転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

21 残念です、貴方は間違えました(ケーテ?視点+セイラ視点)

 やばい、これは取り返しが出来ないかもしれない。
 私の描いたシナリオと違う。ここではフロレーテ一人を悪者に終わるはずだったのに…。
 人形が余計なことをしたせいで、こんな目にあってるなんて、信じられない!
 しかもいくら呼び起こそうとしても人形のやつ出てきやしないしっ!

 窓のない、ベッドと勉強机、本棚、シャワールームとトイレだけの部屋。前世で言うところのテレビなんかの家電がない安いビジネスホテルのシングルルームみたいな部屋。
 王族の私にとって物置に等しい部屋で、食事こそ運ばれてくるものの、一か月一切外に出ずに過ごすなんて、何を考えてるわけ?
 しかも私の私財から慰謝料を払う?ばかじゃないの?
 私の私財は人形が寄付をしまくってるせいで予定額より少ないってのに、この学院の必要経費3年分?
 ただの貴族とはいえ決して少なくない金額だわ。

 時計はおかれているから時間はわかる。でも朝起こしてくれる侍女も着替えを手伝ってくれる侍女もいない。
 服は部屋着のシュミーズドレス数着と下着数組、寝着を2着持ち込んだ以外は勉強道具のみが持ち込めただけ。
 洗濯ものは部屋に備え付けの袋に入れて朝食を持ってくる人に渡せば夕食時に洗われて戻ってくる。

 こんなはずじゃなかったのに。どうしてこんなことになったの?
 うまくいってたのに、誰が邪魔をした?
 やっぱりミレーヌへのいじめが悪手だったのかしら?
 ゲームの中ではミニゲームでは噂話というなのリズムゲームをクリアすることでミレーヌの学園内での立場が悪くなってフェードアウトするけど、噂話じゃなくて物理的に手を出したのがまずかったわね。
 人形があんなことしなければ私のシナリオは問題なかったのに。

 何度も周回したゲームで、すべてのエンディングをクリアした。パラメーターだって思いのままに操ってたのに。
 この世界が現実でゲームのようにうまくいかなくても、私のシナリオ通りに進めれば勝てたのに。

「シナリオを作り直さないと。逆転のシナリオよ…大丈夫、セイラ様を味方に付けない縛りプレイもしたでしょ」

 大丈夫、まだいける…。私ならやれるわ。

 スプリングの堅いベッドに腰かけて胸の前で手を組んで必死にシナリオを練り直す。
 こうしてれば監視員は反省してるように見えるだろうし、一石二鳥だわ。

 今回の件で私への信頼はダダ下がり、マイナスになったと言ってもいいわ。
 じゃあどうやって回復する?
 簡単よ。必死に交流を図って好感度を上げていけばいい。大丈夫、主要メンバー以外の各国の留学生の好みはこの数か月で調べたわ。
 とにかく私がフロレーテよりも好感度を上げなくちゃゲームに勝てない。

 私が女王になれない。

 フロレーテでプレイして女王になったことは何度もあるけど、私は今ケーテなんだから、女王になるのは私でなくちゃいけない。

 そう考えたとき、部屋のドアがノックされる。

「はい」

 ドアに近づき、のぞき窓を開ける。ドアにはこちら側から開けることのできる小さな除き窓と、廊下側から開けることのできる少し大きめなのぞき窓の2種類ののぞき窓がある。

「セイラ=ウィルゴ様がお越しです。面会室にお越しください」
「はい」

 セイラ様が?

