転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

05 初手は様子見と分析です(セイラ視点+後半ミレーヌ視点)

 我が国の貴族が通う学院には他国からの留学生も多い。どの学年にも2~5人は在籍している。
 神の加護の強い我が国の高位貴族、できれば12公爵家や王家の人間と繋がりを作っておくために各国から送り込まれてくる『見目麗しく優秀な高位貴族の令息令嬢』だ。生贄とも色仕掛けとも言われる彼らの寮は、一般貴族たちが住む寮からほんの少し離れた北西にあるパラシトゥス寮に住む。
 この寮も男女兼用で大きさ自体はステルラ寮とさほど変わらないだろう。
 ただ部屋の自由度は高く、その部屋の住人によって全く違う間取りに見えるほどだという。
 やってくる留学生はいずれも優秀であり、私達12公爵家の子女と同じく習得すべき単位を早々に修め終わり、残りの在学期間は好きなテーマの研究を行ったり、遠征に出て魔物を退治したりと好きな行動をとる。
 要は選択式の授業であり、人数制限に引っかかれば爵位の高い生徒からその授業を受けることができるということになっている。

「セイラは何を選択するの?」
「んー、どうしましょう?」

 新入生が入学して一週間という期間、それは生徒の学力や実力を測る期間となっており、この際に受けるテストで単位を取得し終わる生徒も少なくない。
 通常の座学や礼儀作法は卒業レベルのものはクリアしましたし、精霊学・神学・魔法学・武術も必要最低限はおろか、ちょっと専門家に足を突っ込むレベルのものまでクリアしてしまったので、一年生にして専門課程の単位を選ぶしかないのですよね。

「まあ、一週間目のテストでここまで取得するのなんてアンタぐらいよ。私達ですらどれかは引っかかってたのに」
「王妃教育のたまものですわねえ。魔法学と武術で引っかかるような真似はなさらなかったのでしょう?」
「そりゃ、私達12公爵家の専売だもの」

 先輩組の5人は精霊学・神学でどうしても引っかかってしまったらしい。確かにこの二つは実際に加護を得てその力を解析して理解しておかなければ不明な部分も多いし扱いきれないこともある。それを過去の事例などを引き出しどのような精霊によりどのような加護を得てどのような力を発揮するのかなど、そういうことを学ぶ精霊・神学では最初の一週間で合格者が出ることはまずない。
 今年は2人、私セイラとカイン様がクリアしている。
 秘宝の加護だけであるのなら問題はないのだが、複数の精霊や神の加護を受けるのはいくら公爵家の人間でも体が持たないため、よほど相性が良くなければ秘宝の加護以外は受けないのが通常だ。

 一週間のテスト期間後、2日の休みが生徒には与えられており、セイラとエドワードはその休みを利用して一般貴族たちが暮らすエリアにある喫茶店でお茶とケーキを楽しんでいる。
 これは午前中の訓練(遊び)の格闘戦でエドワードが勝利したためセイラが連れてこられた状態になる。

「カイン様は魔法学と武術で落ちてますし、まあ予想通りではないでしょうか?」
「予想外はセイラだけね。まあ、私達からすれば当たり前って感じだけど。それで、何の単位を選択するの?」
「んー」

 セイラはすでに運ばれてきているケーキをつつきながら考える。

「魔術系:回復魔法でしょうか?幸い手近にスペシャリストがおりますし」
「ああ、マリオン様ね。あの回復魔法はすごいわ、広範囲に高出力の回復魔法を最大24時間展開し続けられるんだもの。常時魔力は吸い取られるけど」
「羨ましいわ。私が使える回復魔法なんて骨折治すぐらいだもの」
「セイラの場合加護を使えば死人だって生き返らせることができるでしょ」
「んー?んー………できるみたいですね」

 ぱくりとアップルパイを一口分口に入れて左右に頭を振ってこたえると、エドワード様が口元を引き浮かせる。流石にお行儀が悪かったかしら?

「何気に精霊か神と交信しないでちょうだい。まあ、セイラ自身の力は広域範囲には向かないものねぇ」
「そうですわよ。防御だって広範囲になればなるほど薄くなっちゃう上に展開している間は魔力を流し込み続けなくてはいけませんし、マリウス様は王都包み込むぐらいの結界を同じ強度で張れるんだからすごいわ、展開時に魔力を流し込めばいいだけですしすぐに複数の行動に移れます」
「セイラは狭い範囲になればなるほど強度が増す壁を作るタイプだし、強化の範囲も対象が小さいものになればなるほど強くかけられるものね」
「そうですわねぇ。便利ではありますけど、長時間広範囲を維持するという点ではお二人にかないませんわ」

