婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪

茄子

09

 会場に戻りますと案の定、ドロテア様とヨハン様の話題で盛り切りになっておりました。中には私の誕生日の宴で発表しなくてもとおっしゃる方もいらっしゃるようです。
 まあ、私は特に気にしていないのですけれどもね。現場を見ておりましたし。

 それにしても、こうして貴族の方々に久しぶりに囲まれますと、気疲れと申しますか、気苦労が絶えない世界なのだと改めて思い知らされます。
 これでも7歳までと15歳から17歳までの2年間令嬢として教育を受けて来ておりますので、表面上は取り繕えますけれど、腹の探り合いは苦手分野ですわね。
 恋愛というのも腹の探り合いに似ておりますわよね、先ほどの光景を見てまざまざと思い知らされましたわ。
 そう考えますと、やはりシャルル様が私の恋人に名乗りを上げてくださったのは、そういう面倒ごとを回避するためだったのでしょうか?
 確かに恋人を探すとなれば腹の探り合いなどがありますから、治癒のお仕事に集中できなくなってしまうかもしれませんものね。なるほど、そういうことだったんですか。納得いたしましたわ。
 流石はシャルル様です、下の者への配慮も忘れない方でございますわ。
 ……なんでしょう、ちょっとだけ胸がモヤっと致しますけれど、きっと気のせいですわね。それこそ人当りをしてしまったに違いがありませんわ。
 会場の方はまだドロテア様とヨハン様の話題で盛り上がっているようですし、私はもう少し人の少ない場所に居ることにいたしましょう。元々人前に出ることが苦手なのですもの、仕方がありませんわよね。

 と、思っていたのですが…。

「ドロテア様の恋人の婚約者だなんて、随分と大きなお顔が出来ますのね」
「本当に、今日この日に発表したのだってきっとドロテア様が耐えきれなかったからに決まってますわ」

 なんだか絡まれております。どうしてでしょうか?私はただ静かにしていただけなのですが…。

「何のことかわかりかねますわね。ドロテア様とヨハン様の事でしたら当人同士のことですから私には関係のないことでございますわ」
「まあ!なんていうこと!ドロテア様に申し訳ないと思わないのですか!」

 思いませんけれども…。そもそもあんな方法で恋人になるなんて邪道じゃございません事?

「それこそ当人同士の問題ではございませんか、私が何をしたというのですか?」
「ヨハン様を婚約者にして独占しておいて何を言っておりますの!」
「別にしておりませんが?」
「聞いた話では学園時代も婚約者を独占して、恋人との仲を邪魔なさっていたとお聞きしましたわ」
「まあ!なんてことでしょう」

 あ、これはまずいですわね。馬に蹴られてしまいますわ。ん?けれども正当な恋路ではないので違うのでしょうか?
 とにかく、このままでは私が悪者になってしまいますわ。それだけは避けたいところなのですが、生憎近くにはリーン様達もシーラもおりませんし、1人でどうにかしなければなりませんわね。

「私は別にヨハン様とドロテア様が恋人であっても気にはしませんわ。だってヨハン様の婚約者ひいては結婚するのはこの私ですもの」
「まあ!言うに事を欠いてなんてことをおっしゃいますの!ドロテア様がお気の毒でいらっしゃいますわ!」
「ドロテア様が時折気鬱気になさっていた原因は貴女でしたのね!」

 えー、なんですのその展開。これはあれですわ、学園時代に悪役令嬢に仕立て上げられた時に感覚が似ておりますわ。あの時と違って今は完全に私が不利なのが問題ですけれども。
 さてどういたしましょうか。
 扇子で顔の下半分を隠して考え込みますがいいアイディアが思い浮かびませんわね。今までどれだけ他力本願だったのかがわかるというものです。
 うーん……。

「そもそも、私とヨハン様の婚約は神殿で決められたものでございますので、そこに私どもの意思は関わっておりませんのよ。それに、お互いに恋人を持つことの自由は保障されておりますもの、貴女方に何かを言われる必要はないと思いますのよ」
「んなっそれで巻き込まれたシャルル枢機卿様もお気の毒ですわね!」

 ん?

