転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

25 イベントは起きるのでしょうか?(セイラ視点)

 すっかり枝葉が寂しくなった道を歩いていると、正面からカイン様と、カイン様の腕にご自分の腕を絡ませて歩いているミレーヌ様の姿が見え、これは何か反応をしに行くべきなのかと一瞬考えましたが、面倒なので見なかったことにして鉢合わせを避けるためにお2人の行く方向等は逆方向にあるカフェに足を向ける。
 一応高級カフェではあるけれども、このカフェを利用ることはあまりないので、いい機会かもしれない。

「おや、セイラ様ではないか。良ければご一緒せぬか?」
「まあアルスデヤ様。ぜひご一緒させていただきますわ」

 偶然というものもあるものですわね。
 ああ、でもアルスデヤ様はこのカフェのデザートを気に入っていらっしゃったので、偶然という名の必然かもしれませんわ。
 程よく日が当たり、けれども直接体に当たることがないように計算された位置にある席に座ると、すぐに給仕がやってきて今日のデザートを教えてくれる。

「うーん、イチジクのタルトにいたしますわ。飲み物はミルクティーの濃いめで」

 言えばすぐさま下がる給仕を見送って、すでに注文したものがそろっており食べ始めているアルスデヤ様を見る。
 香りからしてアールグレイのストレート、デザートは柿プリンと小さめの梨のマフィンですわね。

「そういえばの、先ほどカイン様とミレーヌ様が居ったのじゃが」
「あら、では先ほどお見かけしたのはこのお店から出てきたところだったんですね」
「そうであろうな。まあ、それでなんというかの、ミレーヌ様は随分と明け透けにカイン様に秋波をかけるようになったようじゃが、よいのか?」
「よいもなにも、私にはどうでもよいことですわ」

 カイン様がミレーヌ様を選んで、次期国王から脱落するかそれとも押し通して国王になってミレーヌ様を王妃という名の犠牲者にするか。
 それともこのまま私を婚約者ひいては王妃にして、今までの12公爵家の方のようになるか、どちらでも本当に構わないのですもの。

「つまらぬの。見栄を張っているようにも見えぬし、心の底からそう思っておるのであろうな。この国の王族も12公爵家も妾には恐ろしく思えるが、セイラ様自身には好意を持っておるゆえな、もし恋の悩みがあるのなら聞こうと思うたのじゃ」
「お心遣い感謝いたしますわ」

 良い方なのですわよね、アルスデヤ様って。ちょっと言動が何かを含んでいるように見えて、初対面では警戒されやすいのですが、付き合ってみればよい姉貴分といった感じですわ。
 そう言っている間に注文した物が運ばれてきてテーブルの上に並ぶ。
 やはりこの季節のイチジクはおいしいですし、食べておかなければ損ですわよね。
 そう思いながらタルトにフォークを入れ一口大に切って口に運ぶと、想った以上の美味しさに思わず笑みが浮かんでしまう。

「美味であろう?妾も先日食べたがの、まさにこの季節特有の美味じゃ」
「ええ、本当にそうですわね」
「セイラ様は普段あまりこのカフェを使わぬが、たまには違う店に行くのも新しい発見につながってよいものじゃ」

 全く持ってその通りなので頷いて、今度はゆっくりとミルクティーを飲む。
 濃いめと指示したのでいつもよりも渋みが強く、タルトの甘さとのバランスが絶妙に感じられる。
 このカフェはサンドイッチなどの軽食も素材の味のバランスにこだわっていたように思うので、こういうのが店の特色なのだろう。
 調味料や出汁で味を調えられた食事はもちろんおいしいが、こういう素材の味を大事にするのも間違いなく美味しい。

「はあ、やはりこうしてお茶の時間を持てるのは幸せですわね。講義が詰まっていると中々取れませんもの」
「セイラ様は公務が多い故なあ。妾は戦闘などにはいかない故余裕があるが、12公爵家は大変よの」
「それがお仕事ですもの、不満はありませんわ。ただ、予定では2年の半ばでは単位を取得終わっているはずでしたが少し遅れてしまいそうなのですわ」
「ん?」

 いつ大規模な戦闘が起きてもいいように余裕を持ちたいのだが、なかなかバランスの調整が難しい。もしミレーヌ様がカイン様を射止めたのなら、私は王妃ではなく今後も12公爵家の者として戦いにでるでしょうし、卒業の単位取得には余裕を持ちたいですわよね。

