転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

35 最悪の結果ですわ(セイラ視点+エドワード視点)

 はっと背後を振り返り、神装:天の糸を持つ手に力を籠める。

「マリオン様…」

 周囲を空間魔法で守りつつ、少し離れてしまった場所でその能力を暴走し始めた親友を思い、もし最悪の場合はこの手で殺すことも考えながら、アンデッドの群れを攻撃していく。
 神装:天の糸で切り刻み、空間魔法で押しつぶしていく方法は決して効率がいいとは言えないけれども、意識を失うまで神装を使って殲滅するよりはましだと思ってこの方法を選んでいるが、時間がないのかもしれない。
 本当にマリオン様の能力が解放されて暴走してしまえば、あの一帯だけではなく参加している一般生徒のいる場所まで影響が及ぶ。
 そしてそれは、最悪カイン様に影響が出るということで、12公爵家の人間としてはそれは絶対に阻止しなくてはいけないことだ。
 ギリっと歯を鳴らして、八つ当たりのようにアンデッドを殲滅していきながらどんどん奥に進んでいく。
 この大襲撃を指揮している魔物がいるはずなのだ。

「この奥にっ」

 早く倒して、早くマリオン様のところに行ってあげなければ、あの子は泣いてしまうかもしれないと目を細める。
 マリウス様がもし抑えきれなければ、マリウス様の生命力すら奪って暴走してしまうかもしれない。もしそうなったら、きっとマリオン様は泣いて泣いて、狂って孤独のあまり死んでしまう。

「そうなる前にっ」

 殺してあげなければいけない。

「どきなさい!」

 叫んで一気に魔力を使い一面を断絶していく。アンデッドなど欠片も残さず消滅させる勢いの魔法は、軽く息が上がってしまうけれど今はそんなことに構っている暇はない。
 奥に向かって走りながら現れ、行く手を邪魔してくる魔物たちを殲滅して、奥の魔物が集まっている場所に向かって跳ぶ。
 魔力を羽のように羽ばたかせ、一気に飛行するとこちらを見上げる魔物と目が合った。

「ユニコーン」

 穢れを知らないはずの神の使いともいわれる獣が、闇に染まり不死になってしまったのしょうか。
 本来ありえない現象、けれども確かに目の前にいるのはユニコーンのアンデッドで、この大襲撃の中心。
 なるほど、と呟いて上空を旋回する。
 ユニコーンであれば知能も高く魔力も高い。アンデッドになぜなってしまってのかはわからないが、なってしまったがゆえにその魔力は闇を集めて強くなっていってしまったのだろう。
 他のアンデッドを呼び寄せるほどに強く、深く、濃く、闇を纏ってしまったユニコーンはもう戻すことはできない。

「なら、終わらせましょう」

 おこしませ、と小さく口に出しかけたところで、背後に光の柱が立ち上がった。

「あれは・・・」

 小説の中でミレーヌ様が神の加護を得たがゆえに起こる現象。だとすれば、ミレーヌ様は神の加護を得たのでしょう。
 けれども、小説の記憶のものよりも光の柱は弱いように感じられこの場まではやはり届きはしない。

「…おこしませ」

 もしかしたら時間が経てばもっと巨大話等になるのかもしれないけれども、そんなものを待っている余裕はない。
 天から光が落ち体を包み込む。神装:天の翼が魔力をたどる様に一対二枚の羽を作り上げ、体の周囲を茨が包み込み囲っていくと、魔力を吸い上げその蔦に長春花の花が咲く。

「神装:天の翼、神装:長春花」

 茨はすべてを絡めとり、そして呑み込んでいく。魔力を飲み込み、邪気を飲み込み、闇すら呑み込んで大輪の花を咲かせる。
 真っ赤な、血のような色の花が開きそして散っていく。
 その花びらすら、魔物たちには毒であり、触れた場所から溶けて消滅してしまう。

『歌え』
『歌え』

 声が頭の中に響くままに、喉を震わせて歌を謳いあげていく。私の魔法は無詠唱でも通常の呪文でも使えるけれども、神に力を願うときは歌が呪文となり、魔力を紡いでいく。
 いつもよりもごっそりと抜けていく魔力を感じながらも歌い続け、ユニコーンに茨を伸ばしていく。
 大丈夫だと歌いながら、安心させるように子守唄を聞かせるように歌いながら、茨のとげで逃がさないように絡めていく。

