転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

26 壊してもいいのかな?(カイン視点)

『あたしの中に誰かがいんです』

 そう言ったミレーヌに少しだけ興味がわいたのは事実。
 きっとその誰かは本当のミレーヌで、僕が昔遊んだかわいいあの子だから、もしまだいるのならまた会いたい。
 そう思ったからミレーヌに付き合ってあげている。
 以前よりも傍にいることができるせいで、いつも以上に上機嫌なミレーヌが少しうっとうしいけど、僕のミレーヌが出てくる手助けができるなら少しだけ我慢してあげる。
 セイラに対する以上の興味なんてわかないだろうけど、僕のミレーヌも僕の仲では特別だから、もしかしたらセイラの代わりには使うかもしれない。
 王族の根幹への生贄に、僕のミレーヌが生れなれるとも思えないけどもしなれたなら、僕はセイラを失わずに済むんだ。

「カイン様、今日の夜お散歩しませんか?」
「夜に?なんで?」
「夜のほうがあたしの中の存在が近く感じるんです」

 すぐに嘘だとわかるようなことをよく言えるよね。
 でもまあ、夜の散歩なんてしたことがないから少しだけ興味があるかな?
 寮を抜け出す方法を考えたほうがいいかな?護衛もまかないといけないし、ちょっと面倒かも。

「無理だよ、寮を夜に抜け出すなんてセイラが許すわけがないし護衛だって許さないよ」
「セイラ様が・・・」

 ミレーヌはセイラの名前を出すと機嫌が悪くなる。
 比べるのも烏滸がましいほどに、セイラのほうが勝っているのに、自分の方が優れていると勘違いしている馬鹿な娘。
 僕のミレーヌならそんなこと思うはずもないのに、やっぱりこのミレーヌは僕のミレーヌじゃない。

「ミレーヌ、夜は駄目だよ。日中なら一緒に散歩に行ってあげる」
「昼間じゃ意味ないのに」
「え?」
「なんでもありませんっ。じゃあ明日の夕方ならいいですよね?綺麗な湖があるって聞いたんです、カイン様と一緒に行きたいって思ってて・・・」

 少しだけ顔を赤らめて言う姿が、わざとらしいけどまあいいか。
 すっかり冷めた紅茶に口をつけながら「いいよ」と返事をすれば、何を企んでるのか一瞬歪んだ笑みを浮かべて、すぐに嘘くさい嬉しそうな笑みを浮かべる。
 それにしても、ミレーヌをこうしてこういうカフェに連れてくるのは何度目かな。
 ケーテ様の一件で身の丈に合わない金銭を手に入れたってのもあるけど、その前からもなんだかんだいって僕にお金を出させてたよね。
 今は自分で払うとか謙虚そうなことを言うけど、それ当たり前だからね。
 はあ、それにしてもセイラに会いたいなあ。ここの所ミレーヌのせいで、あんまりセイラに学園内で会えないんだよね。
 またセイラに僕の気を流し込んであの反応を見たいなあ。夜になると他の12公爵家の奴が傍にいることもあるから、あんまり時間が取れないし、本当に夜になっちゃうとセイラが部屋から出てこないからな。
 ああ、でも夜にあんなセイラを見ちゃったら僕も我慢できないかも。

「夕方の陽の光の中で綺麗な湖をカイン様と見れるなんて、嬉しすぎてどうにかなっちゃいそうです」
「どうにか?」
「はい、なんていうか嬉しすぎてなにをされてもいいっていうか」

 何をされてもねえ、それって殺されてもいいってことかな?僕のミレーヌがそれで出てくるんなら、目の前にいるミレーヌの人格ぐらい殺しちゃってもいいと思うんだよね。
 器を殺すわけじゃないからバレないだろうし。
 でも、そのせいで寝たきりにでもなったら面倒だから、僕のミレーヌが出てくる保証がなければやらないけどね。

「じゃあもう行こうか」
「え!?あ・・・えっと・・・はい」
「なにかあるの?」
「いえ、何もありません」

 キョロキョロとカフェの中を探したり、扉を見て不思議そうな顔をして気落ちするように肩を落とす姿に、どうせまたセイラにでもこの光景を見せつけたかったんだろうとわかる。
 ミレーヌはこうしてセイラに対抗するように、僕と一緒にいる姿を見せつけたがるし、セイラが見ているとわかるといつも以上にくっついてくる。
 その程度でセイラがどうこう思うわけがないのに、変なことをしていると思うけど、ミレーヌの中では何か意味があるんだろう。
 立ち上がり出口付近にあるところで会計を済ませて外に出て少しすると、ミレーヌが腕に抱き着いてくる。

「少し寒いですね」
「そう?」

 近くにセイラがいるのかな?
 見渡してみたけど薄水色の髪の人影は見当たらない。

「離れてくれる?歩きにくいんだけど」
「そんなこと言わないでください。いじめの件は落ち着いたけど、たまに怖くって。それにこうしてると、あたしの中の誰かの気配が強くなる気がするんです」
「そうなの?ならしかたないね」

