わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

ゆきづき花

03. 橘部長にひっかかる_3


 束ねた髪がスーツのボタンに引っ掛かってしまったらしい。
 なんて忌まわしい私の低身長!

 電車でも存在を無視されるくらいに押された。見えなかったんだろう。見えないふりだったかもしれない。そういえば隣のおじさんは私の頭の上にスマホを置いていた。今もこの部長さんとやらの背が高いせいで、私の頭はジャケットのボタンあたり。私に平均的な身長があればこうはならなかったのにー!

 何故か絡まってどうしても髪がとれず「切るしかないな」と言われ上階に連れていかれた。

 いや、あのー……12階でこれから人事部長との面談なんですよね、私。ヤマ場の四
次面接なわけです。
なのに時間ギリギリ。
 やべっ。まじやべっ。と思いつつ、離れると髪を引っ張られて痛いので、その部長さんにくっついてエレベーターを降りた。
 私の肩を左手で抱いて、背後から右手を伸ばして部長さんが壁に社員証をかざすと、横のドアが音もなくスライドした。

 フロアがざわっとしたのを感じた。

 どう見てもリクルートスーツの私が、オフィスフロアに来たから? それとも注目を浴びてるのは部長さんのせい?

 スギオカさんが、手前のデスクにいた女子社員さんに事情を話したようで、その方が鋏を貸してくれ、髪を切られて私は解放された。

「女の子の髪を切ってしまって申し訳なかった。私のボタンを切るべきだったが、これからすぐ大切な仕事がある為、身形を乱すわけにはいかないので」
「とんでもないです。髪はまたのびますし。こちらこそ、すみませんでした」

 スギオカさんが「部長、もう時間です」と急かす。

「お詫びをしたい」

 無表情のまま部長さんが言うが、そんなことより私も急いでいた。

「結構です。ありがとうございました」

 面談の時間が迫っているから、さっさと解放されたい。無表情だった部長さんが、一瞬何かを言いたげな顔をした気がしたが、頭を下げてフロアを出た。
そして、ギリギリの時間に待合いに行き、採用担当の林さんから「清川さん、遅いです。10分前には必ず来てくださいね」と言われて、「申し訳ありません」と謝りながら、(もうだめだ減点減点、落ちた落ちた)と自虐していた。

 私の番が来て、ノックを三回してから扉を開くと、面談場所にいたのはさっきまで一緒にいた綺麗な顔の人。「部長さん」は、私を見ても特に表情を変えたりしなかった。

「人事部長の橘です」

「あー……」

 ハイ! 落ちたー! 決定的ー!
 そう思った……。



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