「~~~♪」

 高く、高く謳いあげユニコーンの皮膚に刺さったとげが闇を吸い取っていくのを感じながら、それが浄化され華となって咲き誇る様にイメージして魔力を操る。
 大丈夫だからどうかもう泣かないで。不安にならないで。私があなたを還してあげるから。
 歌い上げる途中、後方を確認すれば光の柱はまだ続いているけれど、強くなる気配はなく、けれどもマリオン様の生命力吸収には対抗できているようで、その力がこちらに向かってきている。
 吸えばいい、と歌い上げる。
 この私の魔力を吸うことができるのなら吸ってみればいいと、誘い込む。
 追いかけるマリウス様の魔力に申し訳ないと思うけれども、もうマリオン様が止まらないのなら殺してあげるしかないのだと、一度目を閉じもう一度しっかりと開きマリオン様の魔力を見据える。
 全てを吸い込む能力は、この神装:長春花とにているけれどもマリオン様のものはもっと救いがない。
 空っぽになった魔力を補充するために、一気に生命力を集めるのに自分の意思など無く本能がそうしてしまう。
 砂が水を飲み込んでいくように、その器を満たすまで止まることはない。そして吸われた側は、全ての生命力を奪われれば死んでしまう。
 対抗するにはより多くの魔力・生命力を保有するか、結界魔法張って防ぐしかない。

「~~~♪」

 マリオン様はきっと泣いてしまうから、殺してあげよう。
 見えてきたマリオン様の姿を見据えて、一筋だけ涙が流れる。幼いころから一緒に育ってきたも同然の親友が、意識なく望まぬ能力を行使する姿は見ていてつらい。

「神装:血吸いの太刀」

 一気に魔力が持っていかれる感覚と引き換えに、右手の中に剣ではなく刀が現れる。潰すためのものではなく、斬るための刀を構えマリオン様に向かって一気に降下した瞬間その体に覆いかぶさるように、マリウス様の体がマリオン様をかばい二人で太刀に貫かれた。
 思わず見開いた眼の先で、血を吐き出してマリオン様に己の魔力を吸わせるマリウス様が、ちらりとこちらを見て笑った。

「この、まま…眠ろう。眠りの檻の中で、もう一度二人で、産まれなおそう」

 そうマリウス様が呟いて、呪文を唱えると神装:血吸いの太刀を中心に二人を真っ赤な枝が包み込んでいき、幹を作り上げた。

「…ぁ」

 これは最悪だ。12公爵家の人間が一気に二人も失われる結果になってしまった。
 柄から手を離しても、幹はその太刀を離すことなくそこに在り続けている。おそらく中でゆっくりと神気を魔力・生命力に変換しているのだろう。
 いつ目覚めるのかもわからないこんな状態になるなんて、もっと早くに手を下す判断をしていればよかったと歌を止め涙を流す。

「ぁあぁぁぁぁああああ!」

 叫び声が響き渡った瞬間、遠く離れた場所にいるミレーヌ様の光の柱が太く強くなったのを感じ、遅い、と八つ当たりだとわかっていても思ってしまう。
 水面の波紋のように広がった浄化の魔法がアンデッドを浄化していくのを感じ取りながら、どうしてもっと早くこうならなかったのかと地面を叩きつける。
 クレーター状にへこんだ地面を何度も叩きつけ、ボロボロと涙を流す。

「セイラ!」

 かけられた声に顔を上げて、手を伸ばしたところで意識が途切れた。



******************************



「セイラ!」

 想定していた中で一番最悪の状態に、それを目の当たりにしたセイラに向かって手を伸ばし、その崩れ落ちる体を抱きしめて支える。

「最悪だ」
「ヴェルナーになんといえばいい…。君の婚約者は半身と共に眠ったなんて…、言えるわけがない」
「言うしかねえよ。ゲミニー家に空きが出たんだ、黙っているわけにはいかない」

 背後の会話に、セイラを抱く腕に力を込めて真っ赤な幹を見る。
 いつ目覚めるのかわからない。明日かもしれない、数年後化も数十年後かもしれない。
 こうなる可能性は想像していたからこそ、セイラは親友を手にかける覚悟を決めていたのに、マリウス様はそんなにもマリオン様に狂ってしまっていたのだろうか。

「セイラが心配だわ。戻りましょう」
「責任を感じるだろうな」
「セイラ様のせいでこうなったようなものだからな」
「セイラのせいじゃないわ!」
「ああ、わかってる。だが、そう見えるだろう」

 幹に刺さっている神装を見れば、セイラがこの現象に関わっていることはわかる。きっとマリウス様は最後までマリオン様を救おうとしていて、この方法を選んだのだろう。
 それが12公爵家にとって最悪の方法であるとわかっていても、片割れに依存して狂っていたのだろうか。失うよりもともに眠りにつく方法を選んでしまうほどに。

「二人で眠るより、一人残されて狂い死ぬ方を選びなさいよ」

 その間に次代をしこめばいいだけだったのに、と考えながらセイラを抱き上げて立ち上がった。

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