婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪
08
「ぁ、シャルル様…こんなところでは、だめですわ」
「構いませんよ。誰もいません」
神殿に戻ってから半年が過ぎました。
私は今図書塔の片隅でシャルル様に追い込まれております。
初めのころは唇にキスをしてくださいませんでしたが、ここ最近はふとした隙を狙って唇にキスをしてくださいます。
「んっ…ぁ、は…ぁ」
深くなっていくキスと、強く抱きしめられる腕の逞しさに、体が熱くなってしまいます。
「シャル、ルさま、だめ」
「大丈夫ですよ、ほら、こっちを向いて」
「んんっ…」
抵抗はあっさりと封じられてしまいます。
最初のころはあんなに触れるのも躊躇うと言わんばかりでしたのに、最近ではすっかりこの調子で、若干困ってしまっておりますの。
私の心臓のドキドキがおさまらなくって、いつか破裂してしまうのではないかと不安で仕方がありません。
シャルル様は最近ではキスマークをあちらこちらにお付けになるものですから、ショールを襟元に巻くのがすっかり習慣になってしまいました。
それでもこうしているときはそのショールも取られてしまい床に落とされて、シュミーズドレスの襟元を開けられてまた新しいキスマークを付けられてしまうのです。
「はぁ、…シャルルさまっもうお時間が、執務があるので、んんっ」
そう言った瞬間鎖骨の部分をべろりと舐めあげられて身悶えてしまいました。
「そう言う意地悪を言ってはいけませんよレイン」
「で、も…はふ、ん…あっあぁ」
「ふふ、本当に腰をこうして撫でられるのに弱いですねレインは」
「こ、こんなことをなさるのはシャルル様だけです」
「そうでなくては困ります」
「……ん、はぁはぁ」
「ああすみません、やりすぎてしまいましたね」
「いえ…でも少し休みたいですわ」
「ええもちろん」
そう言ってシャルル様は私をお姫様抱っこするとソファに座り直しました。
「あの、下ろしていただけますでしょうか」
「駄目ですよ、腰が立たないのでしょう?」
「そ、うですけれど、座る分には何も問題はないのではないでしょうか?」
「問題があります」
「そうなのですか?」
「私が寂しいではないですか」
「まっまたそういうことを言う…。もう半年もたっているんですから騙されませんわ。そうやって私をからかっていらっしゃるのでしょう?」
「からかうなど酷いな。心からそう思っているんですよ」
「もうっ」
私はそう言ってむくれながらシャルル様の肩に頭を乗せます。そうすると、ポンポンと背中を軽くシャルル様が叩いてくださって本当に安心できるのです。
「そう言えばもうすぐ18歳の誕生日でしたね、誕生日プレゼントは何がいいですか?」
「誕生日プレゼントですか?ではいつものお香を頂けますでしょうか?」
「それ以外にはありませんか?」
「……えっと……その」
いけません、全く思いつきませんわ。
えっと、ロベルタ様はご婚約者の方に確か馬車を買っていただいたとおっしゃっていましたけれど、神殿の中で過ごす私には不要なものですし、ジャンヌ様は婚約者には髪飾りを贈っていただいたんでしたっけ?リーン様も装飾品を頂いたとおっしゃっておりましたわよね。
「…そ、装飾品とかでしょうか?」
「どんなものがいいですか?」
「か、髪飾り…とか?」
「髪飾りですか、この藍色の髪に似合う髪飾りはどんなものがいいでしょうね。真珠の髪飾りなども似合いそうです」
「は、はあ…」
正直、自分を着飾ることにあまり興味がないのでわかりかねてしまうのですが、シャルル様は何やら乗り気なのでよかったのでしょうか。
半年も経ちますと、すっかりシャルル様呼びにも慣れてきました。枢機卿様相手に名前呼びなど、未だに時折お恐れ多いと思ってしまうのですが、その度にお仕置きという名の、…その……いろいろされてしまいますので、シャルル様呼びを頑張りました。
あれから勇者様一行も少しずつですが南下なさって魔王の状態を確認なさっているようです。ヨハン様も随行員として活躍なさっているとのことで、婚約者としては喜ばしいことですわね。
それと、ドロテア様ですがやはり勇者様一行に加わっていらっしゃるらしく、魔法使いとして活躍なさっているようでございます。
第一王女がそのようなことをして大丈夫なのかと心配になりますが、幸いこの国には他にも王子・王女が居りますので、言い方は悪いですがドロテア様に何かあっても問題はございません。
「レインの髪はさらさらとしていて触り心地がいいですね」
「シャルル様の髪こそ指どおりが滑らかで、覆いかぶさられるときなど、まるで髪の檻に閉じこめられてしまったかのような錯覚に陥ってしまいますわ」
「っ……貴女は」
「どうかなさいました?」
私、何か変なことを言ってしまったのでしょうか?
