転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

23 いずれにせよ国家間の話になる(セイラ視点+メンヒジル視点)

「それにしても意外でした」
「え?」
「ここのところ随分派手に女生徒にお声をかけていらっしゃるとは思っておりましたが、まさかケーテ様の為だったなんて」

 私の言葉に同席しているメンヒジル様がクスクスと笑う。

 ケーテ様が目が覚めたという報告を受けてすぐ、フロレーテ様が反省房のある寮棟に向かった。という報告を受けて、私はアイトリー様を訪ねた。
 アイトリー様はタイミングよくメンヒジル様と談話室にいるとのことだったのでその会話にお邪魔させてもらうことにした。

「初めはわちきも驚き申したでありんす」
「それは申し訳なかったね」
「でも、ケーテはんの悪行の証言を集めたいなんておっしゃいまいましてなぁ。なにを企てているのかと、わちきを何に使うのかと怖かったんえ」

 メンヒジル様の独特の話し方は、いわゆるお国言葉というもので、王族になるほど癖が強いらしいのだが、王族にしかあったことがないのでわからないですね。
 けれど、今回のことで仲が深まったのかアイトリー様と並ぶメンヒジル様の距離は友人というにはひどく近い。

「けれど助かりました。アイトリー様のおかげで手間が省けましたので」
「お役に立てたのなら何よりです」
「そういえば、ケーテ様を救って欲しいとお願いされたときはどうしたものかと。助けてでも、止めてほしいでもないのでそれこそ真意が読めませんでしたわ」
「それは…」

 言いよどむアイトリー様にメンヒジル様が寄り添って、膝の上の手に自分の手を重ねて励ますようにすぐ傍見つめると、アイトリー様が笑みを浮かべてもう片方の膝の上に置いてある手をさらにその上に重ねた。

「ケーテ様が行っていることはこの寮生の幾人かが気が付いていました。けれども、下手に関われば国家間で揉める可能性のある人物ばかりで様子見をするだけだったのです」
「そうですわね」
「でも、あの方は純粋すぎるから見ていられませんでした。ケーテ様は疑っていなかったのですよ、僕から見れば破滅の道でも、本人はあれこそは幸せな未来への道だと…。だから僕は、救ってあげたかった」

 でも、無理だから私たちに依頼をしたのですね。その潔さは買いますが、今横にいらっしゃるメンヒジル様の目が些か嫉妬を浮かべていますが、よろしいのでしょうか?
 まぁ、私は別に関わりがないので構いませんけれど。

「それは、友情から?それとも……ほかに何か思うところがあったのでしょうか?」
「わかりません。ただほっておけなかったんですよ。それに、他の人が巻き込まれるのも、メンヒジル様が巻き込まれるのを見ていることなんてできなかったんだ」

 最後は私ではなくメンヒジル様に顔を向けて言っているあたり、たらしというものなのでしょうか?
 メンヒジル様のご機嫌もすっかり直ったご様子ですわ。

「動機はどうであれ、アイトリー様の告発のおかげで物事は大事になる前に解決いたしましたわ」
「ケーテはんが階段から落ちんしたけど、それは事故でありんすしねえ」
「ええ、驚く事故でしたが事件ではありませんでした。きっかけにはなりましたけど、アイトリー様はあの時フロレーテ様が突き落としたと思ったのでしたっけ」

 クスリと笑って言うと、困ったように肩をすくめたアイトリー様が苦笑しながら言う。

「踊り場を指さしてフロレーテ様がなんて言われて、その時フロレーテ様しか踊り場にいなかったからね、勘違いしてしまいました」
「状況的にはしょうがないでありんす」
「そうですわね。そのこと自体は責める気はありませんのよ」

 でも、と言葉を続ける。

「色仕掛けで暗示にかけられていた生徒から聞き出すのは、学内ではお控えいただきたく思います」
「え?」
「はて?アイトリーはん?ほかのおなごにも手をだしてるのでありんすか?」

 重ねられた手を抓っているにもかかわらず、胸を腕に押し付けるようにさらに密着具合を増すメンヒジル様、顔が笑ってますけど実は遊んでいるだけですね?