 私の魔法は同時展開がし難いというのが欠点になってしまうのですよね。魔力の分割をもっとうまくできるようになればいいのですが、あいにく苦手分野ですしね。

「それで回復魔法ね。他には何か履修するの?」
「魔術系:魔力分割、精霊学系:身体能力向上、武術系:体術ですかしら」
「まあそんなものね」

 そう言って優雅にカップを傾けるしぐさをすると、どこからともなく木漏れ日が入ってきてエドワード様の姿を神秘的に見せる。
 休日でる今、私は簡素な白いドレスの上に乗馬服の赤いジャケットに黒のロングブーツを着用しており、それに合わせたのかエドワード様は乗馬服風の黒いジャケットと白のスラックスに黒のショートブーツを着用している。
 制服でも戦闘服でもない私たちの服装は、それなりに周囲の視線を集めているのだけれども、私もエドワード様も気にするようなタイプではない。
 もっとも、先ほどからあからさまにこちらに周囲とは違った感情のこもった視線を向けられていれば、その視線は気になってしまうものではありますね。

「セイラ、アップルパイ一口ちょうだい」
「どうぞ」

 エドワード様の言葉に皿をそのまま前に出す。
 そうすると軽くため息をついたエドワード様が自分の皿の上に載ってるシフォンケーキを一口大に切り、ブルーベリーのジャムをつけて持ち上げて…。

「なんですか?」
「おいしいわよ?食べてごらんなさい?」
「……ふう。あーん……………美味しい」

 食べさせてもらった瞬間悲鳴というか歓声が上がった。子供ではないのだから何を考えているのだろうと思っていると、エドワード様がアップルパイのお皿と自分に口を交互に指さしてくる。

「食べさせろと?」
「んふふ」
「私はカイン様の婚約者ですが?」
「ちょっと実験よ」
「はあ……」

 仕方がないのでアップルパイの端のほうを一口大に切ってエドワード様の口元にもっていけば、ためらいもなくパクリと食べられてしまう。

「……セイラもいじわるね。肝心のリンゴがほとんどないじゃない」
「たまたまですわ。それで?何の実験ですか?」

 私の言葉にエドワード様はもはやギャラリーとかした周囲に手を振ってこたえる。途端に上がる完成の中に憎しみに似た視線を感じてギャラリーに同じように笑みを向けて手を振りながら視線の主を探せば、ミレーヌ様だった。
 ふむ、カイン様の婚約者なのに他の男性と仲良くしていて怒っているのか、別の何かか今はちょっとわからないですね。

「あの子がミレーヌ様ね」
「そうですわね」

 ふーん、と笑顔を崩さないままギャラリーから視線を私に戻したエドワード様が言って紅茶のカップを手に取って口元に近づける。

「ちょっと面倒そうね」
「そうですか?」
「ええ、カイン様を狙っているなら今の場面は不貞を訴える絶好のチャンスなのに、浮かべてる感情は嫉妬や憎しみ。わけがわからないわ」
「婚約者という立場を持ちながら不貞をしているのが許せないという可能性もありますね」
「そうね。とにかく今夜皆で相談ね」

 そう言ってカップを置いたエドワード様はしまったというように顔を引きつらせたので首をかしげてどうかしたのかと問いかけてみる。

「デートと食べさせ合いっこしたことがばれたら、強制訓練地獄だわ」
「マリオン様とカイン様は私が一緒にケーキを作って食べさせ合いっこするといって押さえておいて差し上げます」
「そのケーキを男どもにも分けてちょうだいよ」
「カイン様が残すようでしたらいいですわよ」
「残るかしら」

 カイン様が入寮してから約一週間、おっとりした外見に似合わずとんでもない甘党で大食いだということが判明している。
 特に甘いものに関しては底なしと言ってもいいかもしれない。
 若干遠い目をしているエドワード様を見ながら、カフェのガラス窓に移っているミレーヌ様を見てどうしたものかと悩んでしまう。
 いっそ手を出してきてくれれば対処しやすいのだけれども、あちらも早々に手は出さないだろうし、ままならないものですね。

























 なんなの、アレ。
 なんで攻略対象のエドワードとセイラが一緒に仲良くお茶してんのよ!しかも相変わらずの儚げ系キャラしやがってっ!周りもうっざいのよ!キャーキャー言ってる場合じゃないだろうがっ!
 これってあれよね、不貞ってやつでしょ。やっぱりキャラチェンしても所詮は悪役令嬢ね、あったまわるいわ!

「「「キャーーっ」」」

 大きな歓声にハッとすれば、エドワードがセイラにケーキを食べさせてるところだった。

「っ!」

 そのイベントはっ!私のものなのにっ!あのくそ女っ!ふざけんなっふざけんじゃねーよ!
 ああ、でも中途半端じゃん。口の端しいクリームが付いてそれをエドワードが指で拭って自分で食べるまでがイベントなんだよバーカ。
 中途半端にしかできないとか、やっぱりヒロインじゃなきゃできないっての!
 ほらみろ、お前が食べさせたアップルパイで微妙なかおしてんじゃねーかっ!不相応のことするからだよ!
 ああ、でもこんだけ目撃者がいるんだからカイン様に言えば一発で印象悪くなるんじゃね?ってかそうするし。
 ほらっもう証拠は十分なんだよ!いつまでエドワードの前に座ってんだっての!そこは私の場所なのよ!
 どけよカスッ!

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