「時々不意打ちにそういうことを言う」
「どういうことでしょうか?よくないことでしたら改めますわ」
「いえ、大丈夫ですよ。ちょっと私の自制心を揺さぶって来るだけですから」
それは大丈夫ではないのではないでしょうか?
といいますか、そういうこととはほんとうにどういうことなのでしょうか、とっても気になりますわ。あとでシーラにでも聞いてみましょう。
でもまた呆れたような視線を向けられるだけのような気がしてなりませんね。
「そういうわけで、私は何か変なことを言ったのでしょうか?」
「…本気ですか巫女長様」
「本気ですわよシーラ」
私はその日の夜にさっそくと言わんばかりにシーラを捕まえて聞いてみましたが、やはり呆れた線を向けられてしまいました。
「天然というか純粋培養というか…ここまでくるとシャルル枢機卿様もお気の毒というか…」
なんだか酷い言われようですわね。
「でもね、そもそもいくら恋人だからと言って、想ってもいない人にプレゼントを贈ることもないと思いますのよ」
「はぁ!?」
「な、なんですの?」
「想ってもないって、誰のことを言ってるんですか?」
「シャルル様ですわ。シャルル様は私の恋人ですけれども、別に私のことを好いていらっしゃるわけではありませんもの」
「どうしてそうなった!」
「どうしてって…」
そんなの決まってますわ。
「だって私、シャルル様から好きだとも愛してるともいわれたことがございませんもの。シャルル様は枢機卿としての義務の一環で私の恋人になっていらっしゃるんですのよ」
「どうしてそうなったー!」
シーラが頭を抱えてしまいました。私また何か変なことを言ったのでしょうか?
「否、この場合シャルル枢機卿も悪いのでは?でも私の立場では意見することなど烏滸がましくてできないし、うきゃー!どうしたらいいんでしょうっ!」
「シーラ、シーラってば落ち着いてくださいませ」
何があったのかはわかりませんがとりあえず落ち着かせた方がよさそうですわよね。
「……ふう、ふう…落ち着きました。醜態をさらしてすみません巫女長様。ところで、巫女長様はシャルル枢機卿のことをどう思っていらっしゃるんですか?」
「良い方だと思っております」
「好きとか嫌いとかで!です」
「……好き、でしょうか」
そう言った瞬間シーラがガッツポーズを取りました。何か喜ばせるようなことを言いましたかしら?
「触れていただくとその部分が熱くなったように感じますし、キスをしていただくと腰のあたりがこう、なんだか切なくなる時もありますわね。……そう、ですわね。ヨハン様に抱いていた恋心とはまた別な感じですけれども、私はシャルル様のことが好きなのだと思いますわ」
「愛しちゃってるとかありますか?」
「愛ですか?それはちょっとわかりませんわね。愛しているというのは、どういう時にわかるのでしょうか?好きという気持ちや、恋とはどう違うのでしょうか?」
「うっ、それを言われるとこう、なんとなーく感覚でとしか答えられませんが…」
シーラにもわからないものなのですね。リーンさん達にもお手紙で聞いてみたほうがいいかもしれませんわ。
愛していると言えば家族愛を代表として挙げられますが、……そうですわね、両親やお兄様は大切ですが、神殿に入った者として、家族との関係は希薄になってしまいましたし、そこまで家族愛があるかと言われると難しい問題ですわね。
シャルル様を愛しているかと聞かれると、正直わかりませんわ。好き、ではありますけれどもヨハン様に抱いていたような恋心は無いように思いますもの。
そもそも、恋と愛の差って何なのでしょうか?
