転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

24 10月以降はイベント(?)が多い(セイラ視点)

 月日が過ぎ、10月に入ると最終学年の方々は各単位の最終調整に入るため、心なしか慌ただしさが学院全体に広まっていく。

「カール様とアレックス様は単位の最終調整は問題ございませんの?」

 中央から北側の学院の慌ただしさから切り離されたような、いつも通りの南エリア。そこにある寮の談話室でのんびりとお茶を飲みながら本を読んでいるお二人に声をかけると、そろってもう履修で予定を組んでいた単位は取得済みとの返事が返ってくる。

「流石ですわねぇ」
「まあ12公爵家の者が単位を落とすなんてあってはならないからね」
「そうだな、まあ過去にはそういう人物もいたそうだが、その時期は魔物の襲撃がひどかったらしいからそのせいだろうな」

 確かにこの100年は12公爵家に所属している者全員で対応しなければいけないような大襲撃や強力な魔物の襲撃はありませんものね。
 そう言った点では落ち着いて学業に集中できると言えますね。
 たまにある魔物の襲撃も学院生で何とかなる程度のものですし、他の方面の襲撃も12公爵家の数名が参加して事が済みますものね。

 私も侍女が用意したカフェオレのカップを手に取って香りを楽しみながら飲んで持ち込んだ書物に目を落とす。

「それは何の本?」
「イルメイダ様が以前お貸しくださった本ですわ。読めるページが増えてましたので読み直しをしておりますの」
「ふーん?……っ!」

 そう言って同じソファに座っていたカール様が私の手元を覗き込んだ瞬間、息をのんでぐらりとめまいを起こしたように上半身をぐらつかせてソファの背もたれに体を預けてしまう。

「大丈夫ですか?」
「油断した…。そうだよな、イルメイダ様から貸していただいた本が普通の本なわけないか」
「だろうな。読めるページが増えるって時点でヤバイと思っとけ」

 斜め前のソファに座っているアレックス様が呆れた目でカール様を見ておりますが、まったくですわね。
 知的探求心も結構ですが、慎重さをもっと学ぶ目木です。
 そもそもカール様は幼いときにご実家にある書物を読んで死にかかったことがあるのですし、どうしてこうも好奇心が多いのでしょう。
 別に好奇心や知的欲求が悪いとは言いませんけれど、魔物に対しても初陣で先陣を切って戦うなどまったく聞いた時は驚きましたわ。
 生きているからいいですけれど、一歩間違えれば死亡していた可能性だってございますし、そもそも倒した魔物を解剖しようとするなんて正気とは思えませんわ。
 倒した後に放っておけば消えてしまうのに、その前に解剖したいだとか部位を持ち帰れないだととか、本当に何を考えていらっしゃるのでしょう。
 今だって魔物の戦いぶりを目で見たいとおっしゃって先陣に立ちますし、戦闘方法的に先陣を切ることが悪いと言っているのではありませんわよ?
 ただ限度というものがありますわ。
 片腕をなくしても戦陣に立ち続けたり、目をつぶされたも戦い続けるなんて本当に何を考えているのでしょう。

「ちなみに何が書いてあるんだ?」
「この国についての物語ですわね。新しく読めるようになったページは王家について、というか王族についてですわ」
「おー!羨ましい」

 私どもにも不鮮明な王家・王族のこととなればカール様も興味はあるのでしょう。
 カイン様に聞けばよいという方もいるかもしれませんが、暗黙の了解で聞かないことになっているのです。
 12公爵家の当主になれば知ることができますが、カール様はご長男とはいえ当主になるとは限りませんものね。
 当主になるには生き延びていなければいけませんから、先陣を切るカール様が生き残るかどうか考えどころですわ。

「読み上げましょうか?」
「まて、音読でも被害が出る可能性があるからやめろ」
「同意だな。興味はあるけど流石に自重する」
「そうですか」

 残念です。おもしろいのですけれど、知識の共有が出来ないのはもったいないですね。
 カイン様ならご存知でしょうし機会があったらお話ししてみましょう。私の今後に関わってくるお話しですしね。

「そういえば最近例のヒロインはどうしたんだ?」
「ミレーヌ様ですよアレックス様。そうですね、小説の終わる時間まであと2か月ですから、なんというか焦っていらっしゃる感じですわね。せっせとカイン様に手作りのお菓子など贈っていらっしゃって、親しくなろうと必死なご様子ですわ」
「は?カイン様がそんなもん食うわけないだろう」
「ええ、寮につくとすぐに捨てるよう指示なさって従者の方にお渡ししておりますね」
「だよな」

 努力が水の泡になるのはお気の毒ですが、心意気は感心するとおっしゃっていたので多少なりとも効果はあるのではないでしょうか?
 他にも花ですとかも贈っていらっしゃいますが、同じように寮につくと捨てられてしまいますわね。

