俺だけFPS

水色の山葵

歌姫は一人で歌うⅦ



 よし。武器の強化もスキルのつけ直しもアイテムの補充も終わった。エリアボスも倒したから次の街へ直行できるな。
 この街へ戻ってくる手段がないけど、流石に街間の移動機能位手に入るだろう。じゃなきゃ走って戻ってくるしかないのか。


 そう言えば破壊者戦で手に入れたアイテムは素材と防具だけじゃないんだよな。


 消費アイテム『命の果実』
 蘇生アイテム。命すら蘇し、全ての異常状態を解除する秘薬。NPC専用アイテム。


 使用不可ってなんだよ。どう使えばいいんだろうか。


 街の出口に向かって歩いていた。街中が騒がしいのは昨日も同じだったけど今のそれは何か皆同じような事について話しているような感じがする。


「なんでここに居るんだよ」


「知らねえよ。最前線の攻略組がこんな最初の街に来る意味あるか?」


「ってかあの人、有名配信者でしょ?」


「私、握手して貰おうかな?」


「VRで握手ってどうなの?」


「ええー、それでも全然いいじゃん」


 始まりの街の至る場所でそんな声が聞こえてくる。
 なんだ? 誰か有名人がここに来てるのだろうか?
 まあ、俺には関係ないか。








「「ちょっと待ってください!」」


「え?」


「「え?」」


 三角関係とはこんな状態をいうのだろうか。同時に声を掛けてきた二人のプレイヤーが、お互いの声に驚いて、そもそも俺は両方に驚いて三者が見合う。絶対三角関係これとちゃう。いいとこ三すくみだ。


「俺っすか?」


 まずは本当に俺が声を掛けられたかどうかの確認は大事だろう。


「「そうです」」


 一方は赤青緑白の面白い感じの配色が施された鎧に身を包んだ騎士。
 もう一方はモノクルを着けて、黒い狼を象ったような軽装の装備をつけた戦士。


 どうやら彼等の目的の人物は俺で間違いないらしい。
 しかし、それはそれでなんで俺に話しかけて来たって話になるんだが。VRMMOプレイヤーのコミュ力ってそんな高いのか? フットワークの軽さがやばい。


「というかお前が何でここにいる?」


「多分君と同じ理由だと思うよ。というか退いてくれないかな」


「は? ここで退けるわけねえだろ」


 なんかお互いで喧嘩始めるし。知り合いっぽいな。けど一緒に来たわけじゃないのか。


「テメェには絶対渡さねえ!」


「君と意見が被るとは思わなかったよ」


 さぁ、次の街目指しますか。次の街にはこの街には無かった魔石をスキル化する施設があるらしい。
 楽しみだな~。あとこのゲーム、ご飯の味もちゃんとするから食べ歩きとかも面白そうだ。レベル上げだってまだまだ必要だしやるととは山積みだ。
 こんな変な輩に構っている時間はない。


「「ちょっと待ってください!!」」


 おお、この二人シンクロ率高いな。両肩を抑えられては抜け出せない。一応STRは50以上あるんだけど、この二人の方がそれよりも高そうだ。良く見れば武器も厳ついし、始まりの街で手に入るような装備じゃないな。
 高レベルプレイヤーだろうか?


「お願いだから、パフェ驕るから待ってくれないかな?」


「良し速く食わせろ」


「こっちだ付いてきな?」


「ああ」


「ノリノリだな」


 という事で場所を移してこの街で一番高い飲食店の戸を開けた奥。
 そこに高レベル装備のプレイヤー二人と、初心者脱出したばかりのプレイヤーが同席していた。
 高いだけあって個室に入り、完全に三人だけの空間となった場所で彼等は何故俺に話しかけたのかを語り始めた。


「という訳で、僕は聖女様の使いで君を探していたんだ」


「俺は魔導長官様の使いってことになるな」


 まずは彼等の事についての説明をしなければならないだろう。


 騎士装備の方はPNスバル。このゲームのプレイ動画を配信している投稿者の中ではかなり大手の人らしい。
 黒い狼を象った服装の方はPN風船。こっちもゲーム実況をしている。


