ゴット・オブ・ロゴス

神港 零

ショッピングモール ③


「ありがとう!おかげで助かったわ」
「いえいえ。お役に立てたなら良かったです」
休憩の後はなぜか撮影が再開することはなかった。
それどころか、薫さんは嬉し顔で俺たちに労りの言葉をかけてくれた。
まぁ、その道のプロがいいって言うのなら、俺が口を出す問題じゃないけどさ……………。
ただ、どの写真が使うんだろうな?見てない分からない。
それよりも服を買わないと!
いい服があればいいんだけど……………。
そんな事を考えていると、突然薫さんは大きな紙袋を俺に渡してきた。
「はい、コレ!」
「え?な、なんですか?コレ………」
中身を見ると、そこには大量な服が入っていた。
「本当はお金を渡したいんだけど、素人さんだから事務所的にも厳しんだよね。だから、服がお礼!あなたに服のサイズに合わせてあるから安心していいよ。貴方に似合いそうな服を厳選しているから」
「ええっ、そんな悪いですよ。自分的にもいい経験ですし」
「いいから受け取りなさい。働いた人には何かしらの報酬が発生するのよ。これは社会の常識よ?」
「はぁ…………それなら………その……ありがとございます」
俺がお礼を言うと、薫さんは笑顔で頷いた。
いい人だな。
薫さんに対してそう思っていると、紗夜さんが話しかけてきた。
「匠さん、今日はありがとうございました」
「いえ、こちらの方こそ!貴重な体験をありがとうございました。真剣に働くその道のプロの人とこうしてご一緒できて、自分のこれからの何かの糧になると思います」
紗夜さんは一瞬、驚いた様子を見せたがすぐに笑顔になった。
「それはよかったです。もしまた、何かの機会でお会いすることがありましたら、そのときはよろしくお願いします」
「はい!俺も、紗夜さんの活躍をお祈り致します」
和やかな雰囲気のまま、この場をあとにしようとしたときだった。
「チーッス。遅れましたー」
一人のカッコイイ男性が、俺たちのもとへ歩いてきた。
ワックスでセットした金髪に耳にはピアスを付けている。
服もセンス良く着こなしており、何となく雰囲気は紗夜さんに近いものを感じた。
だが、それと同時に紗夜さんとは異なる部分も感じ、それが俺には分からなかった。
誰だか分からず呆然と立ち尽くしているとさっきまで笑顔だったはずの薫さんの額に青筋が浮かんでいた。
「このクソガキ………!」
あっ、口調が荒っぽくなっている。
それよりもこの男性は一体?
「あの…………紗夜さん。あちらの男性は?」
「えっと………今日、本当なら私と一緒に撮影するはずだった、男性モデルの方です」
紗夜さんの説明を受けて俺は納得した。
何となく紗夜さん似ても似つかない雰囲気を感じるなぁっと思っていたら男性モデルだったか。
一人で納得しているとその男性は紗夜さんの存在に気づき、ニヤニヤしながら近づいてきた。
「紗夜ちゃーん。今日は俺と撮影だねぇ〜。どう?俺と撮影出来て嬉しいでしょ?」
「えっと」
「ま、こんな撮影さっさと終わらせて、一緒に美味しい物でも食べに行こうよ」
なんか男性が紗夜さんの肩に手を回すと、紗夜さんは困惑してどうしたらいいか分からないって感じの表情を浮かべた。
「ねぇねぇ、いいじゃーん」
『もう我慢ならぬ。主殿、ちょっと身体借りるぞ』
「えっ」
俺は少し驚きの声をあげた瞬間、俺の身体は脱力してスサノオと入れ替わる。
「おい」
「あ?」
俺(スサノオ)が声をかけると、男性は面倒くさそうに俺(スサノオ)の方を見た。
「お前誰?つか、話しかけてくんな。失せろ」
すると、俺(スサノオ)は紗夜さんの方に視線をやり、男性に言った。
「そのこむ……紗夜さんが困っているから、離れた方がいいんじゃないか?」
「匠さん!」
「…………は?」
紗夜さんは少し焦った様子で俺の名前を呼び、男性は俺(スサノオ)にガンを飛ばしてくる。
男性は紗夜さんの肩から手を話すと、俺(スサノオ)に近づいてきた。
「お前、口を聞いてんだ?」
「誰ってお主………お前以外居ないだろう」