「まったくですわ、シャルル枢機卿様はお情けで貴女とお付き合いなさっているというのに、いつまでたっても解放なさらないなんて、自分のお立場をお分かりになっていらっしゃらない証拠ですわね」

 んん?

「貴女なんてシャルル枢機卿から見ればほんの子供じゃありませんか」

 カッチーン。それちょっと気にしてたことなんですけど。自分で思うのは別として人に言われるとイラっと来ますわよね。
 ええ、所詮は図星を突かれたというものですわ。

「まあまあ、そういうことでしたのね」
「な、なんですの?」
「皆様はシャルル様に懸想なさっておいでなのかしら?申し訳ございません、シャルル様を私が独占してしまいまして。でも、恋人になりたいとおっしゃったのはシャルル様の方からでいらっしゃいますので、私の方からは何も言えませんのよ、ええ本当に」

 本当にね!あれよあれよという間に恋人になったのですから間違ったことは言っておりませんわ。
 それにしてもわかっておりましたがシャルル様は女性に人気でいらっしゃいますのね。

「ふん、そんなこと言ってご存じないようですわね。シャルル枢機卿様は東の魔女ディアナ様と昔から良い仲でいらっしゃいますのよ。魔人を退治した後からお付き合いをなされていると有名ではございませんか」
「……だからなんですの?」
「だから、身を引けと言っておりますのよ!シャルル枢機卿様をこれ以上貴女のわがままで拘束するなんて、烏滸がましいにもほどがありましてよ!」

 その言葉と共にバシャリ、と令嬢たちが手にしていたグラスの中身が私にかけられてしまいました。お酒臭いですね。もしかして彼女たちは酔っているのでしょうか。
 仮にも神殿の巫女長であるこの私にこんな仕打ちをして只で済むと思っているのでしょうか?少なくとも、彼女たちの家に関わり合いのある方々の治療は私は当面致しませんわよ。

 私にお酒をかけてくださったご令嬢たちは退散されましたが、私のこの惨状はどうしたらよいのでしょうか。
 水分は乾かせますけれども、お酒の匂いや、崩れてしまった髪はどうしようもありませんわよね。

「困りましたわね」

 誰とは無しに呟いてバルコニーにあるベンチに腰かけて風に当たります。風魔法でお酒を乾かすことも忘れずにしておきます。
 髪は、風で崩れたとでも言っておきましょうか。

「はあ」

 東の魔女様の噂は聞きますが、シャルル様と恋仲という噂は初めて聞きましたわね。けれどもシャルル様は今30歳ですし、そういうお相手がいてもおかしくはありませんわよね。
 そもそもいないと思っていた私の方がどうかしておりますわよね。

「馬に蹴られて死んでしまいますわ」

 私という存在は邪魔、なのでしょうか?
 ……はあ、やるせないですわね。シャルル様のお邪魔をしているというのであれば、恋人を止めていただくのも手かもしれませんわね。そもそも半年間も恋人になっていてくださったのですし、十分なのではないでしょうか?
 必ず恋人を持たなくてはいけないという決まりはないのですし…。

「死なれては困るかな」
「え?」

 聞こえてきた声に顔を上げると、そこにはシャルル様がいらっしゃいました。いつからいらっしゃったのでしょうか?先ほどのやり取りを聞かれていますと、あの方々のお家に影響が出てしまう可能性もございますし、なるべく今来たところだと言ってほしいのですが…。