そんなことを考えているうちに日は経っていき、私は誕生日を迎えることに相成りました。
各所から届けられる贈り物の選別にも時間がかかってしまいますが、巫女長の誕生日ということもあって、祝賀会とまではいきませんが小さな宴が開かれることとなってしまいましたので、私は久々に神殿を出て王宮に行くことになりました。
半年ぶりの王宮と言いますか外に、正直ドキドキが止まりません。
「……はあ」
「どうしたミスト」
「ヨハン様、ガラにもなく緊張してしまって」
「まあミストは神殿に引きこもっているからな、仕方がないだろう」
「ええ、ヨハン様にもお付き合い頂き申し訳ありません」
「婚約者の仕事だからな、このぐらいどうということはないさ」
「ありがとうございます」
馬車で王宮に入りますとすぐさま会場に案内されます。会場の前の控室でドレスに不具合がないか、化粧や髪型に乱れはないかチェックされてからの入場となりますが、ヨハン様に手を引かれて歩く自分にどうにも違和感を感じてなりません。
どうしてヨハン様が私をエスコートしているのでしょうか?いいえ、婚約者なのですから当然のことなのですが、なんと申しますか、こう、心がぎゅーってしてしまいますわね。
会場に入るともう大勢の方がお待ちになってらっしゃったようで、注目を浴びてしまいました。
こういう場は慣れないのでヨハン様の後ろに隠れたいのですが、今日の主役は私ですしここは巫女長として、堂々としたふるまいをしなければなりませんわね。
国王陛下の挨拶が終わると、まず両親とお兄様がお祝いの言葉を言いに来てくださいました。こうしてお久しぶりにお会い致しますが、やはり神殿に入ってしまっているからでしょうか、家族愛というのはそれほど感じることはありませんね。
むしろ、同じ巫女仲間のほうに情があるように感じられます。
その後も幾人かの挨拶を受けてふと気が付くと、ヨハン様は横にいらっしゃらなくなっておりました。
それは別に構いませんけれども、どちらに行ってしまわれたのでしょうか?一応婚約者なのですから最後まで傍にいて欲しいのですが…。
「少し風に当たってまいります」
そう言ってヨハン様を探しながらバルコニーに行きますと、ヨハン様ともう一人人影が見えましたので思わずカーテンに身をひそめてしまいました。
これでは立ち聞きしているようですわね、はしたないですわ。
「ドロテア様、俺は…」
「ヨハン、その先をどうか言わないでくださいませんでしょうか。その先を言われてしまえば私は貴方に答えを返さなくてはいけなくなってしまいます。そしてそれはきっと貴方を傷つけてしまう」
「それは…つまりそういうことなのですね」
「貴方のことは好いておりますが、そういう対象で見たことはないとだけ言っておきましょう」
「……わかりました」
これで終わりかとほっと胸をなでおろしましたら、ドロテア様が「何を」と慌てたような声をお出しになったので思わずバルコニーを見てしまいましたら、ヨハン様とドロテア様がキスをなさっておいででした。
「無礼者っ」
バチン、と乾いた音がバルコニーに響きます。
「無礼者でも構いません。俺は、俺はドロテア様を愛しております。お傍にいるだけでいい、ドロテア様が勇者を好いているのは気が付いておりますが、それでもお傍に居たいんです」
「なにをっ…何を言っているのですか、世界が危機に瀕しているかもしれないというときに、勇者に恋などしている暇があるというのですか」
「そんなもの関係ありません。俺は、ずっとドロテア様を見ていたからわかるんです。愛しているからこそ、ドロテア様が勇者を愛しているとわかってしまうんです」
「……そのようなこと、あるはずもないでしょう」
「いいえ!ではどうして俺を拒絶するのですか!勇者を愛しているからでしょう」
そうでなければ自分を傍においてくれ、とヨハン様は必死に縋り付くような声で訴えかけていらっしゃいます。
その光景は胸を打つものではございますが、まるで劇を見ているかのような感覚で、ショックを受けるとかそういう感情は湧き上がっては来ませんでした。
そもそも、もとよりヨハン様がドロテア様をお慕いしていることは知っておりましたものね。
「それとこれとは話が違います」
「いいえ!勇者を愛していないというのならその証にこの俺を傍においてください」
ナニソレ無茶苦茶理論。
などと思わず脳内でツッコミを入れてしまいましたが、恋は盲目というものなのでしょうか?