「誤解だよ」
「あら、人気のない木陰で木に押し付けられて迫られるような形で、唇が触れるすれすれのところで尋問されたという話しもございますよ?」
「アイトリーはん?」
「誤解だよ、ちょっと頑固だったから夢中になって聞いてしまった結果だよ」

 いわゆる壁ドンならぬ木ドンですね。木が痛むのでご遠慮いただきたい行為ですわ。
 とことろで、先ほどからメンヒジル様に向かっておっしゃってますが、アイトリー様の本命はメンヒジル様なのでしょうか?
 遊び人でいらっしゃるという噂もありますので、わかりませんわね。

「後でゆっくり聞かせてもらいますえ?わちきの部屋で二人でゆっくり、とことん聞かせてもらうでありんす」
「わかったよ」

 婚約者でもないのに二人っきりでお部屋に、となるとやはりかなり御親密な関係といったところでしょうね。
 メンヒジル様はお国の後継者でもありませんので、結婚相手を早々に見つける必要がありますが、母親の執念というか横槍のせいでうまくいっていないようなので、この3年間で見つけて他国に嫁ぐ気なのかもしれませんわ。
 この学院に留学してくる他国の方はどなたも王族や高位貴族のかたばかり。国家間の話し合いは必要でしょうけれども、嫁ぐ身分に問題はないですものね。
 それを目当てに来る方もいるぐらいですし。

「それにしても、ケーテ様が精神干渉系の魔法…まあ、暗示ですが、それを使えるとはおもいませんでしたわ。後になってみればあのように統率された行動は暗示のたまものと思えば納得がいきます」

 カイン様ですら犯人を捜しきれなかったのですから、相当ですね。もしかしてこの世界に酷似した小説のセイラはケーテ様の能力を利用していたのかもしれませね。

「ケーテ様自身が悪意のない純粋な思いで行動していたからこそ、他の生徒も暗示にかかりやすかったのでしょうね」
「そうですね。見ていて痛々しほどに純粋に悪意なく、善意で行っていましいたから。相互に利用する形でどんどん膨らんでいったようです」

 アイトリー様の言う通りなのでしょうね。ケーテ様も暗示をかけられた人もお互いに手を取り合って深い沼に沈んでいくような、そんな状態だったのでしょう。

「でも、わちきは意外でありんした」
「といいますと?」
「ケーテはんが多重人格でいはったことも驚きんしたけど、反省房にいれるだけの罰、それも人格を安定させるための期間でござんす。国の貴族に手を出されたのやし、もっと重い罰にるするのかとおもいんした」
「ああ、そのことですか」

 確かに、相手が他国の王族とはいえ我が国の貴族に命に係わる危害を加えられたのだから、あの程度の罰では軽いと言う意見は他からも出てきている。
 けれども実際に命を落としていないこと、また我が国の貴族も加担していたことから賠償金と慰謝料で済ませることで国の代表としてカイン様とフロレーテ様の間で合意している。
 ミレーヌ様はその話し合いに参加していませんが、いくら被害者とはいえ国家間での話し合いに参加させるわけにはいきませんものね。
 けれど、こちらがケーテ様の人格を戻すまで手伝ったのにはもちろん裏はある。

「だって、今回のことでフロレーテ様とケーテ様個人への貸しができましたし、我が国としてもウアマティ王国に貸しが出来ましたもの。十分に利益はありますのよ」

 そう、学生間でのことではあるが国家間の大きな問題に発展しかけたのを止めたのはそのため。
 ラウニーシュ国とは友好な関係を築いているけれども、フロレーテ様の御代の間、少なくとも始まりのほうはこちらにアドバンテージがある。

