わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

11. 橘部長と約束する_3


 食器を片付けた後、橘部長が電話をしはじめて、私は淹れてもらった緑茶を飲みながらぼんやり聞いていた。てっきり静岡か京都のお茶だと思ってたら、佐賀県の嬉野茶だった。そこは予想を裏切られた。橘部長はやっぱり面白いから目が離せない。


「おはよう、高橋。すまないが父に繋いでくれ」
 ほうほう、お父さんにお電話ですか。

「おはようございます。忙しいところ、すみません。ご報告したくお電話しました」
 他人行儀な父子だなぁ。

「はい、手短に。私は結婚しようと思います。名前は清川桜。京都大学文学部に在籍しております。……はい、卒業生ではなく、在籍している学生です。いえ、成人して21歳で……はい。ああ、そうですね、15歳年下ですね。今日? わかりました。連れていきます」
 ……え、今日? 本気?

「はい、では社長室へ直接出向きます」
 社長室……?

「え、しゃちょー?」

 電話を切った橘部長が私に問う。

「……自分が内々定をもらった会社の社長の名前は?」

「橘義仁よしひと社長……」

 あらやだ。うっかり。

「君は黙ってると賢そうに見えるが、かなり間が抜けてるな。初めて会った時も杉岡に怒られていたし」
「慌て者だと、よく言われます」

 私はまたアハハと笑っていたが、橘部長は無表情だった。




 社長室で、橘部長の父である橘社長にご挨拶した。
 公式サイトの写真通り、橘部長とは全然似ていない。血縁がないのかな、と思うくらい共通点がなかった。それもあって親子だなんて連想してなかった。

 白髪混じりの短髪で、太い眉に真ん丸い目が可愛い。ごつめの顎に太い首。ギョーザ耳だったから、柔道経験者なんだろう。

 時間が無いらしく、簡単な顔合わせのような感じで話をする事になった。橘社長はデスクに座ったまま。その前に私と橘部長が立っていて、まるで仕事の報告をしてるみたいだった。


「どうしてこのタイミングなんだ?」

 当たり前の疑問を橘社長が橘部長へ問う。
 寝ましたとは言えないよなぁと思っていたら、橘部長は淀みなく答えた。

「結婚を前提に、私の家で共に過ごしました」

 全世界がしんと静まった気がした。
 前室に続くドアは開いているから、そこに控えている杉岡さんにも、社長秘書の森谷さんにも聞こえただろう。「あー! 杉岡さん! 気を確かに」と森谷さんの小さいが慌てた声がした。
 私は恥ずかしくて頭がくらくらして震えていた。


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