ドロテア様も悩んでいらっしゃるようです。
どうして悩んでしまわれるのでしょうか?勇者様には特に恋愛感情を向けてはいないけれども、ヨハン様を傍に置くほどの情はないと切って捨ててしまえばよろしいのに。
「……わかり、ました」
「ドロテア様!」
「私が勇者を愛していない証にお前の恋人となりましょう」
「ありがとうございます!」
どうしてそうなりますの!?理解不能ですわね。
ドロテア様、有能な方だと思っておりましたが、そんなことはないのでしょうか?
あらまあ、バルコニーでお2人抱き合ってキスを……、ドロテア様、全く気持ちがよさそうではありませんわね、と言いますか眉間にしわが寄ってますわ。
本当にこれでよかったのでしょうか?ドロテア様、今なら見なかったことにできますわよ。ここからお2人で出ていってしまったら注目の的でしてよ?
まさに引き返すなら今、といったところでございましょうか。
とまあ、私のそんな祈りもむなしく、ドロテア様はヨハン様に腰を抱かれて会場にお戻りになられました。
今頃会場ではヨハン様の恋人がドロテア様だったと話題になっているころですわよね。
私の時はシャルル様が恋人になりましょうと言ってくださいましたので、こういったことはございませんでしたけれど、恋人を宣言するというのも大変なものなのですね。
シャルル様はどうしてそこまでして、私の恋人になってまで私を神殿に引き留めようとなさったのでしょうか?
確かに現在私以上の治癒魔法の使い手はいませんけれども、それを差し引いても恋人役に自ら名乗り出なくてもよかったのではないでしょうか?
お忙しいでしょうにお時間を割いてまで私にお付き合いくださいますし、全く持って利点がないように思いますわ。
「構いませんよ。誰もいません」
神殿に戻ってから半年が過ぎました。
私は今図書塔の片隅でシャルル様に追い込まれております。
初めのころは唇にキスをしてくださいませんでしたが、ここ最近はふとした隙を狙って唇にキスをしてくださいます。
「んっ…ぁ、は…ぁ」
深くなっていくキスと、強く抱きしめられる腕の逞しさに、体が熱くなってしまいます。
「シャル、ルさま、だめ」
「大丈夫ですよ、ほら、こっちを向いて」
「んんっ…」
抵抗はあっさりと封じられてしまいます。
最初のころはあんなに触れるのも躊躇うと言わんばかりでしたのに、最近ではすっかりこの調子で、若干困ってしまっておりますの。
私の心臓のドキドキがおさまらなくって、いつか破裂してしまうのではないかと不安で仕方がありません。
シャルル様は最近ではキスマークをあちらこちらにお付けになるものですから、ショールを襟元に巻くのがすっかり習慣になってしまいました。
それでもこうしているときはそのショールも取られてしまい床に落とされて、シュミーズドレスの襟元を開けられてまた新しいキスマークを付けられてしまうのです。
「はぁ、…シャルルさまっもうお時間が、執務があるので、んんっ」
そう言った瞬間鎖骨の部分をべろりと舐めあげられて身悶えてしまいました。
「そう言う意地悪を言ってはいけませんよレイン」
「で、も…はふ、ん…あっあぁ」
「ふふ、本当に腰をこうして撫でられるのに弱いですねレインは」
「こ、こんなことをなさるのはシャルル様だけです」
「そうでなくては困ります」
「……ん、はぁはぁ」
「ああすみません、やりすぎてしまいましたね」
「いえ…でも少し休みたいですわ」
「ええもちろん」
そう言ってシャルル様は私をお姫様抱っこするとソファに座り直しました。
「あの、下ろしていただけますでしょうか」
「駄目ですよ、腰が立たないのでしょう?」
「そ、うですけれど、座る分には何も問題はないのではないでしょうか?」
「問題があります」
「そうなのですか?」
「私が寂しいではないですか」
「まっまたそういうことを言う…。もう半年もたっているんですから騙されませんわ。そうやって私をからかっていらっしゃるのでしょう?」
「からかうなど酷いな。心からそう思っているんですよ」
