わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

61. 橘部長は無責任_3


 杉岡さんが「30分捻出しましたから!」と叫んで、ドアを閉めて出て行く。私は持ってきた新聞を会議室の机に広げて質問した。

「これは何ですか」
「一緒にいるところを撮られていたらしい」

 あまりにも淡々と言うから腹が立つ。こっちも感情的にならないように話そうと思ったけど、私の手は震えていた。怖い。

「熱愛って書いてありますけど、浮気したんですか?」
「していない。事実じゃない」

「じゃあなんでデートしてたんですか?」
「一緒に食事して話をしただけだ」

「世間一般的にはそういうのをデートって言うんです! いつも私には『自分だけ見ろ』って言うくせに、宮燈さんは余所見するの?」

 私がそう言うと、宮燈さんが黙った。私とは隠れて行くのにね。この女が羨ましくて悔しい。視界に入るのも嫌だと思って新聞をたたんでいると宮燈さんが悪びれもせず言った。

「私が好きなのは桜だけだ」
「……よく……平気で言えますね。だって、実際デートしたんでしょ?相手の実家にも行ったんでしょ?向こうはその気なんじゃないんですか?こんなの見せられて私だけって言われても信用できません!」

 宮燈さんは反論しない。本当に家へ連れていったのなら、結婚したい相手として親に会わせたのかな。

「否定しないんですか……。本当に……実家にまで行ったんですね。そうですか。綺麗な人ですね。才能もあって自立して、素敵だと思います。借金抱えた私よりよっぽどお似合いです」

 生まれて初めて、私は心にもない事を言ってしまった。お似合いなんて思ってない。嫉妬しかしてない。こんな女、消えてしまえと思ってる。

「君がそう言うなら、そうなんだろう」

 あまりにも無責任な事を言うから、私は「歯ぁ食いしばれ」と叫んで、手首にスナップを利かせて、夫の綺麗な顔を思い切り平手打ちした。宮燈さんは表情を変えない。悔しい。肩も手も痛い。グーで腹パンの方が良かったかな。
 力任せにドアを開けると、杉岡さんが「うわっ」と言いながらよろけていた。誰も近づかないように、そして話を聞くためにドアにもたれていたんだろうなと思ったから、私は言った。

「聞こえました?」

 杉岡さんが目を反らす。聞こえたんだね。

 私は逃げた。もう何も考えたくない。


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