転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!

茄子

04 甘く見てもらっては困ります(セイラ視点)

 ふんわりとした茶色の髪、驚いたように見開かれたオレンジ色の瞳。車輪の付いた大きなバッグを持っていたあの子がヒロインでおそらく間違いはないのでしょう。
 王子、カイン様とも親し気でしたしお名前が小説のヒロインと同じ「ミレーヌ」様でした。
 やはりこの世界に酷似した小説と同じように、学院初日に道に迷って王子との再会するシーンが起きてしまいました。
 無駄な抵抗かと思いつつも、カイン様にはなるべく遠くに行かないようにお願いしておいたのですが、無駄な努力だったようですね。
 入学式の3日前というぎりぎりの日にちに入寮したカイン様は、なんというか驚くほどおっとりとした方で、私どもが主に使用するであろう南側の施設などを説明した時も、なんというかわかっていらっしゃるのか微妙な反応しか返ってきませんでした。
 翌日である今日は、案の定少し寮の周辺を見てくると言って出ていったきり2時間も戻ってこないので皆で探しに行けば、寮の周辺というにはだいぶ離れた場所でミレーヌ様と再会していらっしゃいました。
 幼馴染、とカイン様はおっしゃってましたが、一瞬見たミレーヌ様のお顔と瞳はただの幼馴染というにはあまりにも……。

「あまりにも、狩人の目でしたわ」

 お散歩に疲れてしまったと言って自分の部屋に戻ったカイン様以外のメンバー、つまりこの世界に酷似した小説の話を知っている寮生が集まった談話室で先ほどのことを報告すると、ミレーヌ様の印象を聞かれたので思ったままを伝えました。

「小説では、きつい厚化粧をしたセイラがカイン様と親し気にしているミレーヌ様に身分を弁えろみたいなことを言って追い払うんだったな」
「はい」
「ねえ、私の思い違いでなければそのミレーヌ様っていうのは小説の中では元気で明るい、でも繊細な子よねぇ?」
「そうですわね」
「厚化粧セイラに嫌味を言われて落ち込むのよねぇ?」
「そうですわね。ミレーヌ様が去った後に小説のセイラはカイン様に昔よくしてもらった令嬢なのだから身分さなんて二人には関係ないとか言いますのよ。それでプライドを刺激されたセイラが」
「ああ、そこはいいのよ。問題は、元気で明るい繊細な女の子が狩人の目っておかしいわ」

 カール様が事実確認をしてきたのでうなずくと、今度はエドワード様が眉間にしわを寄せてさらに事実確認をしてくる。
 確かに、小説の中のミレーヌ様と先ほどお会いしたミレーヌ様は身体的特徴とお名前は一致しておりましたが、一瞬垣間見えた雰囲気が小説とはあまりにも異なっているように感じましたわね。
 私がお二人に合流してすぐに傷ついたように顔をうつ向かせていらっしゃいましたが、そうなさる直前、私を目にした瞬間驚いたように目を見開いていらっしゃいました。
 あれは、知らない人が来て驚いたという顔ではありませんでした。知っているはずのものが全く違うものになって表れたというような驚き方だったように思いますわね。

「セイラがその小説とやらと見た目や行動が変わっているのだから、そのミレーヌ様とやらも小説のままというわけではないのかしらねえ」
「俺は別の可能性を提案するよ」

 エドワード様の言葉にマリウス様が挙手をして注目を集めた後、その手を下して膝の上を指で何度か叩く。
 これはマリウス様が何か考え事をするときの癖ですので、何か考えがあるのでしょう。

「セイラ様がその前世の記憶ってのを持ってるなら、ミレーヌ様も同じように前世の記憶がある可能性。ないとは言い切れないんじゃない?」
「そうね。私もマリウスに賛成だわ。セイラ様の話してくれた小説のミレーヌ様では狩人の目をすると思えないもの。人格が違う可能性、つまりセイラ様のようにこの世界に酷似した小説のことを知っているかは別として、なんかしらの人格の変化があると考えていいと思うわ」