「もうっ」
私はそう言ってむくれながらシャルル様の肩に頭を乗せます。そうすると、ポンポンと背中を軽くシャルル様が叩いてくださって本当に安心できるのです。
「そう言えばもうすぐ18歳の誕生日でしたね、誕生日プレゼントは何がいいですか?」
「誕生日プレゼントですか?ではいつものお香を頂けますでしょうか?」
「それ以外にはありませんか?」
「……えっと……その」
いけません、全く思いつきませんわ。
えっと、ロベルタ様はご婚約者の方に確か馬車を買っていただいたとおっしゃっていましたけれど、神殿の中で過ごす私には不要なものですし、ジャンヌ様は婚約者には髪飾りを贈っていただいたんでしたっけ?リーン様も装飾品を頂いたとおっしゃっておりましたわよね。
「…そ、装飾品とかでしょうか?」
「どんなものがいいですか?」
「か、髪飾り…とか?」
「髪飾りですか、この藍色の髪に似合う髪飾りはどんなものがいいでしょうね。真珠の髪飾りなども似合いそうです」
「は、はあ…」
正直、自分を着飾ることにあまり興味がないのでわかりかねてしまうのですが、シャルル様は何やら乗り気なのでよかったのでしょうか。
半年も経ちますと、すっかりシャルル様呼びにも慣れてきました。枢機卿様相手に名前呼びなど、未だに時折お恐れ多いと思ってしまうのですが、その度にお仕置きという名の、…その……いろいろされてしまいますので、シャルル様呼びを頑張りました。
あれから勇者様一行も少しずつですが南下なさって魔王の状態を確認なさっているようです。ヨハン様も随行員として活躍なさっているとのことで、婚約者としては喜ばしいことですわね。
それと、ドロテア様ですがやはり勇者様一行に加わっていらっしゃるらしく、魔法使いとして活躍なさっているようでございます。
第一王女がそのようなことをして大丈夫なのかと心配になりますが、幸いこの国には他にも王子・王女が居りますので、言い方は悪いですがドロテア様に何かあっても問題はございません。
「レインの髪はさらさらとしていて触り心地がいいですね」
「シャルル様の髪こそ指どおりが滑らかで、覆いかぶさられるときなど、まるで髪の檻に閉じこめられてしまったかのような錯覚に陥ってしまいますわ」
「っ……貴女は」
「どうかなさいました?」
私、何か変なことを言ってしまったのでしょうか?
「時々不意打ちにそういうことを言う」
「どういうことでしょうか?よくないことでしたら改めますわ」
「いえ、大丈夫ですよ。ちょっと私の自制心を揺さぶって来るだけですから」
それは大丈夫ではないのではないでしょうか?
といいますか、そういうこととはほんとうにどういうことなのでしょうか、とっても気になりますわ。あとでシーラにでも聞いてみましょう。
でもまた呆れたような視線を向けられるだけのような気がしてなりませんね。
「そういうわけで、私は何か変なことを言ったのでしょうか?」
「…本気ですか巫女長様」
「本気ですわよシーラ」
私はその日の夜にさっそくと言わんばかりにシーラを捕まえて聞いてみましたが、やはり呆れた線を向けられてしまいました。
「天然というか純粋培養というか…ここまでくるとシャルル枢機卿様もお気の毒というか…」
なんだか酷い言われようですわね。
「でもね、そもそもいくら恋人だからと言って、想ってもいない人にプレゼントを贈ることもないと思いますのよ」
「はぁ!?」
「な、なんですの?」
「想ってもないって、誰のことを言ってるんですか?」
「シャルル様ですわ。シャルル様は私の恋人ですけれども、別に私のことを好いていらっしゃるわけではありませんもの」
「どうしてそうなった!」
「どうしてって…」
そんなの決まってますわ。
「だって私、シャルル様から好きだとも愛してるともいわれたことがございませんもの。シャルル様は枢機卿としての義務の一環で私の恋人になっていらっしゃるんですのよ」
「どうしてそうなったー!」
シーラが頭を抱えてしまいました。私また何か変なことを言ったのでしょうか?
