わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
23. 橘部長と再び約束する_1
土日の私のスケジュールは、大抵の場合、朝から晩までアルバイトで埋まっている。
昼休憩が、たまたま他大学二年生の佐藤夏海ちゃんと一緒だった。なっちゃんは今日も可愛いから、私は「いつもどこで服買ってるの?」と聞いてみた。なっちゃんが大きな目をキラキラさせて言った。
「どないしたんですか、桜さん! 彼氏が出来たんです? まさか塩見さんちゃいますよね?! あの人はあかんよ!」
「……なんで塩見さん?」
「えー、どう見ても塩見さんって桜さんを気に入ってますやん。でも、ほんまにあかんよ。金が無うなると、すぐ女に貢がせてるクズやさかい」
「うわあ。心の底から遠慮しとく」
なっちゃんから御幸町通りのセレクトショップを何軒か教えてもらい、夜のバイトまでの時間で行ってみようかなと思っていた。
昼は回転寿司屋でくるくる働き、夕方は病院の調理場で皿洗いをし、夜は閉店後のスーパーの清掃をして、清掃会社の社長にごはんを食べさせてもらって帰るのが日常だった。社長は若い頃に自分が苦労したから、と貧乏な私にいつもご飯を奢ってくれる。時間がない時はお弁当を買ってくれる。本当に私は、恩返ししなきゃいけない人がたくさんいる。
くったくたになった午後11時過ぎ、私のスマホが振動した。仕事が終わったタイミングだったから、完全に把握されてるなと思った。
『夜分にすまない』
「橘部長! うちの鍵返してください!」
『……いやだ』
「また、そういう子供みたいな事を……」
『明日は時間とれないか?』
「……明日は夜シフトなので、昼間は空いています……と言うか、多分わかった上で電話してますね?」
プチストーカーから、ストーカーに格上げした方がいいかもしれない。いや、格下げか。
相談したいことがあるからと言われ、ランチを一緒に食べることになった。
橘部長が東京に戻る前に、多分一度連絡してくるだろうとは思っていた。
「ふふふ、お前の行動は予測済みだ! 橘宮燈! 今日買った服着て『可愛い』って言わせてやるからな!」
そう意気込んだが、そういえば橘部長は「そのままでも可愛い」と言ってくれてたんだった。あらやだ空回り。
でもいい。お洒落は自己満足だ。
翌日、私は、襟に花の刺繍が可愛いふんわりトップスに、これまたふわふわのチュールスカートという甘々ガーリーな格好をしてみた。髪も頑張って、ゆるふわに巻いてみたりした。アルバイト先が飲食店なので、禁止されてるから爪には何も塗れない。だから、ぴかぴかに磨いておいた。
やらかした感があって、何か恥ずかしい。
迎えの車に乗って、丹波口近くのお店へ行く。個室へ案内されるとすでに橘部長がいた。私を見たとたん、橘部長が無表情のまま「今日は、特に、可愛い……」と呟いた。
よし、勝った!
でも同時に私は負けてしまった!!
前髪をおろして、丸襟の白シャツに黒いジャケットを羽織っただけの橘部長がかっこよすぎて眩暈がした。いつもスーツだし、クールビズでもネクタイをしてるから、こんなにラフな格好は初めて見る。
「まままま前髪、反則ーー!!」
「……? 何に対して反則なんだ?」
「とにかく反則です。カッコイイ……」
言われ慣れているのか、橘部長は特に何の反応も示さなかった。容姿の良い人って言われ過ぎると「褒められるのは顔だけか」と嫌になるらしいので、もしかしたら橘部長もそうなのかもしれない。でも、正面に座ると美しすぎて直視出来ない。ほんの少し斜めに座った私を、橘部長は不思議そうに見ていた。
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