俺だけFPS

水色の山葵

歌姫は一人で歌わないⅠ



『ユニーククエスト【歌姫の希望】を完了しました』
『ユニーククエスト【歌姫達の希望】を開始します』
『ワールドクエスト【第二世界解放者】を開始します』
『ワールドクエスト【第三世界解放者】を開始します』
『参加プレイヤー「スバル」「風船」「ミズキ」』
『目的:最後の守護者を倒し、次の世界への扉を開通させる』
『難易度10』


 それが聖女、魔導長官、国王との会話で行われたイベントだった。
 まず第一フェイズ、エリアボスの出現条件は王女の眠りを覚ます事で間違いない。
 第二フェイズ、王女が行う神魔の儀式こそが次のエリアへとプレイヤーを導くイベントだ。
 第一王女ミカ・グランは神域の儀式を、第二王女ルシア・グランは魔界の儀式を行い、その世界へのプレイヤーの入場制限を解除する。


 それが国王から聞いたこの国の王女だけが使える神魔の儀式の全容だった。


 ただ、そこには門番が居る。
 扉を開けてしまえば、その門番はプレイヤーの進行を妨害するだろう。
 それこそがこのクエストの全容。つまりそいつが、最後の守護者エリアボスってことだ。


 扉を開くには、最北端の街である王都から更に北に向かった場所にある火山でその儀式をする必要がある。


「とりあえず、参加できるプレイヤーに限りがあるんならミズキ君の強化は必須だ。取り敢えず魔石スキル覚えて、戦闘用のアイテムもがっつり買っておこう」


「ああ、防具も新調するぞ。そんな初期装備じゃ難易度10の突破なんて不可能だ」


 という事で魔石屋に来た。ここで魔石を提出する事で、それに対応したスキルを習得できるらしい。


「魔石スキルって言うのは解りやすく言うとステータスパッシブだ。例えば僕はHPバフを5つ積んでHPを魔石スキルだけで500盛っている」


「最上位魔石を用意してっから好きに使え。銃だとオススメはDEXとSTRだが、VITも忘れんなよ」


 と目まぐるしい一日を送った結果、俺のステータスは大幅に強化された。


 ミズキ『ガンナー』
 LV 34
 HP 200
 MP 100
 STM 200
 STR 50
 VIT 10+(360)
 AGL 50+(130)
 DEX 50+(130)
 LUC 60+(100)


 SP


『アーツスキル』
 ホークアイ → スローサイト
 クイックショット → マイクロショット
 ウィークアイ
 クイックリロード
 スカイアイ
 ホーミングサイト → ファントムショット
 クリティカルショット
 ゼロレンジバースト
 サークルムーブ
 ポジションチェンジ


 魔石スキル
 HP補正100
 STM補正100
 DEX補正100
 AGL補正100
 LUC補正100 


 称号スキル
 森林の破壊者3


 武器
  右:森怒の狙撃銃
  左
 防具
  頭:怒和の木仮面
  胴:紅の装束
  腕:紅の籠手
  腰:紅のズボン
  脚:紅の靴
 セット効果:クリティカルダメージ30%アップ


 装飾品
 1:影縫いのピアス
(DEX+30 AGL+30)
 2:騎士道札
(VIT+40 即死攻撃回避【1】)
 3:致命の欠片
(クリティカルダメージ10%アップ)
 4:致命の欠片
 5:致命の欠片







 これが俺の現在のステータスだ。
 レベルも10以上上がって、防具とアクセサリーは大幅強化だ。攻撃力もかなり上がったし、防御力も同じくらい上がった。少なくとも今のレベルでこれ以上を望むのは無理だろう。


「今できるのはこれくらいか」


「だな。しっかし、難易度10か……」


「ああ、どれだけやっても足りない難易度だね」


 この二人は難易度9の依頼を経験しているようで、だからこそ難易度10という絶望が俺よりも良く分かるのだろう。


「あ、そうだ。ミズキ君、動画撮ってもいい? 僕達それでご飯食べてるからさ、こんな一大イベントを録画しない手はないんだよね。勿論、顔とネームは分からないようにするから」


