転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

08 餌付けでもしましょうか(セイラ視点)

 ごきげんよう皆様。セイラでございます。
 学園に入学して少し時間が経過いたしました。今の4月となりまして、新緑の芽吹きが朝日の中まぶしく感じる日々です。
 さて、本日は新入生の一般貴族と留学生の方々が学院内のオリエンテーションをなさっております。
 私ですか?残念ながら入寮して早々にカール様に隅々までご案内していただきましたので今回は不参加とさせていただきました。
 まあ、生徒同士の交流という面では参加すべきだったのでしょうけれども、それよりも安全を取ることにいたしました。

 実は今回のオリエンテーション、ミレーヌ様とカイン様の友好度が上がる場面があるんです。

 オリエンテーションの中に組み込まれている訓練場の一角には、ロッククライミングなどの練習ができるように崖のようなものが設置されております。
 そこにたどり着くまでに、参加していたミレーヌ様はカイン様と同じグループになって、最初はぎこちなく、それでも次第に打ち解けて距離が昔の様に近づいていくのです。もちろんそれをセイラがよく思うはずがなく、別のグループではありましたが、その崖の見学の際、のぞき込んでいたミレーヌの後ろを通りかかったときにたまたまぶつかってしまい、ミレーヌが崖の下に落ちかけるのをカイン様が手を伸ばして助けるというものです。
 しかもセイラはミレーヌ様を助けるべく、自分の腕を伸ばして引き上げるのに協力するのです。そして、

「私が不注意でぶつかってしまったから、ミレーヌ様は足がふらついて落ちてしまったのね」

 とカイン様に申し訳なさいっぱいの顔で謝るのですが、ミレーヌ様は

「普通にぶつかられたぐらいじゃ手すりから落ちたりしません!」

 と訴えるんです。

 実際道幅はそれなりに広く作られているため、普通であればぶつからないのですがオリエンテーションで少し混んでいたため偶然ぶつかったというのは否定できず、ぶつかった強さは当人同士にしかわかりませんので、その話は結局双方の不注意ということで決着がつきました。
 けれども、カイン様はミレーヌ様の横に居たことでセイラが少し強めによろけたようにミレーヌ様にぶつかったこともわかっておりました。けれどすぐに慌てたように手を伸ばしたことから偶然だったのかもしれない、と疑惑は残ったが確証のない状態になってしまったのです。
 もちろん、そんな状態でセイラとカイン様の間に良好な関係が築けるわけもなく、カイン様は次第に疑心暗鬼になっていき、特にセイラとミレーヌ様の間で何かあるたびにセイラを疑うようになってしまうのです。
 もちろん、カイン様は事件のたびに証拠をしっかり探すのですが、どれも証拠不十分で残されたのはいじめられたという証拠物のみとなるのです。
 ここでのポイントは、ミレーヌ様も犯人を見ていないとおっしゃったりして証言が得られないことです。けれども何かにおびえたような雰囲気があり、カイン様は誰かに脅されているのではないかと考え、それがセイラなのではないかと思ってしまうのです。

 単純な人間の心理ですね。小説の中では当初からセイラはミレーヌ様に厳しく当たっておりましたし、普段も高慢な態度を取り、カイン様になれなれしくするミレーヌ様をよく思っていないというのは明白。
 カイン様自身もセイラがミレーヌ様に強く責めるような口調で厳しく注意をしている場面を見ていたことも悪かったのでしょう。





 ともあれ、そんな馬鹿らしい場面があるオリエンテーションに行くわけがありません。
 なので今日は自主休日です。

「はい。召し上がれ」
「わふっ」

 訓練場からも外れた、あえて言うのであれば学園の南の敷地ギリギリのところで、先日学園の外に遊びに行って手に入れたお肉をペットに与えて癒されています。

「ほーらもう一個」
「がふっ」

 ペットの名前はリュークちゃんです。灰銀の毛並みと金色の目が美しい魔狼ですわ。この子は普段は傍におらず自分のテリトリーにいるのですが、寂しくなるのか時折こうして遊びに来るのです。
 突然ではなく、地の精霊を通して事前に連絡してくるよいこなのです。

「はい、もう一個」
「がうっ」

 相変わらずの食べっぷりには思わず関心してしまいますね。
 蛇の生肉はお気に召さないとのことでしたので、今回は丁寧に皮をはいでぶつ切りにして、香草と塩コショウで臭みを取って味をつけてミディアムに焼き上げました。
 直径1m、全長50mの大蛇でしたからまだまだお肉はありますからたっぷり食べてくださいね。

「蛇を食べることはあるけど、こんなに大きな肉は初めてみるヨ」
「噂の魔狼はもっと大きかったと聞くが、これでは本当にわんこよのぉ」

 あ、本日はオリエンテーションに参加しなかったペレト様とアルスデヤ様もご一緒ですわ。私と同じように入寮初日に中央より北側は全部見て回ったそうです。
 本日は南側をご案内がてら、ペットのリュークをご紹介してみました。実際の大きさは全長50mぐらいありますが、迷惑なので今は全長1mのワンちゃんになってもらってます。

「それにしても、空間魔法というのは便利よの。良ければ妾にも教えてくりゃれ」
「そうネ!それだけの荷物が収納出来て、しかも保温機能付きなんてすごいヨ!」
「保温機能ではありませんよ?この裂け目の中は時間がひどくゆっくり流れるんです。こちらでの100年が裂け目の中の1秒だそうですよ」
「なんト!」
「空間で自由に扱える領域は自分の魔力との相性次第ですね、私はその気になればこの学院まるっとしまえるとは思いますけど」
「なるほどの、12公爵家のものは規格外と聞いてはおったが、ほんに規格外よのぉ」