 急いで身支度を整えて、簡素に髪をまとめながら思わず顔の端が持ち上がっていく。

 これはチャンスだわ。セイラ様を思ってしてしまった、悪気はなかった、どうしてもセイラ様が傷ついてると思ったら体が動いてしまったと訴えれば、好感度が上がるかもしれない。

「お待たせしました」

 私の言葉にガチャリ、とドアの鍵が開けられゆっくりとドアが開く。
 私が出たのを確認して、ドアに鍵をかけこの反省房のある寮の職員について廊下を歩いていく。
 複数の扉が並ぶ廊下の先にはまたドアがあり、分厚いガラスをはめ込まれた場所から外で待機している職員がドアを開ける。

 まるで牢獄ね。

 ドアの傍にある階段を2階分上がり、さらに現れた扉の鍵をそこにいた職員が開け、続く廊下を進んだところにあるドアの前でここまでついてきた職員が足を止める。
 職員がドアをノックすると中から「はい」とセイラ様の声が聞こえた。


























 反省房のある寮の面会室で待っていると、ドアがノックされ職員に連れられたケーテ様が入ってくる。
 シュミーズドレスの上にはケープを羽織り、髪は自分で結ったからか簡素にまとめて結い上げられているだけの姿に、少し疲れが見え隠れする。
 王族の姫として育ってきたケーテ様にとって一日とはいえ反省房での寝泊りは精神的に負担がかかるのかもしれませんね。

「ケーテ様、ごきげんよう」
「セイラ様っ私、私…っ」

 涙を浮かべて胸の前で手を込んで悲し気な顔をするケーテ様に、普通であれば憐れみを感じるのかもしれませんけれども、残念ながら、私の知っているケーテ様でもございませんし、演技力が足りませんわね。

「ケーテ様、まずはお座りになってください。温かいお茶を飲んで落ち着きましょう」
「はい」

 ほら、すぐ安心して座って。ケーテ様なら幾度もためらった後にゆっくりと身長に座りますわ。
 職員が紅茶を2人分テーブルに置くと、一礼してドアの外に出ていく。
 二人っきりになった面会室で、カップに入れられた紅茶を飲むと正面に座ったケーテ様もカップの中の飲み物を飲んだ。

「…今回のこと、本当に残念です。私の為と思ってくれたことはうれしく思いますが、それならなぜ私にご相談くださらなかったのでしょうか?」
「それはっ!セイラ様にご負担を掛けたくなかったのです」
「そう……ケーテ様の目には私はそんなに弱い人間に見えていたのでしょうか?」
「そんなことありません!」

 ガチャリ、とカップが嫌な音を鳴らす。ケーテ様が勢い余ってローテーブルに足をぶつけてしまったせいだけれども、幸いカップの中はこぼれていないようでよかった。

「それに私は常々言っていたと思いますよ?ミレーヌ様とカイン様のことについて何も思うことはないと」
「それは…」
「残念です。私の言葉はケーテ様に届いてなかったんですね」
「違うんです!私、私はっセイラ様のために。あの方がカイン様にあんなに馴れ馴れしくしているから、それにそう思ってたのは私だけではありません!みんなそう思ってたんです!」
「みんなというのは、ケーテ様に協力した方々ですね」
「はい」

 そこで再び紅茶を口にして、ケーテ様にも勧める。緊張しているのか、カップに残っていた分をすべて飲み干してしまったのを見て、内心笑みを浮かべる。

「その方々にも直接お会いしてお話しをしました。驚きましたわ、皆様驚くほど同じことをおっしゃるんですもの」
「え?」
「セイラ様のために行動した。カイン様に近づくミレーヌ様が悪い。私たちはわからせただけ。害意なんかない。……ですって」
「それは、その通りだからです」

 そうですわね。皆様そう思って行動なさっていた。けれども、そう誘導したのは。

「そう、暗示をかけたのは貴方ですわね、ケーテ様を喰らった方」
「何を言ってるんですか?」
「先日カイン様がおっしゃったのは覚えておりますでしょうか?精神干渉、この魔法の所有者は少ないですが確実に居ります。カイン様の様に相手の精神を覗き見るほどの力を持つ方は稀ですが、暗示程度なら珍しいけれどもいるという程度にはおります」
「それが、なんだというんですか?」

 そう言ったケーテ様の目はうつろで、力なく、浮かべた光は弱弱しいものになっている。

「カイン様に確認していただきました。加害者は全員多かれ少なかれ、暗示にかけられていると」
「……だからなんですか」
「正確には心にある思いの増幅と自分の行動が正しいものだと思い込む様に誘導したといった感じでしょうか」
「だから、それが私がしたという証拠は」
「証拠はありませんよ」