 マリオン様もマリウス様の言葉に付け加えるように言ってぐるりと私たちを見まわす。

「それに、人格の変化があって、もしセイラ様の話してた小説の知識があるのだとしたら、面倒なことになるかもしれないわよ」
「……小説のようにカイン様を狙っている可能性があるってことか?」
「それだけでも厄介だが、セイラ様を陥れようと画策する可能性がある」
「なるほど、小説の中ではセイラの行動でカイン様との仲を深める。なら手段としてセイラを故意的に陥れる可能性があるわね」

 皆様の言葉に少し驚きながらも、確かに、と納得してしまう。
 カイン様とミレーヌ様は今は昔幼い恋心を抱きあった幼馴染というだけ、身分や婚約者の前では通常そんなもの吹けば消し飛ぶような関係。結婚はおろか婚約者にも、恋人にすらなることもありえない。
 でも、婚約者である私に小説の中のような落ち度があれば、少なくともカイン様の私への心証は悪くなり比例してミレーヌ様へ心を寄せる可能性はある。

「でも、王子のお気に入りだからってただの伯爵令嬢を私がいじめたとして、12公爵家と王家の決めた婚約がなくなるとは思えませんわ」
「そこよ。その小説では王子とヒロインは婚約破棄を宣言した後に、二人は結ばれて幸せに暮らした、のよね?」
「ええ」
「セイラの言う通り、その程度のことで婚約破棄など出来るものではないわ。それは12公爵家と王家の関係にひびを入れるような行いになるもの、絶対に認められないわ。ミレーヌ様って子が12公爵家のどこかの隠し子であっても、加護を得ていない娘である以上、ただの伯爵令嬢でしかないもの」

 その言葉に私を含め全員がうなずくと、エドワード様は一本指を立てる。

「婚約破棄が成立して二人が結婚できる可能性。一つ目は神の加護を得ること」

 確かに過去の歴史で、12公爵家ではない者が神の加護を受けて12公爵家に養子に入り王家に嫁いだことはある。

「二つ目、私達よりも強いことを証明する。精霊の加護を多く得るとかね」

 これも過去に事例がある。戦争で12公爵家以外のものが精霊の加護を受け戦果を挙げて12公爵家の養子になり王家に嫁いだというもの。

「三つ目、すでに二人の間に子供がいること」

 エドワード様の提示した条件の三つ目。これは悪手だ。確かに婚約の破棄が認められ、二人は結ばれるが…。

「でもその場合、子供だけが取り上げられてその親は殺される。子供が生まれるまでのひと時の間、幸せに暮らせるでしょうけどね」

 12公爵家を蔑ろにした罪は王家であっても許されることではない。王子であるカイン様は知っているだろうが、一般の貴族はただ王家の人が病死したとだけ知らされるから勘の良いもの以外は知らないだろう。

「小説の中のミレーヌ様はこの中のどれかを満たしていたのではないかしら?」
「確か、小説の中では魔物の大量発生が起き、そこでミレーヌ様が強い回復魔法を使って撃退に貢献したり、王子が病で倒れたときに女神に祈りをささげて病を治したという場面がありましたわ」
「条件を満たしている可能性があるな。もっとも現時点では加護を得てはいないようだが」
「めんどくせぇな。もし双子が言うように人格の変化、しかも小説の知識があるとしたら事件を利用する可能性は大いにある。しかもセイラ様を陥れる可能性付きでな」
「僕たちにとって、害悪になりかねない存在というわけだ」

 カール様とアレックス様の言葉に思わず胸の前で手を組む。

「もし、そうであれば……」

 きつく組んだ手は血の気を失い、より白くなり青白い血管が浮かぶ。

「12公爵家の者として、害悪は排除いたしますわ」

 すっと目を細めて口の端を持ち上げて、宣言する。
 瞬間、室内の空気が揺れランプの明かりが点滅し、私の髪がふわりと浮き上がり光の粉のようなものが舞い上がる。
 私に加護を与える方々が私の言葉に反応してその力の片鱗を残照の様に現したのだ。

「……こえ」
「まったく、誰がこの中で一番弱いんですかね。最凶の間違いでしょう」
「でも、セイラはこれでこそセイラよ」
「「セイラ様こわーい」」

 皆様の言葉にクスリと笑う。

「もし本当に喧嘩を売ってくるのなら、ですわ」

 その時は、ダレに喧嘩を売ったのかその体と魂にわからせてあげなくてはいけませんわね。

「転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く