「俺からも頼む」


「あ、大丈夫ですよ」


 動画に出るのには抵抗はない、というか結構経験があるから今更一本増えたところでだ。
 身バレしない程度なら尚更抵抗は無かった。


「ありがとう、それじゃあさっそく行こうか?」


「ああ」


「はい」


 王都北にある火山には不思議な特性がある。標高が一定を越えるとモンスターがポップしなくなるのだ。この火山が何かのイベントと関連していると睨んでいたプレイヤーは数多くいたらしいが、最初の発見者は俺たちになったわけだ。


 国の重鎮と俺が命の果実を国王に渡したことで目覚めた二人の姫は火山に先に行っている。
 俺たちが行かなければ永遠に火山で待っているのだろうかと、昔のRPGの様な疑問が湧くが多分このゲームのクオリティ的にそれはないだろうとも思う。
 多分兵士とかが呼びに来るんだろうな。それでも行かなかったら最悪カルマ値が溜まるまであるから試しはしないが。


「おお、来たか」


 その場へ居たのは全部で6人のNPC。国王、聖女、魔導長官、二人の姫、そして最後は見た事もない黒い甲冑に身を包んだ騎士。


「お初にお目にかかる。私は国王直轄の近衛兵、名は無いが一先ず『カゲ』とでも呼んでいただければ幸いだ」


 そう言って甲冑の騎士は俺に向かって膝を折った。


「貴殿が姫君を永劫の眠りから覚ましたと聞いた。誠に感謝する」


「いえ、俺たちだって先のエリアに行きたかっただけですので」


「そう言っていただけると幸いだ。私は姫を救えなかった未熟な騎士ではあるが、王都では私に勝る者はいない。此度の戦いの末席に加えさせていただこうと思いここに参じた次第だ」


「王都一番の騎士とはさぞ誉高い方なのでしょう。仲間と言うからにはこれほど心強いお方もおりません。本日は味方として、頼みます」


 文面が難しすぎる。一聞きで現代語訳出来た俺を褒めてほしい。


「ですが、次王宮内へと不法侵入されますと本気で捕縛せざるを得なくなりますので悪しからず」


 あ、思い出した。王座の間に居た騎士の一人だこの人。


「その件はご迷惑をおかけしました」


「いえ、貴殿のお陰で姫君はお目覚めになったのは揺るがぬ事実。私もその一件は不問と致します」


 という事は、まさかこの三人はお助けNPC的な感じなのだろうか。
 聖女と魔導長官、そしてカゲさんが加わっての六人フルパ戦闘って訳か。
 これはむしろ温いのでは?


「まずいな」


「ああ、これは相当……」


「どうしたんですか? 仲間が増えるのはいい事なんじゃ?」


「違うね。彼等は僕らレベル99のプレイヤーをも超える強さのNPCだ。それが三人居て、尚且つ難易度10なんだ。多分、普通の難易度10クエストよりもずっと難しい依頼ってことだろうね」


「ああ、これは相当キツイボスがいるってことだろうな」


「まじすか」


 二人の表情を見れば、それが冗談の類ではないのだと理解できる。一抹の不安を抱えながら、その戦いに挑む以外の選択肢はない。
 スーと冷たい汗が頬を撫でる、冷や汗まで再現されているのかよ。すごいな。


「それでは始めましょう」


「ええ、そろそろ始めます」


 そう言ったのは左右対称の髪型をした、青と赤の髪の少女たちだった。
 彼女らが一帯が拓いている不思議な空間へと膝を付ける。同時に願う様に両手を合わせ、同じ姿勢で祈り始める。


「天使が踊り
「悪魔が歌い
「その和声と
「その怒声が
「「世界を開く。我が呼び声に応えるは天使悪魔! 応えよ、我が名はミカエルルシファー、世界を繋ぐ者である!」」


 詠唱魔法。
 そう呟いたのが誰なのかまでは分からなかった。それがどんな物なのか俺は知る由もないが、言葉にならない程に驚いているという事はそれなりに高度な何かなのだろう。
 同じように場の全ての者達がそれを見守る。


 透き通るような歌声に応え、景色が変貌していく。


 丸い扉が現れ、回転する。独楽のように回る黄金の扉と赤紫の扉は次第に近づいていく。
 二つの扉が融合を始め、それが1つとなった時扉が開く。


 そこから覗くのはこの場所と全く同じく、しかし俺たちの誰もいない火山の景色。
 そして、扉の向こうで佇む最後の守護者(2体)の姿だった。

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