転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!
29 では距離を置きましょう(セイラ視点)
様子がおかしいと感じたのはカイン様が戻ってきてすぐのことで、どこか呆けたような様子に私だけではなく他の方々も目を合わせてどうしたものかとカイン様を観察していた。
「カイン様、今日の午前中に倉庫に閉じ込められたと聞きましたが、なにかあったのですか?」
「ああ、うん・・・。面白いことがあったよ」
「面白いことですか。それはカイン様が能力をお使いになったことと関係しているのでしょうか?」
夕食時にそう訊ねれば、一瞬だけ驚いたようにパチリと瞬きをして、カイン様はそれも関係していると頷いた。
能力の行使、それはあまり褒められたものではないのだが、カイン様の中では使って当たり前の能力なせいであまりためらいが感じられない。
とはいえ、他人の頭の中を見るのは基本的に気分が悪いそうなのでしないといっていたが、ミレーヌ様には少なくとも今日は使っているはずですし、どうしたものでしょうね。
「ミレーヌがね、随分かわいいことを考えていたんだよ。僕のことが欲しくてたまらないみたい、なんでだろうねえ。僕と結ばれて幸せに暮らすなんて、あんな夢みたいな幸せな妄想を信じてるんだよ、愚かだよねえ」
おかしそうに話すカイン様に、もしかしてミレーヌ様の頭の中を覗いて例の小説の内容を知ってしまったのでしょうか?
その情報量にどこか気もそぞろだったのかもしれませんけど、それにしては国家の大事だというのにあまり焦りを感じませんわね、どうしたものでしょうか?
隣に座るマリオン様とさり気なく視線を合わせて頷きあう。
こうなってはカイン様にも小説の内容をお話しして、確認するのは手っ取り早いですわよね。
「カイン様、その夢物語のお話しなのですが」
「うんすごいよね。僕だけじゃなくって12公爵家の男を手玉に取るとかさ、おっかしいよねえ」
「はい?」
「でも安心して。ちゃんと僕が皆のためにミレーヌを引き留めておくから」
にっこりと笑みを浮かべるカイン様の言葉に、全員が首をかしげる。
「どういうことでしょうか?カイン様だけではなく他の方もミレーヌ様はその・・・、狙っていたというか恋人のような関係になりたかったのでしょうか?」
「そうみたい。でも初手から躓いて諦めたって感じだけど。まあ、だからこそ必死に僕の気を引こうとしてるみたい」
「そうなのですか」
それは随分と、小説とは違う内容ですわね。小説の中ではミレーヌ様はカイン様を一途に思っていらっしゃってましたものね。
やはり小説の内容とは随分変わってきてしまっているようですわ。
いえ、結局はカイン様の気を引こうとしているのですから小説のようになっているということでよろしいのかしら?
「でもミレーヌの思惑に乗っかると、どうやら彼女は神の加護を得ることができるみたいなんだよね」
「それは、つまり・・・」
ミレーヌ様が私に変わって婚約者になれるということですわね。
「カイン様、お話に入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、マリオン様」
「カイン様はセイラ様を婚約者の座から降ろして、ミレーヌ様を婚約者にするおつもりなのでしょうか?」
「そうだよ」
「それはセイラ様を蔑ろにしているとも取れるお話ですが、カイン様は12公爵家を愚弄していらっしゃいますの?」
マリオン様の言葉にカイン様がキョトンと首を傾げ、私の方を見てから周囲をぐるりと見渡し、自分に集まっている視線に避難の色が混ざっていることに気が付いたらしく、驚いたようにもう一度私を見る。
「愚弄するつもりはないよ。むしろセイラを尊重してるからミレーヌを婚約者にしようかと思ってるんだよ」
それは随分傲慢な言葉だと、そう感じてしまうのは私が12公爵家の者だからでしょうね。
普通の令嬢なら自分のためにと言われれば悪い気はしないかもしれませんわ、私はもちろんここまでに培った覚悟や知識が無駄になるのはいい気分ではありませんわ。
「そうなのですか」
ちょうど食べ終わったこともあり、いつもならしないのですが食後の会話を楽しむこともなく、席を立つ。
「セイラ?」
「婚約者を辞めさせられる前提のようですし、身の程を弁えさせていただきますわ。今後はお部屋に行くこともございませんし、私の部屋にもいらっしゃらないでくださいませ。どうぞミレーヌ様との仲を深めてくださってお楽しみくださいませ」
にっこりと笑みを浮かべてそう言って、静かに食堂を出て談話室に向かう。
途中皆様と視線を合わせたので、私の意図はわかっていただけたと思いますけれど、これから会議ですわね。
******************************
ふざけた話しだと、そう感じたのは私だけではなかったようで、カイン様も来ようとなさったようですが他の方にやんわりと拒絶されてこの談話室には入れなかったようですわ。
