わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
50. 橘部長と会えない日_1
【冬】
十二月になると、京都の街もイルミネーションに彩られる。私はこれまで、特にクリスマスに思い入れがなかった。むしろ、目をそらしてきた。
なぜなら、貧乏な我が家にはサンタクロースは来てくれなかったから。
子供らしくおねだりもしたが、物心がつくと願うこともやめた。いい子にしていても、お金が無いとサンタさんは来てくれないのだ。
でもプレゼントは無くても、その日だけは、鶏胸肉(100g38円)じゃなくて、鶏モモ肉(100g89円)の唐揚げだったのは覚えている。母の作る料理は美味しかった。多分、今でもそうだろうと思う。
だから、宮燈さんに「母が桜を夕飯に招待したいらしいから、クリスマスイブは私の実家に一緒に行かないか?」と言われて私はとても嬉しかった。俗っぽいなと思うが仕方ない。何だか浮かれてしまう。
ゼミの先輩達からは「浮ついてる暇があったら論文を詰めろ」と言われていたけど、一日くらいはいいよね。附論はまだだけど、本論は出来てるし。
どんな服を着ようかな。可愛い系かな。私も何かプレゼントを用意しなくちゃと思い、自転車に乗ってあちこち見て回った。クリスマスの時期に浮かれるなんて初めてで、恥ずかしい。
悩んで悩んで、お父様とお母様にはハンカチを贈ることにした。何故なら、頑張っていいものを贈ると、倍以上のお返しがくるから……。八月のお母様のお誕生日にそれを痛感している。
宮燈さんはスーツから小物に至るまで、見るからに高そうな良い物を使ってるから、私のお小遣いで買える程度の物はいらないだろうなと思ったけど、普段使いして欲しいから螺鈿細工のネクタイピンを贈ることにした。気に入ってもらえるといいなとドキドキした。
こんな気持ちは初めてだった。実家にもケーキが届くように手配しようかなと、母に相談したらとても喜んでくれた。弟妹がうれしそうに食べる姿が目に浮かぶ。
そんなこんなで浮かれた半月を過ごして、当日を迎えた。
でも、早朝に宮燈さんから電話があり、「急用で京都に行けなくなった」と言われてしまった。
「お仕事でトラブルですか?」
そう質問したが、何も答えてくれなかった。言えない事なのかなと思って追及はしなかった。私ひとりがお母様の所へ行くのってどうなんだろう?と思っていると、今度はお母様から電話が掛かってきた。
『親戚が倒れてしもうて、危ないらしいの。そやから、東京に行ってくるわ』
「あ……ご親戚って東京なんですね。さっき宮燈さんも京都に行けないからって連絡が」
『あらーあの子、真っ先に桜ちゃんに連絡したんやねえ……愛やねえ。戻ってきたら改めてご馳走するさかいに、堪忍な』
「いえ、ご連絡ありがとうございます」
電話を切ったら、殊更に部屋の中がしんとする。
楽しいはずのクリスマスイブ、私は急に独りになってしまった。
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