「なるほど。怖いお人にありんすなぁ」

 そう言ってアイトリー様の腕に自分の腕を絡めて身を寄せて言うあたり怖がってませんよね。それと決めたのは私じゃなくてカイン様ですからね。

























 話しが終わって出ていくセイラ様を見送って、やっとカタカタと体を震えるのを押さえるのをやめる。

「メンヒジル様、大丈夫かい?」
「だめにありんす。やっぱりセイラはんは怖いお人にありんす……。カインはんも特別やけど、セイラはんは桁が違うでありんす」

 ケーテはんはわちきがセイラはんに憧れる同類だと思っていたようですが、それは正確ではない。わちきのセイラはんへの感情は畏怖。
 我が国、ラウニーシュ神国はその名の通り、神の血が流れているとも、最初の神人の血が流れているとも言われている。
 だからなのかはわからないが、時折巫女と言われるものが現れる。それは王族だったり、貴族だったり平民だったり安定はしないが、わちきは数百年ぶりに王族に現れた巫女。
 でも、それを知っているのは母上のみ。

 母上は元からわちきが巫女として生まれるのを知っていたようで、幼いころからわちきの能力を密かに自分で訓練させながらも周囲にわからないように隠してきた。
 どうしてそうするのか?王族に生まれた巫女であれば大々的に公表すればいいと訴えたことはもちろんある。そうすればわちきこそが神国の王になれると、母上ももっと父上との関係がよくなると。
 けれど、だからこそ駄目なのだと母上は言った。巫女として父上に利用されるだけ利用され、わちきは持ち上げられることで傲慢でわがままになっていき、好きな男に横恋慕した挙句に振られて最終的に、父上の決めた国内の有力貴族に嫁がされて、死ぬまで利用され続ける運命になる。
 そう、見てきたかのように言う母上の迫力に、わちきは母上に従い力を隠して、表面上は正妃としてのプライドから自分の娘を姉上よりも優位に立たせようと演じている母上に困っている影の薄い王女でいた。
 留学の件も、寵愛の深い姉上の母親が言い出したところに、それならばわちきもと母上が横やりを入れた形になっているけれど、本当は母上も言い出す予定だった。
 わちきを外に逃がすために。
 この留学で伴侶となるものを見つければほぼ100%他国に嫁ぐことになる。そうなれば、もう父上に利用されることはない。
 そう言った母上の顔は、やはり必死だった。

「ほら、暖かいものでも飲んで」
「ありがとうでありんす」

 紅茶ではなく、ココアを入れてくれたアイトリー様に感謝を伝えてソファに座ってゆっくりココアを胃に入れる。
 胃の腑から温まってくる行くのを感じてほっとする。
 巫女としての力は神の力を感じること、その声を聴くこと。だから、この国の12公爵家の方々やカインはんを初めて見たときは驚いた。

 この人型の存在は、人間なのか?

 セイラはんに至っては傍に近寄る事すらも恐ろしいほどの加護をその身に宿していた。普通であればあんなに加護を宿して正気でいられるわけがない。
 狂って、力に耐え切れず自我を失ってもおかしくないのに、まるで正気であるように自我を持って行動して人とちゃんと話しをしていることが恐ろしかった。

「アイトリーはん、傍に来てくださいまし」
「いいよ」

 優しくそう言って隣に座って寄り添ってくれるアイトリーはんに身を寄せる。まだわずかに体は震えている。

「寒い」
「暖炉に火を入れるように言おうか?」

 その言葉にココアをテーブルに置いてアイロニーはんの腕に手をからませて抱き寄せる。

「メンヒジル様?」
「離れないでおくなまし。この間の様にわちきを抱きしめておくんなまし」
「それは…」

 この間、それはケーテはんの裁判の後。震えの止まらないわちきを、アイトリーはんは抱きしめてくれた。人目のない廊下の陰で、ずっと。
 その時から、わちきはアイトリーはんを特別な目で見ている。自分でも単純だとわかっているし、勝算があるわけでもない。

「寒いのでありんす。だから…」
「だめだよ」

 何度目かわからない返答。あれから何度かこうして強請っても、抱きしめてはくれない。
 そう思って絡めていた腕の力を抜いてテーブルに置いたココアに手を伸ばした、その手を掴まれてそのまま引き寄せられ手のひらに口づけられる。

「さっき君が言ったように、メンジヒル様の部屋で、2人っきりでゆっくり、ね?ここじゃいつ誰が来るかわからないからね」

 ひどいお人。

 そう思っても、その言葉に嬉しくて部屋に招き入れるわちきは、母上の思いもむなしく都合のいい利用されるだけの女なのかもしれない。

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