先ほどのことで皆様機嫌が悪いようで、談話室内の空気が若干重い。
メイドや侍従も全員下げてしまっているので、私とマリオン様で最初の一杯目をご用意しますが、申し訳ないのですが皆様同じ飲み物にさせていただきますわ。
ラベンダーティーの効果で少しは皆様の心がほぐれるといいのですが、どうなのでしょうね。
「さて、厄介な話になったわけだけど・・・セイラ様はどうしたい?」
「どうしたいといわれましても、婚約者で無くなるのでしたら適切な距離を取るだけですわ。カール様のおっしゃる節度ある行動というものではありませんか?」
「そうだけどね、結局はセイラ様の為にとかいってるわけだからね、あの執着が薄れるとは思えないんだよ。アレックス様はどう見る?」
「胡散臭い」
「そうよね、セイラの為という割には中途半端なことをしてると思うわ。婚約者として犠牲にはしたくないけど離す気はないっていうのが感じられたし」
エドワード様の言葉に全員が頷く。
「つまり飼い殺しということでしょうか?私にとっては一番嫌なことですわね。ともうしますか、これは王族の秘密に多少関わるので詳しくは言えませんが、加護を持った方が王妃になるのなら私が傍にいる必要もありませんわ。その場合、私は思う存分戦いに赴くのが常識というものですわよね」
次代を産む王妃がいるのなら私は必要ありませんもの。
「でも、カイン様がそう望むのでしたら拒否はし辛いのではありませんか?」
「マリオン、いくらカイン様でも12公爵家全体を愚弄するような行為は出来ないし、セイラ様の場合は神々が黙ってないよ」
「そういえばそうですわね」
というか、私の場合はその神々が合法的に私を手に入れるためにカイン様の婚約者、ひいては次代を産む王妃に仕立て上げたといったほうがいいような気がしますわ、私もつい最近そう考えるようになったのですが。
それぞれ飲み物を飲みながら、ため息交じりに話し合う。
カイン様の暴走については王族に苦情を申し立てる方針で決定したけれど、半神であるカイン様がミレーヌ様の思考に沿うように動くとなると、小説のような出来事がこれから起きる可能性がありますわね。
閉じ込められる出来事は時間が違いますけれど終了したようですし、あとは夜のお散歩などですわね。
「夜間の警備については護衛の方々にがんばっていただくしかありませんけれど、アンデッドの襲撃については私どもで動くしかありませんわ」
「私が動くのがいいのですが、大襲撃となると規模が把握し難くて力の加減が難しいのですわよね」
「暴走だけはまずいよな、セイラ様はいいとして他が死ぬ可能性があるし。僕で抑えられる限界っていうのがあるし」
「そうですわね、お母様のように命ごと奪う可能性がありますものね」
「ほんとにね」
のんびりと話している内容ですが、物騒ですわよ。
マリオン様の魔法は治癒魔法ですが、魔力の性質は強奪ですものねえ、困ったものですわ。
「まあともかく、カイン様とセイラ様の婚約の件はどうするのよ。例の小説のようになるならセイラ様は婚約破棄されて・・・どうなるんだっけ?」
「破棄されて、の後は書かれてなかったと思いますわ。私の記憶に残っていないだけかもしれませんけれども・・・、ええなかったと思いますわ」
それなら、とエドワード様は手にしていたカップをテーブルに置く。
「このまま捨てておかない?カイン様とセイラの接触に関しては、私達でも気を付ければ少なくとも寮ではなんとかなるでしょう?講義はセイラとカイン様が被るものもあるけど、お友達たちにも協力してもらいましょう」
「皆様も巻き込むのですか?あまり大げさにしては国交に差しさわりが出るのではありません?」
「大丈夫よ、悪いのはカイン様だもの。王族に苦情を言うんだし、若気の至りってことでね」
自信満々にいうエドワード様に、私は留学生の方々の顔を思い出しながら、小さくため息を吐いた。
「カイン様、今日の午前中に倉庫に閉じ込められたと聞きましたが、なにかあったのですか?」
「ああ、うん・・・。面白いことがあったよ」
「面白いことですか。それはカイン様が能力をお使いになったことと関係しているのでしょうか?」
夕食時にそう訊ねれば、一瞬だけ驚いたようにパチリと瞬きをして、カイン様はそれも関係していると頷いた。
能力の行使、それはあまり褒められたものではないのだが、カイン様の中では使って当たり前の能力なせいであまりためらいが感じられない。
とはいえ、他人の頭の中を見るのは基本的に気分が悪いそうなのでしないといっていたが、ミレーヌ様には少なくとも今日は使っているはずですし、どうしたものでしょうね。
「ミレーヌがね、随分かわいいことを考えていたんだよ。僕のことが欲しくてたまらないみたい、なんでだろうねえ。僕と結ばれて幸せに暮らすなんて、あんな夢みたいな幸せな妄想を信じてるんだよ、愚かだよねえ」
おかしそうに話すカイン様に、もしかしてミレーヌ様の頭の中を覗いて例の小説の内容を知ってしまったのでしょうか?
