転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

34 やってきましたわね、アンデッド(セイラ視点+マリオン視点)

「アンデッドの大襲撃、来てしまいましたわね」
「そうですわね」

 戦いに赴くべく準備を整えながら、マリオン様となんとなく話をする。
 小説の中の出来事が着々と起こっていくから、いつかは来ると思っていたけれども、この大襲撃は私が婚約破棄を申し付けられてから起きる出来事だったから、油断してしまっていたのは反省しておりますわ。
 もっと対策をしていれば、死んだ人間が少なかったかもしれませんもの。

「今回は私が前線に出ますわ。セイラ様もできれば前線に出ていただいてもしもの時はどうか私を、殺してくださいませね」
「止めてくださいがいいですわねえ」
「だって、止めたところでどうにかなるのでしょうか?周囲の生命エネルギーを吸収する化け物なんて、厄介なだけですわ」
「否定はしませんけど、マリウス様がいるのですからどうにかなりますわ。今回は後方でいざというときに出るように待機していただいておりますもの。ご自分の片割れを信じてはいかがです?」
「信じておりますわ。だって私の半身ですもの、信じないわけがありませんわ。その代償にマリウスの命が脅かされたら、私は自分を呪いますわ」

 その言葉に宿った言霊に、思わず眉をしかめてしまうけれども、この双子の関係についてはそれこそ生まれる前からのことなのだから、私のようなものが何かを言って変わるものではありませんわ。
 では、今回の場合どうすればいいのか?
 方法としては私が全力で押さえつけておく、それこそ神装を使用してでも押さえつけて眠りに落とせばなんとかなりますが、その場合マリオン様は眠ったまま起きるかはわかりませんわね。
 そのまま婚約者様のところに嫁いで、目覚めないまま子を産むことになり、腹を裂いてでも産まされる子供を抱きしめることもできずに死んでしまうのかもしれない。
 マリウス様が間に合ってマリオン様の能力を封じ込めることが出来れば、マリオン様は起きたまま過ごせるでしょうけれど、一度解放された力をもう一度押さえつけるのは、マリウス様でも難しいのでしょうね、命を懸けて止めるといったマリウス様の言葉はきっと嘘ではないのでしょう。

「困ったものですわね」
「セイラ様を出すにしても、規模の全容がわかりませんので、どのタイミングでしていいのかもうわかりませんわね」
「ミレーヌ様が覚醒して神の加護を得られれば一瞬で解決しますわ」
「セイラ様が本気を出してもそうですけれど、その場合セイラ様が目を覚ますまでどれだけかかるかわかりませんものね」

 二人で準備を整え終わると、そのまま窓から二人で飛び出し、襲撃を受けている場所まで全力で走る。
 あっという間に到着した場所は、すでにエドワード達が到着して前線が押し戻しているが、それまでに被害があったのか、けが人が続出しておりアンデッドの気にあてられて体の一部が魔物化しかけている生徒もいる。
 マリオン様が来てくれたことで目を輝かせた生徒たちに、マリオン様は手をかざしあっという間に怪我や魔物化をとくと、前線を見つめてこぶしを握る。

「マリオン」
「マリウス…、頼みましたわよ」
「うん」

 結界を張って生徒を守るマリウス様にマリオン様はそう言うと、また全力で前線に向かっていった。
 私は残ったマリウス様を見る。

「最悪の場合は…」
「うん、やっちゃって。その方がマリオンもいいから」

 やっちゃって、というのは殺してしまってということと同意儀。
 もう姿が見えなくなったマリオン様の気配を追って視線を動かせば、既にそこでは浄化魔法が使われ始めている。
 エドワード様やカール様、アレックス様も戦っている気配はするけれども、効果は明らかに浄化魔法のほうが出ている。

「…いますのね」
「うん」

 後方待機の生徒に目を向ければ、王子であるカイン様ももちろんいるのだが、その近くにミレーヌ様が待機しており、必死に治療を行っている。
 治癒魔法もすり傷を治す程度にしか使えないというのだから、ここにいる意味はほとんどないだろうに、それでも参加するのはカイン様がいるからでしょうか?

「では、私も行きますわ」
「気を付けて」

 その言葉を背に前線まで一気に走り、その勢いのまま、取り出した神装:天の糸に気を流してアンデッドを切り刻む。

「セイラ!」
「ここは私とマリオン様にお任せください!皆様は左右の守りに!後方部隊に流れるアンデッドを倒してくださいませ」
「大丈夫なの?いいのね?」

 エドワード様の言葉に、私は無言でうなずくと、迫ってくるアンデッドの魔物の首を落としてその四肢を切り刻む。

「いってください!」

 その言葉にエドワード様たちは一瞬顔を合わせた後にそれぞれの方向に走っていく。
 それを見送って、マリオン様と背中をわざと合わせるように位置を取って、お互いの体温をなじませる。

「マリオン様、いきますわよ」
「ええ、セイラ様。私どもの実力を見せつけてやりますわ」

 そう言ってマリオン様はぐっとこぶしをにぎり、その手に、浄化魔法でのみ作った水晶の剣を持つと、一度だけ深く息を吐いてアンデッドの中に飛び込んでいった。
 一振りするごとに倒され消えていくアンデッドの様子に、流石だとは思うが、あの剣を維持するだけでも相当の魔力を使っているはず。
 マリオン様の中に有る魔力が尽きれば、周囲から無作為に魔力、生命力を摂取しようと体が自分の意思とは関係なく動いてしまう。
 そうなったら、被害の少ないうちに私が押さえつけてしまうか、マリウス様が結界の中に閉じ込めてしまうしかない。
 けれど、そうなってしまった際にマリオン様のお心が今以上に狂わない保証はない。
 生まれる時点で母親の生命力をすべて吸い取り、腹を破って出てきた双子、その事実にマリオン様は自分を呪い恨み、それを生き延びたマリウス様に依存するようになった。
 もし今度同じようなことがあれば、マリオン様はどうなってしまうのでしょう?
 私はその光景を見たくはありませんわ。その時は、親友としてマリオン様を殺すしかないのでしょうか。

