婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪

茄子

03

「付き合うことになったぁ!?」
「ああ、そうなんだ。なあドロテア様」
「ええそう、なのですわ」

 勇者に翌日に報告すれば、予想していた反応が返ってきて胸がすく思いがする。この顔を見たかったんだ。

「そ、そうか…。そりゃぁおめでたいな」
「でも気にせずに今まで通りに接してくれて構わないから」
「そうですわよ、仲間であることに変わりはありませんもの」
「そうか。そうだよな!俺たちは仲間なんだもんな!」

 そう言って笑った勇者だったが、ふとした瞬間に俺とドロテア様の方を気にしたように見てくるのは面白くて仕方がなかった。
 しかしある晩、勇者が火の番をしているときに聞いてしまったのだ。ドロテア様と勇者の会話を。

「本当に、いいのか?愛人扱いなんだろう?恋人なんて体裁のいいことを言ってるけど結局はそういうものだよな。第一王女様がそんなんでいいのかよ」
「構いませんわ。私はヨハン様を……ヨハン様とお付き合いをしているのですから、覚悟の上ですわ」
「そうか。そっかぁ、なら俺がなんか言うことじゃないよなあ。でも、でもさぁ、……ドロテア王女がそんな風になってるのは、俺個人としてよく思えないっていうか、うん……納得できない」
「勇者…」
「俺はドロテアが好きだぞ」
「え!」
「ヨハンも他の仲間も好きだ」
「…そ、そうですか」
「だから好きな奴が傷つくのは見たくないと思ってる」

 ちっ余計なことを言うな。ドロテアに定期的にかけている催眠が解けたらどうしてくれるんだ。
 邪魔な奴だな。あいつさえいなければドロテアは心も体もこの俺のものになるというのに。何の憂いもなく俺がこの手で抱けるというのに…。
 殺してしまおうか?何度も瀕死な状態に陥っているんだ、事故で間に合わなかったと言ってもおかしくはないんじゃないか?そうだ、それこそ頭でも吹き飛んでしまえばいくらミストの蘇生リザレクションでも復活させることは出来ないはずだ。

 そう思って勇者を守らずにいたら、目的は頭だったのに馬鹿な魔物が勇者の足を粉砕してくれやがったせいで神殿に戻らなくてはいけなくなってしまった。
 すぐさまミストが駆けつけてくる。この光景もすっかり見慣れてしまって飽きて来たな。
 回復魔法をかけ終えたミストがプリプリと勇者に対してお小言を言う。

「ですから勇者様、無理をなさいませんようにと何度言ったらわかるのですか?」
「そうは言いますがミスト様、もうちょっとで魔王城に行けるところだったんですよ」
「だからと言って足を逆方向に粉砕していい理由にはなりませんからね」
「これは魔物が」
「すまないミスト、俺がいながらこんなことになってしまって」
「ヨハン様、ヨハン様は勇者様が無茶をしないように随行なさっておいでなのですよ。蘇生リザレクションこそ回数は減りましたが、これでは随行している意味がないではありませんか」
「しかし、俺は他の勇者パーティーのメンバーも守らないといけないからな」

 特にドロテアをな。勇者など死んでしまえばいいんだ。

「確かに王族であるドロテア様をお守りするのは重要かもしれませんけれども、勇者様がお亡くなりになったらそれこそどうなさるんですか。蘇生リザレクションだって万能ではないのですよ。間に合わなかったらどうなさるんですか」
「それは…」

 むしろ歓迎するところなのだがな。

「まあまあ、ヨハンだって恋人の方が大切なのは仕方がないさ、俺だって好きな人がパーティーに居たら理不尽でもその人を優先して守っているだろうしね」
「そういうものなのでしょうか」
「ごめんなさい勇者の貴方にこんな怪我を負わせてしまったのは私をかばったからで…」
「気にしないでくださいドロテア様。言ったでしょう、好きな人がパーティーに居たら理不尽でも優先して守るって。まあ、俺の片思いみたいですけどね」

 なっ何を言った?今この男は何を言ったんだ?まるでドロテア様に告白したようじゃないか。

「わたっ私が好き!?勇者、それは本当ですか!」
「ええ、片思いですけどね。想って守るぐらいはどうかお許しください、ドロテア王女殿下」
「わ、私も」

 これはまずい。催眠の効果が切れかけているのかもしれない。

「ドロテア様、勇者もお疲れでしょうから今は休ませて差し上げなくては」
「……そう、ですね」

 その後、ミストが部屋を用意してくれると言ったがそれを辞退し、ドロテア様と一緒に王宮に戻ることにした。
 馬車の中でドロテア様に再度魔眼で催眠をかけておくことにする。

「先ほどの言葉は仲間としての物であってドロテア様個人に向けたものではありません」
「しかし…」
「ドロテア様の恋人はこの俺ですよ。恋人以外に目を向けるものではないでしょう」
「……そう、ですわね」

 光の失った目を確認して唇を合わせる。甘く冷たい唇を堪能して解放すれば、催眠はしっかりと掛かっているようだ。
 そう、思っていたのに…。

「ヨハン!どういうことだ!」
「っ勇者なぜここに!?」

 王宮のドロテア様の部屋に向かう途中の通路で勇者が追い付き、吠えてくる。
 これはミストが何か入れ知恵をしたのかもしれないが、あの奥手のミストが何か気が付いているとも思えないのだが、どういうことだ?