 嘘だろうけど。
 年の割には豊かな胸を押し付けられても、セイラのほうがよっぽど大きいし柔らかいし、近くで嗅ぐといい匂いがする。

「はあ」
「・・・なんだか、悩まし気な溜息ですね。もしよければあっちでお話ししませんか?二人っきりになれる場所で」

 セイラを思ってたせいでミレーヌに勘違いをさせたっぽいな。

「ね?カイン様、二人っきりでゆっくりできる場所で・・・」

 そう言って胸を押し付けて腕を引く様は、安っぽい娼婦のようでせっかくセイラを思って高揚した気分が冷めてしまう。

「淑女が簡単に二人っきりなんていうものじゃないね。それに、僕はあいにく君に対しては欲情がわかないんだ」
「へ?」
「僕が欲情するのはセイラにだけだよ。勘違いしてるみたいだけど、肉の器なんてどうでもいいんだよ。ああ、セイラは別だけど」
「何を言って?」
「セイラの香り、肌、乳房、唇、瞳・・・その全てに僕は欲情するけど、君には一切しないんだよ。まあ、君の中にいる別の誰かっていうのには興味があるんだけどね」
「なっ!?ふざっ・・・いえ、いいえ。そうですよね、カイン様は誠実な方ですもの。セイラ様がいらっしゃるのに、あたしなんかに何か思うわけないですよね。それでもいいんです、でもあたしはカイン様とこうして一緒にいられるだけでも嬉しいんです。本当に、カイン様になら何をされてもいいって思えるんです、セイラ様の代わりにめちゃくちゃにしてくれてもいいんです」
「へえ?」

 言質はとれたかな。

「めちゃくちゃにしちゃっていいんだ?」
「いいですよ」
「そう、なら明日が楽しみだね」
「はい!」

 わかってないよね、自分がどれほどばかげた言葉を発したかななんて、本当にわかってない。
 セイラの代わりになにをしてもいいなんて、まあ多分セイラの代わりになんてなれないけど、万が一なれる可能性が出たら、その時はミレーヌを生贄にしよう。
 そうすればセイラはずっと僕の隣にいてくれる。

「ねえ、ミレーヌってキスはしたことがある?」
「な、ないです!」
「そうなんだ。してみたい?」
「そ、それは・・・はい」

 恥ずかしそうにうつむいても、腕に胸を押し付ける力が強くなってるせいで無意味だよね。
 ミレーヌに耐えきれるかなあ?僕に口づけされてセイラみたいに気を流し込まれたら、壊れちゃうかなあ?
 ああ、楽しみだな。ミレーヌはセイラみたいになってくれないのはわかってるけど、どう壊れるのかな?壊れたら僕のミレーヌが出てきてくれるかな?





 翌日、そわそわとしているミレーヌと一緒に湖を見に行く。
 確かに綺麗で恋人たちが二人で訪れるにはちょうどいい場所なんだろうけど、所詮一般生徒用の場所だよね。
 南の専用地にはもっと綺麗な場所はたくさんある、もっともその全てが訓練用の場所で普通の生徒はたどり着けないだろうけど。僕も一人ではいけないしね。

「綺麗ですね。夕日が反射してロマンチック」

 うっとりと湖を眺めるミレーヌを見ながら、「そうだね」と適当に言葉を返してこっそりとため息を吐きだす。
 普段使う道から外れた林の中にある湖はぽっかりと木々が開いた空間にあって、この季節でも白い花が地面に残り、その花と湖が夕日の橙に照らされて幻想的な美しさを作り出している。
 これは間違いなく、作られた湖と美しさなんだとう。
 この学園にはいくつかこういう意図的に美しく作られた場所がある。それは生徒の憩いの為であったり、恋人や婚約者たちの逢瀬の為でもある。
 南にある自然を利用して作られた訓練場の生々しい美しさとは違う作り物の美しさ。
 嫌いじゃないけど好きでもないな。

「嬉しいです。カイン様とこうしてこの光景を見れて、すっごくうれしいです」
「そう」

 じゃあもういいよね?

「ミレーヌ」
「はい」

 ミレーヌの顎を持ってじっと目を見つめれば、何を期待しているのか目を閉じる姿に、見えていないのをいいことに思わず笑ってしまう。

「キスしたいんだっけ?」
「は、い・・・カイン様にならなにをされても・・・」
「そう」

 なら、壊れちゃいなよ。
 そう思って唇を近づけた瞬間、パン、と手が鳴らされる音がして、ハッとその方向を剥けばアレックスが笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる姿が見えた。

「もうしわけない、お2人の邪魔をするつもりはなかったのだが、虫がいたので思わず」

 嘘くさい。
 そうは思うけど、アレックスを咎めることはできない。

「カイン様にミレーヌ嬢、そろそろ陽が完全に落ちますよ。その前に戻らないと夕食を食べそこなうのでは?」
「そうだね」
「え、アレックス様?え?」

 混乱しているミレーヌから離れてアレックスの傍に行けば、一瞬だけ冷たい目で睨まれたがすぐにいつものように恭しい視線に変わる。
 12公爵家の人間は基本的に王族を身内として見ていない。
 セイラだって僕を優先してくれるけど、選ぶのなら12公爵家の者を選ぶだろう。エドワードを特に選ぶのかもしれない、あれは実の血のつながった兄だから身内意識も強いだろう。
 ああ、気に入らない。帰ったらセイラをいっぱい抱きしめないと気が済まないな。

「転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く