 この二人はお互いに別路線ではあるが、このゲームのワールドクエストの最前線を進んでいるらしい。
 でだ。この世界の次のワールドクエストは俺でも確認できるのだが、現在のクエスト内容は『エリアボスを倒して道を切り開け』だ。


 最高カンストレベルのプレイヤーは結構な数いるのに、それでもマップが全て埋まっていないのはクエストの難解さが関係している。
 今最前線の街、王都グランディールには次のエリアに行くための道もなければ、エリアボスも周りのエリアの何処にもいなかった。


 それを攻略するのに必要な道具が、俺が森林の破壊者から手に入れた命の果実。


 今王都に行くと、プレイヤーは絶対にある一つの噂を耳にする。
 この国のお姫様が眠りの病に罹っていると。二人はこれが次のマップへのキーになっていると考えたらしい。


 そのユニーククエスト【眠り姫の目覚め】を受注したのがこの二人。
 受注元は、その国の王都に居る聖女と魔導長官というNPCらしい。その依頼が受けられるようになったのがついさっき。つまり、俺が森林の破壊者を討伐したことを何らかの手段でその二人のNPCは知ったのか。
 その方法も気になるが、この二人はそこまでは知らなかった。クエストを受けて言われた場所に言われた人物を探しに来ただけというのが真相のようだ。


「ってことは二人とも同じ依頼を受けたってことですか?」


「そうなるね。僕が受けたのは命の果実を持ってこいって感じの依頼クエスト


「俺も一緒だ」


「ってことで頼む! 命の果実を譲ってくれ! ユニークのレア度8装備くらいなら渡す用意があるよ」


「てっめ、汚ねえぞ! ならこっちはユニーク二つだ!」


 この世界にはユニークアイテムとそれ以外の装備という二種類の武装がある。
 ユニークアイテムって言うのは俺が手に入れた怒和の木仮面みたいな製造ではない武装の事だ。
 誰が作ったわけでもないのに、世界中に散らばるそれは製造防具についていない特殊な効果を持っている。
 通常、生産品で特殊効果を持つのは武器だけで、防具はセット効果くらいしか特殊効果は付いていない。


 しかし、ユニークアイテムの場合は俺の木仮面然り単体で強力な特殊効果が付いている。
 それを差し出してくるとは、余程重要なアイテムなのか、それともそれだけこの二人はユニークアイテムを沢山保有しているんだろうか。


「ま、受け渡し不可なんですけどね」


「「なんだって(だと)?」」


 嘘を吐いた。この命の果実というアイテムはトレード不可なんて書かれている文面は全くない。
 けど、ただ渡すんじゃ癪だしな。


「なるほど、だから難易度6ってことか」


「全くだ。初心者を最前線まで連れていくキャリーするってのは難易度6相当だな」


 どうせだ、最前線の街まで連れて行って貰おう。レベリングも一人でするより効率いいだろうし、パーティープレイも体験しておきたい。


「で、あんたは結局俺とこいつのどっちに着くんだ?」


「そうだね。それを聞いておかないと」


「まだ言わないですよ。依頼主のNPCとも話して決めます。その方が二人もいいんじゃないすか? 選ばなかった方の邪魔を警戒しながら道を進むのは嫌じゃないっすか?」


「あんた初心者にしては頭回るな」


「確かに貴方の言う通りだね。即席だけどこの三人で王都を目指そうか」


「この商売敵のイケメン野郎と組むのは嫌だが、仕方ねえな」


 仲が悪そうな二人だが、後で動画を見てみれば結構頻繁にコラボしてエリアボスの解説動画なんかを上げていた。
 仲が悪く見せているのはお互いにライバル関係にあるというのがリスナー受けするからのようだ。


 連携も高くPSプレイヤースキルも高い。攻略最前線なだけはあるな。

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