「ドロテア王女に無体を働いたと聞いた!一体どういうことだ!」
「恋人同士なのに無体とは随分な言い様だな。ドロテア様、俺達は恋人同士で全て合意の上ですよね」

 そう言って勇者に見せつけるように口づければ、ドロテア様の体は受け入れてくるのに、涙がつっと一筋流れ出した。
 催眠が解けかけているのか?
 俺はさらに見せつけるようにドロテア様を抱きしめて口づけを深くしていき、服の裾から中に手を入れて見せつけていく。

「何をしている!ここをどこだと思っているんだ!」
「だったらお前がどこかに行けばいいだろう勇者」
「ふざけるな!泣いているドロテア王女を置いて行けるわけがないだろう!」
「これは歓喜の涙だ、なあ、ドロテア様」
「ぁ…はぃ…私、は……私は…、ちが、…違うっ」

 ドン、と押されてドロテア様が俺から距離を取る。
 これは、催眠が解けてしまったのだろうか。

「私は、私が慕っているのはヨハンではありませんっ!」
「ドロテア様何を言うのですか。私以外の誰を慕っているというのですか」
「それはっ…」
「ドロテア王女!言ってくれ、俺を好いていると、慕っていると!」
「っ!…ど、うして」
「頼む、言ってくれ」
「ふざけるな!ドロテア様、惑わされてはいけません!」
「私、は……勇者を、慕っています!」

 その言葉に目の前が真っ赤になり魔力があふれ出すのを感じ、耳元で耳飾りが砕け散った音がした。

「ふざけるなぁぁぁ!勇者お前さえいなければうまくいってたものをっよくもっよくもぉぉぉ!」

 火の攻撃魔法を勇者に向けて放つ。

「EarahikaY muroe soluco etna singi!」
「Oidisearp itrof auqa ni sotsuc!」

 しかし、ドロテア様の水魔法で打ち消されてしまった。
 完全に催眠が切れてしまっているようだな。
 剣を取り出し火を纏わせて勇者に斬りかかるが、勇者はあっさりとその剣を受け止める。

「かかったな。Esukust ruterubnoc ingi te」

 ゼロ距離からの魔法攻撃には流石に勇者も無事ではなかったらしく、吹き飛んでいく。
 しかし、ゆらりと立ち上がり、剣を構えて向かってくる。剣での打ち合いになればこちらが不利となってしまうので、避けながら魔法を打ち込んでいくが、なかなかひるんではくれない。
 しばらく戦ったところで横から魔法が飛んでくるようになった。ドロテア様が勇者にタイミングを合わせられるようになったらしい。
 こうなってしまうと完全に俺が不利になってしまうため戦線を離脱する。

 向かうのは神殿のミストのところだ。今回勇者が来た原因がミストだからな。
 夜の王都の屋根を跳んでいきながら神殿に向かう。魔物除けの結界はあるが、今の俺はそんなものに構っている暇などない。直接破り、ミストのいる部屋のベランダに降り立つ。

「ヨハン様…」
「やあミスト、月が綺麗だね」
「ええ本当に。そのお怪我はどうなさったのですか?」
「恋人たちの睦合いを邪魔しに来た奴がいてね、ちょっとやり合ったんだ。負けてしまったけどね」
「そうですの」
「君が言ったんだそうだね」
「…ええ、勇者様にドロテア様のお気持ちをお伝えしたのは私ですわ。半年でドロテア様のお気持ちが変わるかと思って見守ってまいりましたが、変わらないご様子でしたもの」

 全く持って余計なことをしてくれたものだな。

「ふっ、自分の恋愛もできないお子様に邪魔されるとは思わなかったな」
「ヨハン様、今でしたら若気の至りで済ますことが出来ますわ。婚約者である私も何も申しません。ドロテア様と勇者様とお話合いになって解決の道を」
「うるさい!」

 衝撃魔法を使って結界ごとガラス窓を粉砕する。

「きゃぁっ」

 流石にミスト自体は魔法防御を咄嗟に張って守ったみたいだな。神官兵が来ないように幻覚と人払いの結界を張っておこう。

「お子様のお前に何がわかる!シャルル枢機卿様に守られてばかりのお前に何がわかると言うんだ!俺はずっとドロテア様を愛していたんだ、愛も恋もわからないお前に何がわかるというんだ!」
「ヨハン様、神官兵が参ります。どうか心をお鎮めになってこの場から離れてください」
「もういい、もう遅い!ミスト、責任を取ってもらおうか」
「責任?」
「婚約者同士じゃないか、一緒に堕ちよう」
「な…」

