩流』


「スバル、上を防ぎなさい」


「風船、下を防ぐのじゃ」


「無茶を言ってくれる」


「俺なんてタンクですらねえんだぞ」


「「できないと?」」


「「出来るっての!」」


 マジ?


「呆けている暇はありませんよ。貴方が倒すのです」


「集中するのだ小僧。お主に儂の命を預けるのじゃから」


「身体負荷、体重増加、体力増強、魔力変換、超防御壁」


「神炎よ、光を生み、命を生み、文明を生み、知性を生んだ人の原初よ。我が呼び声に応え、全てを飲み込み、全てを調和し全てを平等に灰燼と至らせよ。クソなっげえなあ!! 火炎防壁カグツチ!! はぁ?一発でMP全部枯れんのかよ!」


 上空から飛来する巨大な岩を盾事巨大化したスバルが迎え撃つ。あれは、俺が銃弾を当てたとしても起動が1mmもズレる事はないだろう。頼むぞまじで。
 山頂から流れてくる溶岩を止めるように、ジルが使っていた炎の壁が出現する。俺たちを避けるように溶岩が左右に流れていき、隕石の方もスバルの盾と拮抗している。


「さあ、貴方に全てを託します」


「儂らの全てをそれに込めよう」


 そう言って二人が俺の銃へ触れる。彼等の身体から狙撃銃へとスキルエフェクトのように輝く何かが流れ込んでいく。

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