ゴット・オブ・ロゴス

神港 零

模擬戦

決闘場に着いた俺は愛刀の天叢雲剣あめのむらくものつるぎを構え、彼女と対峙たいじしていた。
「先手はどうします?」
「先手は君に譲るよ。言うほど強いか、見たいし」
「大丈夫ですか?負けちゃいますよ」
「心配しなくていいよ。負けないから」
俺のその言葉が気に食わなかったのか、一瞬、顔をしかめて怒りの表情を見せたがすぐに平然をよそおう。
「じゃあ、お言葉には甘えて。行くよ、ウラニア」

神憑かみがかり』

彼女は神力を纏い、一直線に攻撃してくる。
小細工なしのその攻撃を俺は軽い足取りで避ける。
「早くあなたも『神憑り』を使ってください!」
「いや、使わないよ。後輩相手に使うのは大人気おとなげないだろ 」
「なんですって…………もしかして貴方、私を舐めてる?」
「そういう訳では無いが……………あっ、ついでに神術も、権能も、使わない方がいいハンデかな?」
俺がこんな事を呟くと彼女は怒りの表情を露わにして俺に斬りかかってきた。
それをまた避ける。
「避けてばっかりで良くハンデって言えましたね」
「そうだね。もうそろそろこっちから攻撃しようかな」
余裕の笑みを浮かべた俺は彼女にゼロ距離まで近づき、攻撃した。

『我流 八咫烏やたがらす

無数の斬撃を繰り出し、彼女がどう対処するか、観察することにした。
すると、彼女は全て受け流し、俺に反撃をしようとする。左に重心を傾けてそれを避ける。
しかし、その行動を読んでいたような俺に蹴りを入れる。かさず受け身を取る。
「口程にもないですね」
「蹴りが決まったぐらいで調子に乗らない方がいいと思うよ……………でも、君はいい目をしている」
微笑んで、刀を構える。
もう少し本気を出してみるか。
俺は間合いを詰め、一太刀浴びせる。
「ちょっ」
それを彼女はギリギリのところで避ける。俺はそんな彼女に追撃を浴びせた。彼女は体勢を崩しながら俺の攻撃を受け流す。
「さっきみたく反撃しないの?」
「今、その口を聞けないようにします」
(と、言ったものの正直防戦一方になっているのが現状だ。この人の斬撃はどんどん鋭く速くなっていつ護りを突破されるかと分かったものじゃない。もうそろそろ本気を出さないとやばい)
当初、自分の方が強いと思っていたがこの数分でそんな甘い考えがなくなった。

『権能:予知』

紅葉は自分の『権能:予知』を使い、匠の斬撃を全て読み、かわし、後退した。
「あなた、なかなかやりますね」
「それはどうも。君だってその権能は強すぎと思うよ」
彼女の権能は相手の行動を先読みする事が出来る物と確信した。その根拠は至ってシンプルだ。いきなり俺がどの角度から攻撃を仕掛けてくるか、全て分かったよう対処したからだ。この微妙な違和感を感じられたのは観察眼が優れているからだろう。
「それは褒め言葉として受け取ります。そういえば名前を聞いていませんでした。私の名前は西条さいじょつ紅葉もみじです。あなたは?」
「…………………西条?もしかしてこの子は…」
俺は西条という苗字に少し引っ掛かりを覚えたが、今は模擬戦の最中。頭から余計なことを振り払った。
「名乗るほどでもないが……………神楽坂かぐらざかたくみだ」
「じゃあ、神楽坂さん、あなたは強いです。ですが、私が勝ちます」
「俺は勝ち負けとかはどうでもいいだけどね。まぁ、やれって言われたからには勝ちを目指すけど」
俺たちは少し距離を取って相手の出方を伺う。
すると、紅葉が手元に水玉状の物を出現させて、俺に打ってくる。
『水術    鉄砲水てっぽうみず
俺はそれを斬る。その時、水が霧状になり、周りが見えずらくなる。
「隙あり」
後ろから紅葉が一太刀を食らわせようとしている。俺は刀身が近づいてくるのを感じ、それを受け流す。
「やっぱりだめか」
紅葉は小さく呟くと匠と距離を取る。
「神楽坂さん、あなたに勝てるイメージが見えなくなりましたよ」
「そんな事を言う割には笑っているように見えるが?」
「こんなに強い相手と戦えるなんてうれしいじゃないですか」
「どこの戦闘狂だよ」
俺はその言葉を聞いて、ため息を吐いた。
「行くよ」
短く一言を放ち、地面を蹴り、ゼロ距離まで紅葉に近づく。
直心影流じきしんかげりゅう 八相発破はっそうはっぱ』 
この流派は春夏秋冬になぞらえた「法定ほうじょう」という四つの形によって呼吸を鍛え、気を練ることを主眼としている。
ちなみにこの『八相発破』は春の気を表す技だ。
「今のをよく受け止められたね」
「未来予知を使える私に取っては予知できない攻撃をしてきた時点で脅威なんですが」
(今の技は何?何か無数の刃があらゆる方向から私に向かってくるイメージが見えた。ギリギリ本命を見破って、受け止めたけど次はどうなるか、分からない…………………この人、本当に人間?権能も神術すら使ってないのに一つ一つの斬撃が力強い。『神憑り』を使っている私と互角………いや、それ以上だ。この人は一切本気出していないどころか、遊んでいる。本当にこの人は何者なの?)
私は彼の動きから法則性がないかと、見ていたがすべての動きが最低限の攻撃かつ無駄な動きがなかった。
ここで勝たなければ実力は認められない。
同世代の子達は相手にならなかったけど神楽坂匠は私と同じぐらいの年に見えて、恐らくはかなりの場数を踏んで強くなったんだろう。私もここまで…………これ以上に強くなれるだろうか。分からない、勝てる未来が見えない。
「(諦めるなんて紅葉らしくない)」
その言葉を投げかけたのは私の契約神のウラニアだった。
「(でも、ウラニア。これは負け戦だよ)」
「(負け戦でもなんでも最後まで全力でやる)」
私はその言葉を聞いて、ハッとなる。
数秒、目を瞑り、顔を叩いた。
(そうだね。負け戦でも全力でやらないと神楽坂さんに失礼だよね)
勝つためにはあれを使うしかない。
今は、神楽坂さんの攻撃を受け止めている体勢だ。彼の間合いに入っていればさすがにこの技を避けられないだろう。
「神楽坂さん、これで最後です」
「何をするのかな!?」
俺は思わず驚愕の声を漏らす。
紅葉はそんなことをお構い無しにある技を発動する。

『水術   奥義    水龍爆発すいりゅうばくはつ

これは大気中や身体の中の水分を一つに集め、凝縮した物を一気に爆発させる捨て身の技だ。
俺は紅葉の意図を悟り、この技を止めにかかる。
(この子、俺を倒すために命をかけてきている)
俺は刀に神力を込めて、彼女を斬った。
『風術  風雅ふうが
すると、紅葉は気絶し、倒れる。
こうして匠と紅葉の模擬戦は幕を閉じた。

コメント

コメントを書く

「学園」の人気作品

書籍化作品