 魔力を放出してミストを包み込んでいく。

「私は巫女長です。この場を離れるつもりなどございません」
「俺のことが好きだったのだろう?一緒に来てくれ、1人は寂しい。そうすれば俺もきっとミストを好きになるさ」
「そんなものいりませんわ!」
「ミストォ!」
「冗談じゃありませんわ!私は貴方などもう好きでもなんでもありませんものっ!」

 アイシクルショットを放つが、ミストの防御壁に阻まれて当たることはない。バリバリと魔力がぶつかり合い部屋の調度品が壊れていき、天井や壁にひびが入っていく。

「お前を連れていくっ!」
「お断りですわ!」

 その瞬間、人払いの結界が破られた感覚がした。

「レイン!」

 バァンと魔力がぶつかり合った瞬間、ミストがシャルル枢機卿の背後に庇われる。

「シャルル様っ」
「ああ、無事ですねレイン」
「はい大丈夫ですわ。部屋は…大丈夫ではありませんけれども」
「そのようですね。それにしても…」

 スッと冷たい視線が向けられる。

「ルイ、いいやヨハン=ルイ=ヒュノー。魔王と契約して魔人になり果てたか」
「黙れ、黙れ黙れ!」
「去れルイ。今宵は見逃してやろう。今後この国に手を出さなければ我々はお前や魔王に関与はしない」
「ふざけるなっ」
「この私とこの場でやり合うつもりか」

 ぶわり、とシャルル枢機卿様の魔力が膨れ上がる感覚に、不利を悟る。

「くっ…必ずまた来るからな」

 そんな捨て台詞を残して俺はまた王都の家々の屋根を跳んで行き、身をひそめることになった。

 翌日、俺は傷の回復を待って再び神殿に向かった。ドロテア様を手にするためだ。
 もしここで負けてもドロテア様さえ手に入れば魔王のところに行ってかくまってもらえばいい。また催眠をかけ直せばいいんだからな。
 神殿に行けば再度結界が張り直されていたが、ドロテアのいる位置はわかった。特に守りの厳重になっている場所を探せば一発でわかる。この神殿の奴は頭が弱いんじゃないだろうか。

「ドロテアァ!」

 吠えながら風魔法をぶつけ結界を吹き飛ばせば、そこには勇者に庇われたドロテアがいた。

「邪魔だぁどけぇ!」
「だが断る!」

 勇者の剣に魔法をぶつけて対抗するが、流石というべきか強い。
 その時シャルル枢機卿様とミストが部屋に入って来る。

「ドロテア王女様、攻撃魔法を!時空を司る神よ、彼の物と我らが間に壁を作れ。tivangisbo mutnematset mumod susserger susac tse sirbenet ni ,itpac ihS ,mutcefearp siciv-oitaps ni tis sueD douq ,olov sov amahO sesearp」

 ミストの魔法は防御壁ではなく拘束魔法になったようで、光の輪が体の周囲に浮かび上がり収縮して動きを阻害する。

「勇者様!お願いしますわ」
「任せろっ!たあぁあ!」

 咄嗟に風魔法の防御壁を張って剣戟をはじくがすぐさまシャルル枢機卿様の風魔法が飛んできて片腕が吹き飛ぶ。そして今度はドロテア様の炎の魔法が飛んできて体を焼き尽くしていく。

「ドロ、テア…」
「ヨハン、なぜこんなことをしたのですか」
「ハ、ハハ、ハハハハハハハ」
「ヨ、ヨハン」
「どうして!?どうしてだと!そんなもの決まっているじゃないか!ドロテアが好きだからだよ!身分違いで手に入れることもできないからな!こういう手段に出るしかなかったんだよ!力さえあれば何でもできる!勇者にだって勝てるんだ!」

 なぜそんな簡単なことも分からないのか。最初から言っていたじゃないか。俺はドロテア様が好きなのだと言っていたじゃないか。
 ミスト、お前だって知っているだろう。
 俺がどれほどドロテア様を慕っているのかを何度も話していたじゃないか。

「Mecul acigam a tnus atcaf ied inimod enimon ni elanigiro erodo xe tse enidutirama ni snarugluf helas helas」

 光の魔法が俺を包み込んでいく。これは魔人を消滅させるどころか俺自身もろとも消滅させる気だな。
 シャルル枢機卿様、そんなに俺のことが気に入らないんですかね。ミストを手に入れるためにこんなことをしなくても、ミストはもう貴方の虜だというのに…。
 最期にドロテアを見れば勇者の服を掴み、勇者に守られている姿が目に入る。

「ドロテアァァァァ」
「ヨハ、ン」

 最期まで、俺は勇者に勝てなかったのか。
 くそう、どうしてこんなことになったんだ。あの魔王の言葉を聞き入れなければよかったとでもいうのか。
 だがそれではドロテア様を手にれることが出来ない。これは仕方がなかったのだ。
 銀色の魔王よ、結局お前の顔を見ることはなかったが、今ならわかるぞ。

 お前は……。

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