その情報量にどこか気もそぞろだったのかもしれませんけど、それにしては国家の大事だというのにあまり焦りを感じませんわね、どうしたものでしょうか?
隣に座るマリオン様とさり気なく視線を合わせて頷きあう。
こうなってはカイン様にも小説の内容をお話しして、確認するのは手っ取り早いですわよね。
「カイン様、その夢物語のお話しなのですが」
「うんすごいよね。僕だけじゃなくって12公爵家の男を手玉に取るとかさ、おっかしいよねえ」
「はい?」
「でも安心して。ちゃんと僕が皆のためにミレーヌを引き留めておくから」
にっこりと笑みを浮かべるカイン様の言葉に、全員が首をかしげる。
「どういうことでしょうか?カイン様だけではなく他の方もミレーヌ様はその・・・、狙っていたというか恋人のような関係になりたかったのでしょうか?」
「そうみたい。でも初手から躓いて諦めたって感じだけど。まあ、だからこそ必死に僕の気を引こうとしてるみたい」
「そうなのですか」
それは随分と、小説とは違う内容ですわね。小説の中ではミレーヌ様はカイン様を一途に思っていらっしゃってましたものね。
やはり小説の内容とは随分変わってきてしまっているようですわ。
いえ、結局はカイン様の気を引こうとしているのですから小説のようになっているということでよろしいのかしら?
「でもミレーヌの思惑に乗っかると、どうやら彼女は神の加護を得ることができるみたいなんだよね」
「それは、つまり・・・」
ミレーヌ様が私に変わって婚約者になれるということですわね。
「カイン様、お話に入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、マリオン様」
「カイン様はセイラ様を婚約者の座から降ろして、ミレーヌ様を婚約者にするおつもりなのでしょうか?」
「そうだよ」
「それはセイラ様を蔑ろにしているとも取れるお話ですが、カイン様は12公爵家を愚弄していらっしゃいますの?」
マリオン様の言葉にカイン様がキョトンと首を傾げ、私の方を見てから周囲をぐるりと見渡し、自分に集まっている視線に避難の色が混ざっていることに気が付いたらしく、驚いたようにもう一度私を見る。
「愚弄するつもりはないよ。むしろセイラを尊重してるからミレーヌを婚約者にしようかと思ってるんだよ」
それは随分傲慢な言葉だと、そう感じてしまうのは私が12公爵家の者だからでしょうね。
普通の令嬢なら自分のためにと言われれば悪い気はしないかもしれませんわ、私はもちろんここまでに培った覚悟や知識が無駄になるのはいい気分ではありませんわ。
「そうなのですか」
ちょうど食べ終わったこともあり、いつもならしないのですが食後の会話を楽しむこともなく、席を立つ。
「セイラ?」
「婚約者を辞めさせられる前提のようですし、身の程を弁えさせていただきますわ。今後はお部屋に行くこともございませんし、私の部屋にもいらっしゃらないでくださいませ。どうぞミレーヌ様との仲を深めてくださってお楽しみくださいませ」
にっこりと笑みを浮かべてそう言って、静かに食堂を出て談話室に向かう。
途中皆様と視線を合わせたので、私の意図はわかっていただけたと思いますけれど、これから会議ですわね。
******************************
ふざけた話しだと、そう感じたのは私だけではなかったようで、カイン様も来ようとなさったようですが他の方にやんわりと拒絶されてこの談話室には入れなかったようですわ。
先ほどのことで皆様機嫌が悪いようで、談話室内の空気が若干重い。
メイドや侍従も全員下げてしまっているので、私とマリオン様で最初の一杯目をご用意しますが、申し訳ないのですが皆様同じ飲み物にさせていただきますわ。
ラベンダーティーの効果で少しは皆様の心がほぐれるといいのですが、どうなのでしょうね。
「さて、厄介な話になったわけだけど・・・セイラ様はどうしたい?」
「どうしたいといわれましても、婚約者で無くなるのでしたら適切な距離を取るだけですわ。カール様のおっしゃる節度ある行動というものではありませんか?」
「そうだけどね、結局はセイラ様の為にとかいってるわけだからね、あの執着が薄れるとは思えないんだよ。アレックス様はどう見る?」
「胡散臭い」
「そうよね、セイラの為という割には中途半端なことをしてると思うわ。婚約者として犠牲にはしたくないけど離す気はないっていうのが感じられたし」
エドワード様の言葉に全員が頷く。