「セイラ様っ!」
「はいっ!」

 神装:天の糸を操りどんどんアンデッドを倒しているのに終わりがい見えない戦いに、数の減らない敵に、マリオン様のもつ水晶の剣が次第にその輝きを弱くさせていっているきがする。
 あれがあるうちはいいけれども、消えてしまった時がタイムリミットでしょう。
 アンデッドの種類は人間タイプだけではない。大きな魔物のアンデッドも混じっており、これは扇動している何かがいる可能性が高いのに、その中心に近づくことができない。

「セイラ様!ここは私がおさえますわ。もっと奥の中心を押さえてくださいませ」
「何を言ってますの!」
「大丈夫ですわ、まだ戦えますもの」

 そう言って笑うマリオン様に、どちらにしろこのままでは時間が過ぎていくだけだと、そうなればマリオン様も無事では済まないのだと思い、ぐっと歯を噛みしめてそのまま魔物の気配が強い場所まで走っていく。



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 走っていったセイラ様の姿を目の端にとらえて、口の端を上げて笑う。
 大襲撃というだけあって、これは予想以上のものですね。
 輝きを失いかけている水晶の剣に力を注ぎ直して向かってくるアンデッドの頭を貫く。
 アンデッドに有効な攻撃は、浄化か治癒魔法系統をぶつけること、もしくは体を切り刻み再生結合が孵化なまでにすること。
 炎で燃やし尽くすのも有効な手だと言われている。
 私は生命力を使用した浄化・治癒魔法を得意としているけれども、それは普段から少しずつ周囲の生命力を吸収しているから。
 そうしてストックしているから問題ないけど、その生命力が尽きて倒れるようなことになれば、私は無意識に周囲の生命力を吸収し始めてしまう。
 それに耐えることができるのが、マリウスが私に対して反射で自動展開させる結界魔法と、セイラ様のもつ神の加護による結界ぐらい。
 婚約者でもこれは止められないから、彼にはそうなったら殺してくれるっていう約束で婚約をした。
 愛している彼の命を自分で奪うぐらいなら、殺されて方がいいと考えるのは、逃げだとわかっているけれども、私はそうでしか自分を支えきれないから許してほしい。

「はあっ!せぃっ!」

 切っても切っても、アンデッドは減っていかない。
 セイラ様は中心部にたどり着いてくれたでしょうか?もっとも、これだけのアンデッドが統率を無くせばもっと厄介なことになるかもしれませんわね。
 けれどもこうするしかありませんのよ。私の被害を減らすためには私の周囲から人を離すしかありませんもの。

「たあっ!」

 前線で戦っているだけあって、さっきよりも随分と増えた数に、思わず笑いがこみあげてくる。
 ミレーヌ様とやらが神の加護をもらうのがいつなのかは知らないけれど、間に合ってませんわ。

「我が身のうちに眠る生命の息吹よ。今此処に開放を命ず。開け!不死を滅せよ!魂の浄化を示せ!我は望む!不死なる者の魂を、その器より開放せよ!」

 叫び、自分の胸のに手にしていた水晶の件を突き立てて、生命力の扉を開く。
 溢れていく浄化の力が、勢いよく広がりアンデッドを一瞬で飲み込み消滅させていくのを見ながら、ダンッと足を踏みしめて必死に意識を保つ。
 胸に突き刺さっている剣の痛みも意識をつなぎとめるのに役に立ってくれているけれど、そこからどんどん体の中から出ていく力の感覚に意識が遠のきそうになる。

「この先は行かせませんわ」

 私の後ろには、半身がいるのだから進ませるわけにはいかない。
 彼は戦うこともできるけれども守ることが専門なのだから、戦うのは自分で良い。
 もっとも、自分が戦えているのかと言われれば、決してそんなことは言えないのだけれども、ある程度はたしなみとして扱えるのだから、きっと普通の生徒から見れば戦えているように見えているはず。

「マリウス……、ごめんなさい」

 私が貴方のお母様を奪ってしまった。
 何度謝っても謝り足りないと、心の底から謝罪の言葉が湧き上がってくる。
 枯渇していく自身の生命力に、割れて砕けた水晶の剣に終わりが近いことを察して残ったアンデッドのところまで、ぐっと足に力を入れて走り寄り、一気に浄化の力を叩き込んで消し飛ばす。
 恐らく今のがこの付近にいたアンデッド魔物の一番の大物、3m近い虎のようなものはもうあたりには見当たらない。
 アンデッドの気配も、この周辺からはしない、残っているのはここよりも奥のセイラ様がいる場所と、左右の方に数体。あのぐらいならカール様たちでも対処ができるし、浄化魔法を持つ生徒がいれば大丈夫。
 セイラ様のところが一番不安だけれど、セイラ様だから大丈夫。

「大丈夫じゃないのは、私ですわね」

 生命力の摂取を始める前に、自分でけりをつけなければ。
 そう思って、戦闘服の裾に隠していた短剣を取り出す。

「愛してますわ」

 誰に向けた言葉だったのか、もう自分でもわからないほど意識が朦朧としながら振り下ろした剣が、自分の胸を貫いたのかもわからないまま、私の意識は闇に落ちていった。

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