スサノオ………俺の口調に合わせようとしてくれるのは嬉しいけど自分の口調が出かけているからね。
さっきも紗夜さんの事を小娘って言おうとしたでしょ。
俺(スサノオ)の態度が気に入らないのか、男性はさらに激しく睨みつけてきた。
「どうやら口で言ってわからねぇみてぇだな………」
なんだか剣呑な雰囲気になって男性は突然殴りかかってきた。
「その態度がむかつくんだよ………!」
「匠さん!?」
急に殴りかかられる俺(スサノオ)だったが、殴られて喜ぶ趣味は俺にも、スサノオにもない。
俺の顔面めがけて飛んで来た拳を右手で受け止めると、そのまま男性の腕をねじるようにして背中に持っていき、その場に組み伏せた。
「がっ!?」
「す、すごい………」
俺(スサノオ)はある程度襲いかかってくる事も想定していたが、本当にするとは思っていなかった。
『この後、面倒くさくなりそうだから主殿に身体返すぞ』
『えっ、ちょっと』
また俺とスサノオは入れ替わった。
少し勝手なところもあるがこれもスサノオの魅力だろう。
「お、俺はボクシングをやってたんだぞ!?それがどうしてこんなにあっさりと……」
いや、そんなことも言われても俺がやった訳じゃないんだが。
そもそも、ボクシングやってたかどうかなんてパンチ見ても分からない。だって悪魔たちの方が早いだもん。
ただ、紗夜さんが焦っていたのは、男性がボクシングをやっていた事を知っていたからなのかな?とはいえ、それを強調してくるあたり、力で何でも解決してきたのかなぁ。
なんだかげんなりした気分でいると、薫さんが男性の下にしゃがみ込んで、すごくいい笑顔で言い放った。
「暴力を振るうなんて、貴方の芸能界暮らしは終わりね?芸能人ではなくても普通に犯罪よ?残念だったね………」
「な!?し、証拠がねぇじゃねぇか!現に組み伏せられてるのは俺だぞ!?」
いや、周りの人がこんなに証言者がいるのに言い逃れ出来ないと思うのだが…………。
まぁ、それでも決定的証拠にはならないけど。
しかし、俺の心配は必要なかった。
薫さんが悪魔のような笑みを浮かべ、手元のカメラを男性に見せつける。
「さっきまでの一部始終、録画させてもらったから」
「く、クソがああああああああっ!」
さすが薫さん。抜け目ない………。
男性は録画されてた事を知り、すぐに抵抗するのを辞め、最後はスタッフに連行された。
「まったく……最後の最後でこんな嫌な思いをするとは思わなかったわ!でも……匠くんはすごい強いのね?。アイツ、ああ見えてボクシングでいい成績を残してたみたいだけど………」
「た、たまたまですよ!」
それにあの男性を拘束したのはスサノオだし。俺だったらあんなスマートに拘束は出来なかったと思う。
スサノオの護身術があってこその物だと思う。
それはともかく、俺は紗夜さんに声をかけた。
「あの………大丈夫でした?」 
「え?あ…………その………ありがとうございました!」 
紗夜さんは俺に声をかけられたことで少し驚いた後、ほんのりの頬を赤く染めて勢いよく頭を下げてきた。
「気にしないでください」
「いえ……最近、あの人には何かとしつこく付きまとわれていたので助かりました!」
え、あの人もしかしてストーカー紛いな行為をしてたの?
「なんだかいろいろと変な事はありましたが、改めて…今日はありがとうございました。またどこかで会えるといいですね」
「はい。匠さん、本当にありがとうございました」
「ちょっと待って匠くん。そういえば匠くんの苗字ってなんだっけ?」
「神楽坂ですがそれがどうかしましたか?」
少し薫さんは考える素振りを見せたがすぐに笑顔になった。
「いや、なんでもないよ。今日はありがとね!」
「はい。こちらこそありがとうごさいました。」
俺はその場を後にする。
「神楽坂ねぇ…………まさかあの会社の御曹司じゃないわよね………。一応、社長に報告しておきますか」
薫は少し面倒くさそうにある人に電話をかけるのだった。

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