家庭訪問は恋のはじまり【完】

くっきぃ♪コミカライズ配信中

第91話 木村武編 再び……

俺は、別にその後も神山に固執してた訳じゃない。

だけど、誰を紹介されても、誰と出会っても、あの真っ直ぐで一生懸命な神山と比べてしまう。


仕事にかまけて、そんな不毛な日々を送り5年が経った頃、俺は近くの小学校への異動が決まった。

小学校でも、英語教育が始まるため、英語教師が何人か小学校へ回される中の1人だった。

で、異動してみて、驚いた。

あの、神山夕凪がそこにいた。

やっぱり、あの頃のまま、真っ直ぐ一生懸命、子供と向き合っていた。

俺は、案の定、気付けば彼女を目で追っている。

ああ、俺は今でも、彼女が好きなんだ。

異動して早々に自分の気持ちに気付いたが、思えばもう8年程、恋人はいない。

こんなおじさんになって、何をどうすればいいのか分からず、戸惑ったまま1年が過ぎた。

そして、今年、同じ1年生の担任になった。

これは、運命かもしれない。



なのに…

彼女の運命の人は他にいた。

なんでだ?

絶対、俺の方がいいのに、なんで奴を選ぶんだ?

訳が分からない。



だけど…

彼女が奴を選んだんだから、しょうがない。

俺は、彼女の幸せのために出来ることをしよう。



4月、彼女は別の小学校へ異動した。

これで、条件は整った。

きっと彼女の想いは成就するだろう。



4月末、俺は廊下ですれ違った瀬崎嘉人を呼び止めた。

「嘉人さん、お父さん、結婚するんだって?」

カマをかけてみた。

「えっ!?  武先生、なんで知ってるの?」

さすが小学2年生、すぐにボロを出す。

「先生は、夕凪先生と仲良しだからな。
 先生、日にちを忘れたんだけど、何月何日に結婚するか、嘉人さんは覚えてるか?」

「うんとね、日にちは覚えてないけど、6月だよ」

6月!
それはまた、早いな。

急いで動かないと。


俺は、校長に掛け合った。

「夕凪先生が6月に結婚するんですが、お相手の了承を得られたら、元1年1組の子供たちで歌のプレゼントをサプライズでさせてもいいでしょうか」

「それはおめでとうございます。
 木村先生、神山先生とお幸せに」

「あ、いえ、違うんです。
 夕凪先生は、俺ではない人と結婚するんです」

校長は、あの時の言い訳をまだ信じてたのか。

「あ、それは……
 でも、それなら、神山先生の、今、担任してる児童がするんじゃないですか?」

校長の言う事はもっともだ。

「ですが、ここだけの話、お相手は瀬崎嘉人の父親です。
 瀬崎嘉人と一緒に歌わせたら、夕凪先生、喜ぶと思うんですが……」

「それは……
 却って、よくない噂を広める事になりませんか?
 同じクラスには、御岳真奈もいるでしょう?」

「そこは、希望者だけにしますし、何より、後から憶測で変な噂が広まるより、ちゃんと担任を外れてから付き合って結婚するんだという事を保護者に説明するいい機会だと思うんですが……」

俺の説得に、校長も最後は了承してくれた。

俺は、児童名簿から瀬崎嘉人の父親に連絡をする。

父親は、初め、俺からの電話に警戒感満載で応対したが、説明をすると、すんなり、というか、喜んで了承した。


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