わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
63. 橘部長から逃げ出して_2
「腰痛ぁ……飛行機の距離を新幹線移動は、ちょっと無理があるわ」
博多駅のホームで私は伸びをした。背骨からパキポキと乾いた音がしてる。
東京駅から博多駅まで約五時間。大半は眠ってたけど、めちゃくちゃしんどかった。もう夜だからお腹もすいた。
私は博多駅で、恐る恐る携帯端末の電源を入れた。予想通り、宮燈さんからの鬼のような着信が残っていた。怖すぎる。すぐにまた電源を落とした。もう少し遠くまで逃げよう。電光掲示板を見上げていると終着駅長崎というタイトルがよぎった。終着駅まで行ってみよう。
博多駅の売店でおにぎりを買って、特急に乗り換えてさらに約二時間。ここまでくれば、簡単にはわからないと思う。長崎に来たのは高校の修学旅行以来で、駅舎がずいぶん変わっていた。
駅前のビジネスホテルはどこも満室で、すこし離れた場所にあるホテルに部屋をとった。着替えもないから下着は手洗いする。シャワーを浴びて、備え付けの浴衣を着てベッドに寝転んだ。
「何やってんだ、私……」
狭い天井を見上げる。宮燈さんから大事にされてるとは思うけれど、ひとりの女としてなのか、単に結婚した責任からなのか、私には判別出来ない。私は宮燈さんに頼らないと自立すら出来ていない。
宮燈さんは私のこと、好きって言ってくれた。多分、それは本当なんだと思う。でも『私だけ好き』かどうかは、もう信用出来ない……。
「浮気するやつは、平然とするからね」と修士課程の須田先輩に言われたのは、去年のクリスマスイブの日だった。
デートだデートだと散々浮かれていたのに、当日研究室にいたせいで、同級生から「清川はセカンド」等と言われていたあの日、私を昼食に誘ってきた須田先輩は、「ドン引きされるの覚悟で、私の黒歴史を教える」と言って話してくれた。
須田先輩は彼女がいる人を好きになってしまって「一度でいいからお願い」と誘ったそう。すると相手の男は、あっさり先輩を自宅に連れ込んだ、と。
浮気するやつは、そんなそぶり微塵も出さずに平然とする。
ヤバイ、なんでこんな話を今思い出しちゃったんだ。
疲れてるのに、全然眠れないじゃん……。
……
…
でも、眠れないと思ったのは一瞬だったようでぐっすり眠った私は、翌朝ぱっちり目が覚めた。
「せっかく来たんだから、気晴らしに観光しよー!」
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