 リュークにお肉を与えながら昼食の準備をしていく。お姫様である二人には野外での食事などあまり体験がないとのことなので、張り切ってバーベキュー形式にしてみた。
 てきぱきと道具を取り出して出したテーブルの上に材料を並べていく。

「肉に海産物、野菜…これをどうするノ?」
「切って焼いて食べます」
「なるほどのぅ?」

 準備された包丁を手にもって首をかしげながらも、腕をまくってやる気満々なアルスデヤ様がじっとこちらを見てくる。
 切り方を説明していけば、最初は戸惑っていたけれどもすぐに慣れたのかどんどんと切っていく。

「これに火をつけるのネ?」
「そうです、その炭に火をつけて、鉄板を乗せてその上で焼いていきます」
「火魔法なら少し使えるヨ」

 そう言って早速炭に向かってちゃんと手加減を加えて火魔法を放って火をつけてくれるペレト様の様子を確認しながら、私は鉄板を載せて油をひき、切られた材料をどんどんとのっけていく。
 よかった、ペレト様が加減がちゃんとできる方で。人によってはそのまま消し炭にしますからね。

「野外訓練にもっていく荷物には野営食はあったが、これはまた別じゃの」
「そうネ!あれ食べたことあるけどおいしくないヨ」
「そうですね。出征が長引くとそういうのも食べることもありますけど、毒にさえ気を付ければ魔物の肉のほうが美味しかったりしますよ」
「うーん、自分じゃ遠征にいかないカラ何とも言えないネ」
「そうじゃのう。旗印になるにしても安全な場所で立って居るだけじゃしの」

 まあ、普通の国の王侯貴族なんてそんなものなのでしょうね。我が国が特殊なのです。
 だからこそ、他国は我が国の戦力を手に入れたがったり、戦力を貸してもらいやすくなるように取り入ってくるのですけれど。
 過去に周辺国すべてで一斉に戦争を仕掛けて、そのすべての国が惨敗したという話が今の残っているので、我が12公爵家は恐怖の対象でもありますね。
 藪をつつかなければいいだけのことですけれども。

「はーい、できましたよ」
「ワォ!美味しそうネ!」
「うむ。ほれ、早う皿にいれてくりゃれ」
「ああ、好きなものを自分で取って食べてくださいね」
「む、そうであったか」
「お肉いっぱい食べるヨ!」

 火は消したので冷めないように保温の魔法だけかけて飲み物を用意して自分の分を皿に盛りつけて、2人が座っているシートに座る。

「アイスティーです」
「うむ、良い香りじゃ」
「冷たくておいしいネ」
「リュークもまだお肉あるからこっちのは食べちゃだめですよ」
「わふ」

 程よく木漏れ日が差し込んでくる中3人と1匹で和やかに昼食会が始まる。
 お二人は初めの一週間で座学と礼儀作法は卒業レベルをクリアしており、ペレト様は魔法学については卒業レベルクリア、アルスデヤ様は神学がすでに卒業レベルクリアしていらっしゃいます。
 本日は自主休日ということにはなっておりますが、こうして精霊の息吹を感じていらっしゃるのです。
 精霊魔法は精霊の力を借りて魔法を使うものであり、通常の魔法とは異なるものになっております。
 通常の魔法は自分の魔力を使用して魔法を使うので威力のコントロールや限界が容易にわかる反面、高出力のものを使用するには人間が通常持つ魔力では威力が足りないという欠点があります。
 精霊魔法は精霊と契約して加護を与えられ精霊に魔法を使ってもらうため、自分の魔力を消費することはほとんどなく、その代わり細かいコントロールや限界がわかりずらいという欠点があります。
 過去に大出力で精霊魔法を使い続けていた魔法使いが戦陣の真っただ中で威力が途絶えその途端敵に殺されたという話しもあるぐらいです。
 精霊魔法も神の加護を得て使う魔法もどちらも自分の力を使うわけではないためか、驕りが起きやすいといわれており、自分を律する訓練が多くなる科目になります。

「はあ、おなかイッパイヨ」
「妾ももう十分じゃ」
「そうですね、ちょっと食べ過ぎちゃいましたね」

 少々多く材料を用意しすぎてしまったらしく、鉄板の上にはまだ食材が残っている。

「リューク、食べていいですわよ」
「がうっ」

 けれど心配はいりませんわ。リュークが残りを食べてくれますもの。全くリュークってば、大蛇を食べ終わってもまだ食べるなんて、少々ダイエットを考えるべきでしょうか?

 お二人と鉄板などを洗浄魔法で片づけたり、空間に放り込んだりして周囲に忘れ物がないかを確認して日が暮れる前に戻ることにしました。

「それにしても、南の敷地は12公爵家用に北とは違って実際の環境に近く、また過酷であると聞いているがほんとうじゃな」
「そうネ。道はあるけど舗装されてないし、迷いやすいネ」
「そうですわねぇ、少し迷うかもしれませんね。でも、戦場では道案内がいるわけでもないですし、覚えるしかないでしょう?これはそう言った訓練もかねておりますのよ」
「なるほどのぅ。日々訓練というわけか」
「そんなたいそうなことではないですけれどね」

 そう言ってみますが、実際は覚えるのに苦労しました。
 この森、精霊が住み着いていて定期的に道が変わるんですもの。まったく、法則性や自分の方向感覚を信じないといつまでたっても目的地に着けませんのよ。
 もっとも、こんなところまで来るのは私達12公爵家のものか、それのいずれかに付き添われてのことでしょうから、問題はないと思いますけどね。

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