わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
57. 橘部長が噂の的_1
新幹線の中で、私はその山崎ミコという女優について調べていた。
検索して出てくるのは、私なんか比べ物にならないくらいに綺麗な女の人の画像。
実力派女優と紹介してある記事や、初主演映画がヒットした記事を読んでいると、宮燈さんは一体どこで知り合ったんだろうと不思議に思った。新聞記事には「共通の友人を通じて知り合い」云々と書いてあったが、それって何だろう。
どんな人なのか見てみようと、個人について調べた。
本名は山崎深湖、父親は俳優・山崎雄輔で、母親も女優・新田雪江。芸能界に疎い私でさえ聞いたことのある有名人だった。
「ああ、何となく聞いたことあると思ったら、山崎森羅のお姉さんなんだ……」
そして、いつも母が「好き」と言ってた俳優さんの姉だった。これで性格が悪ければいいのにと思ったが、明るくてスタッフ含めた周囲からも好かれているそうで、非の打ち所がなくて絶望した。
宮燈さんはこの人の前でも笑うんだろうか。
まさか、朝御飯を一緒に食べたりはしてないよね?
力一杯握り締めて、バキバキとスマホケースを割っていたので、通路を挟んだ席にいた男性が怯えた目で私を見ている。でも検索する手をとめられない。人気女優なだけあって、熱愛報道はネットでも話題になっていた。ほとんどが祝福、一部に嫉妬。
浜松を過ぎたあたりで調べるのをやめた。もう疲れた。
それより東京に行ってどうしよう?着くのはお昼過ぎだから、定時まで待つしかないかな。
熱海を過ぎた頃、やっぱり気になってまたネットで検索をしてしまった。でも、さっきまであった新聞の電子版から、記事が削除されていた。
所属事務所が揉み消した?
不倫なんてイメージダウンだろうから、宮燈さんが既婚者とバレたのでは?
もし、相手の女優さんが、宮燈さんが独身だと思って付き合ってたら、彼女は騙されてたことになる。頭がこんがらがってきた。スマホケースは粉々になったので、「八つ当たりしてごめんね」と泣きながら謝って新幹線のゴミ箱に捨てた……。
ちょうどお昼休みが終わる頃、東京駅についた私は、杉岡さんに電話した。
「お疲れ様です。お忙しいところすみません」
『忙しい。俺に何の用だ』
物凄く不機嫌そうな声が聞こえてくる。
「橘部長はご一緒ですか?」
『いや、部長はもう重役会だ。俺は同席出来ない会議だから秘書室にいる』
「では、少しお話出来ませんか?」
『断わる。何で俺が君と話をしなくちゃならないんだ』
「私、橘部長と別れます」
杉岡さんが沈黙して、大きなため息をついて言った。
『話を聞く必要がありそうだな』
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