「つまり飼い殺しということでしょうか?私にとっては一番嫌なことですわね。ともうしますか、これは王族の秘密に多少関わるので詳しくは言えませんが、加護を持った方が王妃になるのなら私が傍にいる必要もありませんわ。その場合、私は思う存分戦いに赴くのが常識というものですわよね」
次代を産む王妃がいるのなら私は必要ありませんもの。
「でも、カイン様がそう望むのでしたら拒否はし辛いのではありませんか?」
「マリオン、いくらカイン様でも12公爵家全体を愚弄するような行為は出来ないし、セイラ様の場合は神々が黙ってないよ」
「そういえばそうですわね」
というか、私の場合はその神々が合法的に私を手に入れるためにカイン様の婚約者、ひいては次代を産む王妃に仕立て上げたといったほうがいいような気がしますわ、私もつい最近そう考えるようになったのですが。
それぞれ飲み物を飲みながら、ため息交じりに話し合う。
カイン様の暴走については王族に苦情を申し立てる方針で決定したけれど、半神であるカイン様がミレーヌ様の思考に沿うように動くとなると、小説のような出来事がこれから起きる可能性がありますわね。
閉じ込められる出来事は時間が違いますけれど終了したようですし、あとは夜のお散歩などですわね。
「夜間の警備については護衛の方々にがんばっていただくしかありませんけれど、アンデッドの襲撃については私どもで動くしかありませんわ」
「私が動くのがいいのですが、大襲撃となると規模が把握し難くて力の加減が難しいのですわよね」
「暴走だけはまずいよな、セイラ様はいいとして他が死ぬ可能性があるし。僕で抑えられる限界っていうのがあるし」
「そうですわね、お母様のように命ごと奪う可能性がありますものね」
「ほんとにね」
のんびりと話している内容ですが、物騒ですわよ。
マリオン様の魔法は治癒魔法ですが、魔力の性質は強奪ですものねえ、困ったものですわ。
「まあともかく、カイン様とセイラ様の婚約の件はどうするのよ。例の小説のようになるならセイラ様は婚約破棄されて・・・どうなるんだっけ?」
「破棄されて、の後は書かれてなかったと思いますわ。私の記憶に残っていないだけかもしれませんけれども・・・、ええなかったと思いますわ」
それなら、とエドワード様は手にしていたカップをテーブルに置く。
「このまま捨てておかない?カイン様とセイラの接触に関しては、私達でも気を付ければ少なくとも寮ではなんとかなるでしょう?講義はセイラとカイン様が被るものもあるけど、お友達たちにも協力してもらいましょう」
「皆様も巻き込むのですか?あまり大げさにしては国交に差しさわりが出るのではありません?」
「大丈夫よ、悪いのはカイン様だもの。王族に苦情を言うんだし、若気の至りってことでね」
自信満々にいうエドワード様に、私は留学生の方々の顔を思い出しながら、小さくため息を吐いた。
「転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
聖女(笑)だそうですよ
-
6
-
-
冬薔薇姫
-
7
-
-
婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪
-
10
-
-
婚約破棄されたので帰国して遊びますね
-
15
-
-
全力で逃げて何が悪い!
-
10
-
-
我が道を行く悪役令嬢は精霊に愛される
-
24
-
-
完璧な辺境伯のお父様が大好きな令嬢は、今日も鈍感
-
6
-
-
乙女ゲームに転生したけど、推しキャラカプ観察に忙しいので勝手に恋愛ゲームしていてください
-
7
-
-
ループしますか、不老長寿になりますか?
-
3
-
-
公爵令嬢のため息
-
3
-
-
婚約破棄された悪役令嬢が聖女になってもおかしくはないでしょう?~えーと?誰が聖女に間違いないんでしたっけ?にやにや~
-
11
-
-
悪役令嬢、職務放棄
-
12
-
-
「悪役令嬢」は「その他大勢」になりたい
-
18
-
-
悪役令嬢と書いてラスボスと読む
-
12
-
-
復讐します
-
6
-
-
婚約者を寝取られたけど割とどうでもいいです
-
16
-
-
殿下、あなたが捨てた女が本物の聖女です
-
19
-
-
当て馬の当て馬ってあんまりですわ
-
9
-
-
ファンタジーな世界に転生したと思ったら実は乙女ゲームの世界だった件~色無き魂を持つ者~
-
9
-
-
私は妹とは違うのですわ
-
14
-
コメント