「否、この場合シャルル枢機卿も悪いのでは?でも私の立場では意見することなど烏滸がましくてできないし、うきゃー!どうしたらいいんでしょうっ!」
「シーラ、シーラってば落ち着いてくださいませ」
何があったのかはわかりませんがとりあえず落ち着かせた方がよさそうですわよね。
「……ふう、ふう…落ち着きました。醜態をさらしてすみません巫女長様。ところで、巫女長様はシャルル枢機卿のことをどう思っていらっしゃるんですか?」
「良い方だと思っております」
「好きとか嫌いとかで!です」
「……好き、でしょうか」
そう言った瞬間シーラがガッツポーズを取りました。何か喜ばせるようなことを言いましたかしら?
「触れていただくとその部分が熱くなったように感じますし、キスをしていただくと腰のあたりがこう、なんだか切なくなる時もありますわね。……そう、ですわね。ヨハン様に抱いていた恋心とはまた別な感じですけれども、私はシャルル様のことが好きなのだと思いますわ」
「愛しちゃってるとかありますか?」
「愛ですか?それはちょっとわかりませんわね。愛しているというのは、どういう時にわかるのでしょうか?好きという気持ちや、恋とはどう違うのでしょうか?」
「うっ、それを言われるとこう、なんとなーく感覚でとしか答えられませんが…」
シーラにもわからないものなのですね。リーンさん達にもお手紙で聞いてみたほうがいいかもしれませんわ。
愛していると言えば家族愛を代表として挙げられますが、……そうですわね、両親やお兄様は大切ですが、神殿に入った者として、家族との関係は希薄になってしまいましたし、そこまで家族愛があるかと言われると難しい問題ですわね。
シャルル様を愛しているかと聞かれると、正直わかりませんわ。好き、ではありますけれどもヨハン様に抱いていたような恋心は無いように思いますもの。
そもそも、恋と愛の差って何なのでしょうか?
そんなことを考えているうちに日は経っていき、私は誕生日を迎えることに相成りました。
各所から届けられる贈り物の選別にも時間がかかってしまいますが、巫女長の誕生日ということもあって、祝賀会とまではいきませんが小さな宴が開かれることとなってしまいましたので、私は久々に神殿を出て王宮に行くことになりました。
半年ぶりの王宮と言いますか外に、正直ドキドキが止まりません。
「……はあ」
「どうしたミスト」
「ヨハン様、ガラにもなく緊張してしまって」
「まあミストは神殿に引きこもっているからな、仕方がないだろう」
「ええ、ヨハン様にもお付き合い頂き申し訳ありません」
「婚約者の仕事だからな、このぐらいどうということはないさ」
「ありがとうございます」
馬車で王宮に入りますとすぐさま会場に案内されます。会場の前の控室でドレスに不具合がないか、化粧や髪型に乱れはないかチェックされてからの入場となりますが、ヨハン様に手を引かれて歩く自分にどうにも違和感を感じてなりません。
どうしてヨハン様が私をエスコートしているのでしょうか?いいえ、婚約者なのですから当然のことなのですが、なんと申しますか、こう、心がぎゅーってしてしまいますわね。
会場に入るともう大勢の方がお待ちになってらっしゃったようで、注目を浴びてしまいました。
こういう場は慣れないのでヨハン様の後ろに隠れたいのですが、今日の主役は私ですしここは巫女長として、堂々としたふるまいをしなければなりませんわね。
国王陛下の挨拶が終わると、まず両親とお兄様がお祝いの言葉を言いに来てくださいました。こうしてお久しぶりにお会い致しますが、やはり神殿に入ってしまっているからでしょうか、家族愛というのはそれほど感じることはありませんね。
むしろ、同じ巫女仲間のほうに情があるように感じられます。
その後も幾人かの挨拶を受けてふと気が付くと、ヨハン様は横にいらっしゃらなくなっておりました。
それは別に構いませんけれども、どちらに行ってしまわれたのでしょうか?一応婚約者なのですから最後まで傍にいて欲しいのですが…。
「少し風に当たってまいります」