「セイラ様は2年次中に単位を取得し終えるつもりなのかの?」
「最低限は取っておくつもりですわ。残りの期間で興味のあるものですとかの単位を取得しようかと」
「ふむ、それを聞くと妾も3年次前半に取得し終えるという予定を繰り上げる必要があるように思えてしまうの」
「非戦闘員なら大丈夫だと思いますわ。戦闘に出るとどうしてもケガなどが発生しますもの。まあ、すぐに治していただきますけれど」
「治癒魔法の使い手が多いのは良いの。我が国に勧誘したいところじゃ」
「個人的勧誘が自由ですわ。12公爵家の者でなければ、ですけれども」

 くすりと笑って言えば、アスルデヤ様が苦笑しながらカップを持ち上げて口をつけてから、ほっと息を吐きだす。

「そんな恐ろしいことを誰ができるというのじゃ。過去に12公爵家を我がものとしようと手を出して滅んだ国がいくつあると思うておる」
「さあ?古すぎる者はもはや伝承ですのでそれこそ神にお伺いしませんと」
「まあ妾は手出しはせぬよ。一般生徒に粉をかける程度じゃな」
「それがよろしいかと」

 言ってもう一口イチジクのタルトを口にして、やっぱりおいしいとにっこりと口の端が上がってしまった。

「それでの、話しを戻すのじゃが」
「はい?」

 何の話だろうか?と思っていると、どうやらカイン様とミレーヌ様の話しらしい。

「セイラ様はどちらでも構わぬと言っておるがの、やはり生徒としては気になるところのようじゃ。ほれ、解決したとはいえケーテ様の件があった故な、また馬鹿な真似をするものが現れないとも限らぬ。この国は12公爵家が支えているというのはどの生徒も知っておるであろう、その12公爵家のセイラ様をないがしろにする行為は、ケーテ様の扇動がなくとも起こり得るものに思えるからの」
「そうですわね、ミレーヌ様の周囲が今なお不穏なのは存じておりますけれども、酷い言い方をすれば私には関係のないことなのですわよね」
「それは、ちと薄情ではないかの?」

 アルスデヤ様が困ったように苦笑を浮かべて首をかしげるが、困っているというよりは随分と色っぽく見えてしまうのはどうしてでしょうか?
 ああ、今はミレーヌ様のお話でしたわね。

「薄情と言いますか、私どもにはカイン様から何の指示もないのですわ。国防と王族を守ること以外に力を使うことは基本出来ませんので、カイン様が指示なさらなければ私どもはミレーヌ様をお守りできません」
「ケーテ様の時は救ったであろう」
「あれはこの私に被害が及んだからですわね。そうでなければ死人が出ても放置しておりましたわ」
「なるほど、12公爵家は感情で動くが感情で動けないというのは事実であるのだな」
「そうですわね、感情のままに戦いますが、感情のままに力を奮うことはできませんわ。基本的には、ですけれど」

 身内に何かがあればその限りではないし、暴走と呼ばれる現象が起きればもちろん感情のままに力を使うこともある。

「セイラ様はミレーヌ様のせいでもしカイン様に被害があればどうするつもりかの?」
「被害があれば動きますが、そもそも被害が起きる状況というのがあってはならないのですわ。もしそうなったのでしたら、その時はカイン様がその被害に関与していると、私どもはまず考えますわね」
「私どもとなると12公爵家の者かの?」
「ええ、この学園では単体で動く・思考するということはあまりありませんもの」
「つくづく不思議なモノよの、12公爵家というものは」
「皆様そうおっしゃいますわね」

 12公爵家で育っていると、今の状態が普通なので不思議と言われてもピンときませんけれども。

「でも、被害というのはどういったものを言うのでしょうね?誘拐・監禁・毒殺・負傷、そのほかにも悪評を流されるとか地位を脅かされるなどありますけれど、後半二つは私どもが対処するよりもカイン様とその侍従たちが対処すべきですわ」
「そうじゃの」
「誘拐・監禁・毒殺・負傷でしたら動きますが、負傷はともかくとして、毒殺は耐性がないのに毒見のないものを食べる方が悪いですし、誘拐と監禁は護衛は何をしているのかという話しになりますし、この学園に無関係者が侵入できるとは思えませんわ」
「それもそうじゃな。なるほど、被害が出たらカイン様が関わっているというのはいい得て妙じゃな」

 そう、基本的にカイン様が被害に遭ってもいいと思って行動してない限り、被害に遭うわけがない。
 不注意のオンパレードでもない限り、小説のような出来事は起きないのですが、カイン様に教えたら面白がって実行しそうですわよね。

「あと、もしそんなことが起きたら」
「起きたら?」
「暇を持て余したうちの方々が喜んで参加しそうですわ」
「それは・・・困るの」

 被害が大きくなりそうで、というアルスデヤ様に私は思わず大きくうなずいてしまった。

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