「ディアナは私の恋人ではないし、今までそんな仲になったこともないよ」

 あ、そこからですか。あの方々のお家大丈夫でしょうか?
 ふわり、と風が吹いてお酒の匂いが飛んでいきます。シャルル様の魔法でございますね。

「あんなことを言われて、なぜもっと反論しないのですか?」
「いえ、する必要もないと思いまして…」

 義務で付き合っていただいているのなら、解放して差し上げたほうがいいかとも思いましたし。

「ほら、後ろを向いて」
「はい?」
「髪を結って差し上げますよ」
「髪結いまで出来るのですか?多才でいらっしゃいますのね」
「仕込まれましたからね、ディアナに」
「ディアナ様にですか」

 ちょっと胸がチクっとしてしまいました。

「私は昔ディアナに拾われた子供なんですよ」
「拾われた?」
「そうです。東の森に捨てられていた所を拾われて色々仕込まれたんですよ。それで、治癒の魔法の才能があったために神殿に預けられたんです。まあその後に魔人討伐の任務で再会した時は驚きましたけどね」
「ディアナ様はおいくつなのでしょうか?」
「さぁ?少なくとも50は超えていると思いますがもっと上でしょうね。年齢のことを聞くと怒るので知りませんが、昔から容姿が変わったところを見たことがありません」
「そうなのですか」
「ですから、恋仲ということは絶対にありませんよ」
「そう、ですか……でも、私の恋人に無理をしてなっていらっしゃるのではありませんか?」
「そんなことはありませんよ」
「けれど…」

 そこでバサリ、と髪が下ろされる。

「けれどもだなどと聞きませんよ。レインの恋人は私です」
「…はい」

 けれども、やはり好きとも愛しているともおっしゃっては下さらないのですよね。
 手早く髪を結い上げられて、知らない髪飾りを差し込まれて仕上げられる。ちらっと見えた物は真珠を使った髪飾りだから、きっと誕生日のプレゼントなのでしょうね。

「出来ましたよ」
「ありがとうございます」
「さぁ、そろそろ会場に戻りましょうか」
「はい」

 シャルル様にエスコートされて会場に戻れば、視線が私たちに集中します。先ほどまではヨハン様とドロテア様の話題でもちきりだったはずですのに、今度は私たちの話題でもちきりになりそうですわね。
 なんと言っても髪型が変わっておりますし、長時間離れていましたから何があったのかと憶測する方々が多そうです。
 本当に貴族社会というのは面倒ですわね。

 夜会が終わって馬車で帰るのですが、帰りの馬車はヨハン様ではなくシャルル様にエスコートしていただきました。
 あの噂の中、ヨハン様にお声をかけることが出来なかったというのと、ヨハン様がドロテア様の傍を離れそうになかったのが理由ですわ。
 ドロテア様、お顔の色が悪かったですが大丈夫でしょうか?

「…シャルル様、馬車にぐらい1人で座れます」
「こうしたほうが可愛らしいお尻に負担がかからないでしょう?」

 現在、私はシャルル様の膝の上に横向きに座っている状態です。どうしてこうなってしまったのでしょうか。
 むしろ背中が不安定で怖いのですけれども、必死にシャルル様の首にしがみついているのですがお分かりにならないのでしょうか?
 一応背中にシャルル様の腕がありますけれども、その、腕を回されて胸元に手が来ているのですが…、その、恥ずかしいのですが…。
 無駄に大きくなってしまいましたし、邪魔なだけですから触っても楽しくないと思うのですが、男の人は触って楽しいのでしょうか?