 にっこりと笑みを浮かべる。

「でも、フロレーテ様のお許しの元にケーテ様の精神世界を覗かせていただきました」
「は?」
「国取りゲーム、人気度、好感度、ミニゲーム、プレイヤー、再構築、悪意のない善意による行為、純粋な好意による悪行、現実に対応するための人形の再構築。……随分と面白いことを考えていらっしゃるんですね」
「何勝手に人の頭覗いてんのよ」

 飲み物に混ぜたお薬が効いてきたようですね、うろんな目が力なくこちらを睨みつけてくる。

「あら、この状況では貴方の責任者はフロレーテ様ですよ?ただの王弟息女と国王の王女では、立場が違いますでしょう?それとも、貴方がフロレーテ様に代わって女王にでもなるつもりでしたか?」
「私は、ゲームに勝つだけ」
「黙りなさい。国のトップに立つものを決めることは、国事でありゲームなんて言う気軽なものではありません。貴方がしていることはただのクーデターです」
「違う。クーデターを起こすのは、私じゃない」
「いいえ、貴方が行おうとしていることは間違いなくクーデターです。王女を引きずり降ろして女王の座を奪うなど、それ以外になんだというのですか?」

 そう言って私は立ち上がりケーテ様の横まで行ってその顔を覗き込む。

「ケーテ様を喰らったお方。貴方は賢かった、でも愚かです。現実をゲームととらえてその通りにシナリオを作り行動する、しかも異物による不具合を警戒して思い通りのケーテ様を作り上げた。お国ではうまく民衆を操作したようですね。この学院でも私に取り入ろうと必死でいらっしゃいましたね」
「ぐっ」

 力ないケーテ様の首を掴んで気管を締める。

「稚拙なんですよ。現実とわかっていながらゲームを遂行しようとして。貴方は人を人と見ていない。ゲームの駒に見えましたか?意思のない人形に見えましたか?」

 そう言って手を離しソファの上に投げ捨てるようにケーテ様を振り払う。
 せき込みながらも、その衝撃からか意識を多少はっきりさせたケーテ様がこちらを睨んでくる。けれども、その体は私という存在を目に入れて震え始める。

 精霊の、神の、世界の加護を受ける人間としての絶対的上位の存在を初めてしっかりと見てしまったかのような気分になっているのでしょう。
 いつもと違って今は力を押さえていないのですから、下手に王族の血が流れているだけに、力の差を本能が感じ取ってしまう。

「ゲームじゃないのですよこの世界は。生きとし生けるものが存在し、生きている意志あるものがいる世界です」
「あ…あ……私は、ちがっ」
「残念ですケーテ様。お友達になれると思ってましたけど、貴方とはお友達になれそうにありません」

 顎を掴み、ソファに足を乗り上げてドレスを膝で踏みつけて動けないようにして、視線を無理やり合わせる。

「私の知っているケーテ様を返しなさい。貴方の暗示をといた、ちゃんとしたケーテ様を返してくださいませ」
「あ………あ、ひっ」

 怯えて震えるケーテ様の耳元に口を近づけて囁く。

「ゲームオーバー。この世界に溶け込めなかった哀れな異邦人さん。貴方は間違えたんですよ、いくら酷似していてもこの世界はゲームではありません」
「あ…」

 そこで、意識を保てなくなったケーテ様がソファに力なく寄りかかってしまう。

「精霊のお薬です。よく効きますよ。ゆっくりお眠りなさいませ。ゆっくり、ゆっくり深い海の底、もう上がってこれない場所、忘れられるほど深く、深く、ゆっくりと沈んでお眠りなさい。そして、私の知っているケーテ様、薬が切れたらどうぞ目覚めて。大丈夫、貴方のことはフロレーテ様が守ってくださいます」

 眠るケーテ様の耳元でそう囁いて、ゆっくりと距離を開けていく。
 可哀そうな方、本当に間違ってしまったのね。

 この世界はゲームではありません。小説でもありません。意思のある生物が存在する、現実なんですよ。

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