家庭訪問は恋のはじまり【完】

くっきぃ♪コミカライズ配信中

第93話 瀬崎幸人編 出会い

俺は、大学を卒業と同時に父の会社に入社した。

いわゆる、三文小説で見るような役職付きのエリート入社ではなく、現場からの叩き上げ。

最初の配属は店舗の厨房だった。

俺の専攻は経営学だったから、厨房で出来る事なんて何もない。

父の指示で、俺は、社長の息子だという事は隠して、偶然同じ苗字だと周りの同期や同僚には話していた。

だから、厨房では、遠慮なくしごかれた。

皿洗いだけで、腕が上がらないほどパンパンになったし、洗剤で手は荒れ放題だった。

だから、数年後、俺が経営に参画するようになった時には、食洗機を導入し、食器もそれまでの食洗機非対応の高級品ではなく、高級に見える食洗機対応の物に変えた。

慣れてくると、まかないを作らせてもらえるようになった。

だけど、厨房に配属されてるのは、大抵、調理師や栄養士の資格を持った奴ばかりで、ずぶの素人は俺だけだった。

だから俺は、専門学校卒で1つ年下だけど1年先輩の酒井さんについてもらって、料理のいろはを教わった。

休みの日には、家で家事をしてくれている美恵さんに料理を習う。

そうして、下働きをしながら、徐々に料理も覚えていった。


厨房を1年務めると、今度はホールも兼務する事になった。

そんな時、ホールスタッフに18歳の女の子が入ってきた。

かわいい…

俺はホールの仕事を彼女に教えるが、正直、困った。

彼女は1度に複数の指示を与えると、大抵、どれかを忘れて失敗する。

それは接客でも同じで、オーダーを取りに行く途中で別の客に呼び止められると、本来行くべき客の所へ行くのを忘れたりする。

だから、俺は彼女が気になって仕方がなかった。

彼女の失敗は、Accueilアクィーユの失敗となるのだから。

俺は勤務して3年目の春、24歳の時、店長に抜擢された。

従業員は、ほとんどが俺より年上。

こんな若造になんで指示されなきゃいけないのか、納得がいかない者も多かった。

だから、俺が指示しても動かない者もいる中、彼女だけは、素直に俺の言う事を聞いてくれた。

だから俺は、勤務時間外でも彼女と過ごす事が多くなった。

食事に行ったり、飲みに行ったり…

俺は25歳になったある日、飲んだ帰り、酩酊状態の彼女を家に送って行き、ふらつく彼女を支えて、彼女の1Kの部屋に初めて入った。

彼女をベッドに座らせ、帰ろうとすると、腕を引かれた。

何事かと振り返ると、彼女が立ち上がり、首に腕を回して抱きついてきた。

「店長、好きです」

俺はそう言われて、舞い上がった。

俺も多少酔っていたんだろう。

そのまま、彼女の求めるままに関係を結んでしまった。


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