「シャルル様、私の胸に触れて、その、楽しいのでしょうか?」
「柔らかくて気持ちがいいですよ」
「そういうものなのですか」

 男の方の感覚はわかりませんわね。

 それにしても、フニフニと揉まれていますと、なんだかもどかしい感覚になってしまいますね。

「あの、そろそろ手を放していただけませんでしょうか?」
「どうして?」
「その…変な気分になってしまいますっん」

 くちゅり、と口の中に舌を入れられて言葉を封じられてしまいました。その間に胸にあった手が徐々に下に降りて行き、お腹の上を撫でるように、おへその上でくるくると動かされます。
 なんだかくすぐったいですわね。

「んん、…ぁ」
「変な気分になって構いませんよ。ちゃんと私がしてあげますから」
「なに、んっを?」
「何をでしょうね。でもきっといいことですよ」
「くふっん、足…撫でちゃ、だめっ」
「どうして?こんなに可愛らしいのに」

 空いてる手が太ももから徐々につま先に移動していく。ずるり、とスカートが落ちてふくらはぎが露になってしまい恥ずかしさに顔が赤くなってしまった。

「恥ずかしい、です」
「ふふ、本当に可愛らしいですね、レイン」
「シャルル様、どうしてこんなことをなさるんですか?」
「どうしてとは?」
「恋人だからってこんなことしなくってもいいと思うんです」
「恋人以外とこんなことをするつもりなのかな?」
「しません、けれど…」
「じゃあ構わないでしょう?」
「……はい」

 そうなのでしょうか?なんだかうまく丸め込まれているような気がします。
 神殿についてからもシャルル様は私を離しては下さらなくて、そのままお姫様抱っこで部屋まで運ばれてしまいました。
 ポスン、とベッドに寝かされてドレスを寛げさせられていきます。

「シャルル様?」
「私以外を恋人になんてさせませんよ」
「あの…」
「いいですね」
「…はい」

 シャルル様の目の奥になんだか暗い光が灯ったような気がして、一瞬だけ怖くなってしまいました。
 そのままおでこにキスされて、布団をかけられると、そのまま眠るように言われてシャルル様はお部屋を出ていかれてしまいました。
 ドレスがそのままなのですが、いいのでしょうか?
 明日の朝シーラに怒られてしまうのは私なのですけれども…。

 結局、そのまま眠れるはずもなく、私は真夜中に起き出してのろのろとドレスを1人で何とか脱いで、部屋着用のシュミーズドレスに着がえて、またベッドに横たわりました。
 なんだか色々あった一日でしたわね。

 ヨハン様とドロテア様の恋人関係は随分と歪なものに見えましたけれども、上手くいくのでしょうか?
 ドロテア様の想い人は勇者様なのでしょうに、恋人を偽るなど、よくないのではないでしょうか?
 今度勇者様がいらっしゃったときにでも相談させていただきましょうか?
 でもそうしますとドロテア様の気持ちを教えることになってしまいますし、そうしますと、ドロテア様がせっかく隠していることですのに、第三者の私が関与していいものではないような気も致しますわね。
 はあ、ヨハン様もヨハン様ですわ。あんな脅すようなことをおっしゃって、あんまりですわ。
 あれではドロテア様も正常な判断が出来ないのではないでしょうか?けれども恋人になることを決めたのはドロテア様ですし、いいのでしょうか?

 そんなことを考えている間に眠りについてしまって、気が付いたら朝になっておりました。

「おはようございます巫女長様」
「おはようございますシーラ」
「あれ、お着替えなさったんですか?」
「ええ」
「もうっお着替えなさったのなら侍女でもだれでもいいから呼んでください。ドレスがしわになってしまってますよ」

 シーラがベッドの横にクシャリと置かれたドレスを腕に取り上げてため息をついています。なるほどすっかり失念しておりましたわね。
 次があるかは分かりませんが次があったら気を付けることにいたしましょう。

「せっかくのシャルル枢機卿様から贈られたドレスですのに」
「え?」
「え?」
「シャルル様から、贈られていたのですか?」
「そうですよ。デザインから全部お決めになったって聞きましたけど、ご存じなかったんですか?」
「知りませんでしたわ。けれど採寸もなかったですのによくもぴったりの物が作れましたわね」
「そこはシャルル枢機卿様と巫女長様の仲ですから」

 はて?一体どのような仲だとぴったりなドレスが作れるのでしょうか?恋人だと作れてしまうものなのでしょうか?

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