「なんでも、好感度が上がらないですとか、イベントが起きない、などとおっしゃっているようです。好感度はわかりませんが、イベントというのは小説の出来事のことかもしれませんわ」

 言いながら、そういえばそろそろアンデッドの大襲撃の時期だとふと思い出す。

「確かにカイン様にいくつか尋ねましたが、小説のような出来事は起きていないようですわね。ミレーヌ様に行われていた悪質な行為が解決したことも原因かもしれません」
「確か物置に2人っきりで一晩閉じ込められるとか、落ち込むミレーヌ様をカイン様が抱きしめて頬にキスするとかだっけ?」
「他にも、夜の小道でのデートや湖のほとりでデート中にアクシデントが起きて口づけなんかもありましたわ」
「んなのセイラ様にぞっこんのカイン様がするわけねーし、閉じ込められたって帰ってこなけりゃすぐ探されるよな」
「そうですわよね」

 小説の中ではこの時期もはやセイラとカイン様の溝は決定的なものとなっていたけれど、現実ではそんなことはありませんものね。
 なんでしたらカール様に注意される程度には親睦を深めております。

「僕が卒業後も、節度はく・れ・ぐ・れ・も守るようにね」
「私は別に構わないのですが、カイン様が最近魔力を流し込むというので遊んでいらっしゃって困りますの」
「えげつねーことすんな、カイン様」
「しかも王族の魔力とか…、セイラ様体大丈夫?」
「正直申し上げれば、滾りますわね」

 隠す必要も感じないのできっぱりというと、お2人とも同情の視線を向けていらっしゃいました。
 体や気持ちが滾ると、戦いたくて仕方がなくなってしまうのですけれど、流石にカイン様相手に戦闘を仕掛けるわけにもいきませんし、かといって滾りすぎて気をやるほど魔力を注ぎ込まれるわけでもありませんので、まあ、持て余してしまうのですよね。

「だから最近エドワード様とよく遊んでるのか」
「なるほどね」

 エドワード様にはよく訓練(遊び)に付き合っていただいて感謝しておりますわ。

 アレックス様は飲んでいた飲み物がなくなったのか、立ち上がって自分で備え付けの備品を使って飲み物を作り始める。
 従者たちは指示されないか、余程目に余るようなことにならない限りは最初の一杯以降は自主性に任せるように言っているので動かない。
 香りから判断するにコーヒーでしょうか?

「アレックス様僕にもいっぱいちょうだい。ミルク入り砂糖なしで」
「はいよ。セイラ様はいるか?」
「まだありますので大丈夫ですわ」

 なんだかんだでアレックス様って面倒見がいいのですよね。今在学している中12公爵家の者の中ではもしかしたら一番面倒見がいいかもしれませんわ。

「それにしても、ミレーヌ様が小説の内容を知ってるとして、その出来事が起きないって焦ってるのはよくないかもしれないね」
「そうでしょうか?」
「焦って何をするかわからないし、必死にカイン様に取り入ろうとしてるんだったら、もしかしたら力ずくで再現しようとしたりするかもしれないよ」
「あら…」

 なるほど、その可能性もありますのね。

 アレックス様がコーヒーを持って戻ってくると、カール様が自分の分を受け取り香りを確かめる。
 ちなみに先ほどまで飲んでいて空になったカップは従者がすでに回収して横にあるカートに片づけています。
 うーん、こういったところは私たちが高位貴族の子女だと思い知らされますね。こういう場で自分で食器を片付けるという感覚がわきませんもの。

 それにしても力づくで再現ですか、婚約破棄はありえなさそうですけどどうなるのでしょう?
 そのほかの出来事は真似事でしたらできるでしょうけど、カイン様が付き合って差し上げるとは思えませんわね。

「下手なまねごとは身の破滅だと気づいて思いとどまってくださるといいのですが」
「そう期待するしかないね。セイラ様に関わらない限りはいくらカイン様に付きまとっても構わないけど」
「セイラ様に関わることになった時点で終わりだしな。カイン様だけなら別にいいけど」

 他国ならこんな発言ありえないのでしょうけど、我が国では12公爵家のものなんてこんな方ばかりですわ。
 私だって12公爵家の方とカイン様のどちらを取るかと言われれば12公爵家のかたですわ。優先するのかカイン様ですが、選ぶのなら12公爵家の者。
 この感覚は他国の方にはなかなか通じなくて大変なのですよね。
 カイン様は流石にご理解なさっていらっしゃいますが、この本を読む限り王家・王族というのは少し私の想像しているモノと違うようです。

 なるほど、これでは確かに嫁いだ王妃・王配が年初めの挨拶にも顔を出さないわけですね。
 12公爵家とはまた違った生態をお持ちのようで、我が国の12公爵家と王家は本当に自分で言うのもなんですが、人間なのでしょうか?

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