そう言ってヨハン様を探しながらバルコニーに行きますと、ヨハン様ともう一人人影が見えましたので思わずカーテンに身をひそめてしまいました。
これでは立ち聞きしているようですわね、はしたないですわ。
「ドロテア様、俺は…」
「ヨハン、その先をどうか言わないでくださいませんでしょうか。その先を言われてしまえば私は貴方に答えを返さなくてはいけなくなってしまいます。そしてそれはきっと貴方を傷つけてしまう」
「それは…つまりそういうことなのですね」
「貴方のことは好いておりますが、そういう対象で見たことはないとだけ言っておきましょう」
「……わかりました」
これで終わりかとほっと胸をなでおろしましたら、ドロテア様が「何を」と慌てたような声をお出しになったので思わずバルコニーを見てしまいましたら、ヨハン様とドロテア様がキスをなさっておいででした。
「無礼者っ」
バチン、と乾いた音がバルコニーに響きます。
「無礼者でも構いません。俺は、俺はドロテア様を愛しております。お傍にいるだけでいい、ドロテア様が勇者を好いているのは気が付いておりますが、それでもお傍に居たいんです」
「なにをっ…何を言っているのですか、世界が危機に瀕しているかもしれないというときに、勇者に恋などしている暇があるというのですか」
「そんなもの関係ありません。俺は、ずっとドロテア様を見ていたからわかるんです。愛しているからこそ、ドロテア様が勇者を愛しているとわかってしまうんです」
「……そのようなこと、あるはずもないでしょう」
「いいえ!ではどうして俺を拒絶するのですか!勇者を愛しているからでしょう」
そうでなければ自分を傍においてくれ、とヨハン様は必死に縋り付くような声で訴えかけていらっしゃいます。
その光景は胸を打つものではございますが、まるで劇を見ているかのような感覚で、ショックを受けるとかそういう感情は湧き上がっては来ませんでした。
そもそも、もとよりヨハン様がドロテア様をお慕いしていることは知っておりましたものね。
「それとこれとは話が違います」
「いいえ!勇者を愛していないというのならその証にこの俺を傍においてください」
ナニソレ無茶苦茶理論。
などと思わず脳内でツッコミを入れてしまいましたが、恋は盲目というものなのでしょうか?
ドロテア様も悩んでいらっしゃるようです。
どうして悩んでしまわれるのでしょうか?勇者様には特に恋愛感情を向けてはいないけれども、ヨハン様を傍に置くほどの情はないと切って捨ててしまえばよろしいのに。
「……わかり、ました」
「ドロテア様!」
「私が勇者を愛していない証にお前の恋人となりましょう」
「ありがとうございます!」
どうしてそうなりますの!?理解不能ですわね。
ドロテア様、有能な方だと思っておりましたが、そんなことはないのでしょうか?
あらまあ、バルコニーでお2人抱き合ってキスを……、ドロテア様、全く気持ちがよさそうではありませんわね、と言いますか眉間にしわが寄ってますわ。
本当にこれでよかったのでしょうか?ドロテア様、今なら見なかったことにできますわよ。ここからお2人で出ていってしまったら注目の的でしてよ?
まさに引き返すなら今、といったところでございましょうか。
とまあ、私のそんな祈りもむなしく、ドロテア様はヨハン様に腰を抱かれて会場にお戻りになられました。
今頃会場ではヨハン様の恋人がドロテア様だったと話題になっているころですわよね。
私の時はシャルル様が恋人になりましょうと言ってくださいましたので、こういったことはございませんでしたけれど、恋人を宣言するというのも大変なものなのですね。
シャルル様はどうしてそこまでして、私の恋人になってまで私を神殿に引き留めようとなさったのでしょうか?
確かに現在私以上の治癒魔法の使い手はいませんけれども、それを差し引いても恋人役に自ら名乗り出なくてもよかったのではないでしょうか?
お忙しいでしょうにお時間を割いてまで私にお付き合いくださいますし、全く持って利点がないように思いますわ。
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