わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

54. 橘部長は温まる


 二人で全力疾走したみたいに疲れて、そのままの姿勢で呼吸を整えていた。腰が痛い。
 全身から力が抜けた。

 しばらくして体を離して宮燈さんが横になる。私はちょっとだけ体をずらして二人で寝られるようにした。腰が痛い。狭いから宮燈さんの腕に自分の半身をのせる。宮燈さんはずっと私の髪を撫でていたけど、賢者タイムなのか、会った時よりは冷静な気がする。この人は、ヤらないと落ち着かないらしい。なんてダメな大人なんだろうか。もう少し自制心を持って頂きたい。腰が痛いんだってば。

「体は温まりました?」

 私がそう聞くと、宮燈さんは無表情のまま「熱くなった」と言った。さっきまで冷たかった頬に触れたら、確かに温かくなっていたから「良かったです」と笑った。

 私は毛布を奪ってくるまって、ベッドからおりて、用意していたプレゼントを差し出した。宮燈さんが上半身を起こして、両手で受け取ってくれる。
 中身を取り出して、箱を開けてもやっぱり無表情だった。気に入ってくれたかな?と心配だったけど、ちょっとうれしそうだったから、大丈夫かな。

「ありがとう。私は何もなくてすまない……」
「宮燈さんが来てくれたのが、一番のプレゼントです!」

 私が笑ってそう言って抱きついたから、ますます照れている。可愛いからもっと動揺させてやろうと思って、私から軽くキスをした。

「あのーうれしいときは笑ってもいいんですよ?」
「そうか……そうだな」

 宮燈さんが少しだけ笑う。一瞬だったけど綺麗だった。
 今まで痩せていたから自分でも気づいてなかったけど、私はわりと胸が大きい。おっぱいがぽよぽよとわざと当たるように抱き締めていると、宮燈さんが言った。

「桜……頼みがある」
「はい!何ですか?」

 私は「もう一回」と頼まれるのかなとワクワクした。けれど、宮燈さんは性欲より他の欲を優先した。

「やっぱりスープか何か、食べ物をくれないだろうか……何も食べていなかったのを思い出した」
「え?いつから食べてないんですか?」
「昨日の夕飯以来、食べていない」
「ええ!?すぐ作りますよ。冷凍してるのがあるから温めます。ケーキもあるから食べましょう!」

 朝からご親戚の事でバタバタしてたんだろうな。すぐそこのキッチンへ立つ。コンロが一口しかないから、冷凍のスープをお鍋で解凍して、ご飯を電子レンジで温めた。ただのコンソメスープだし、料亭の味には敵わないだろうけど。
 キャベツを刻んで入れようかなと冷蔵庫を覗いてると、急にひょいと抱えられた。とっさに冷蔵庫の扉を閉める。宮燈さんが私をベッドに放り出した。

 私が「あ、火、つけっぱなし」と呟くと宮燈さんが火を消しに行き、戻るなり言った。

「そんな格好で料理するとか誘ってるとしか思えない」
「えええ?言いがかりです!」
「せめて何か着ろ……」
「それは確かに!うひゃあ!」

 うつ伏せにされて、背中に触れられて、くすぐったくて叫んだ。
 他人なのに、誰かとぴったりくっついて一緒にいることが、こんなにうれしくて幸せだなんて知らなかった。
 多分、人生の中で一番幸せだった。夢みたいだった。



 だから、年が明けて、宮燈さんが他の女といる場面を目の当たりにして、私は「ああ、夢オチかあ。幸せだったのは夢で、これから目が覚めるんだろうなあ」と思っていた。



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