家庭訪問は恋のはじまり【完】

くっきぃ♪コミカライズ配信中

第80話 義母

「あなたが転勤するって学校で聞いてきた日、本当に大変だったんですよ。
 泣くし、暴れるし、叫ぶし。
 だから、嘉人の心をこんなに掴んだあなたに、本当に会ってみたかったの」

お義母さんが、優しく微笑んでくださる。

「恐縮です」

「だから!」

ん?  何?
それまでの優しい口調とは打って変わって、お義母さんが言葉に力を入れる。

「絶対に嘉人から離れないでくださいね。
 これの母親が出ていっても、嘉人は平気でしたけど、あなたが出て行ったら、嘉人はきっと壊れてしまうでしょうから」

「はい」

私は、瀬崎さんの奥さんである前に、嘉人くんのお母さんなんだ。

「一応、確認しておくけど、この先、自分の子ができても、分け隔てなく嘉人の事もかわいがってくださるわよね?」

お義母さんの物腰は柔らかいけれど、もう笑ってはいない。

「もちろんです。」

私が答えると、瀬崎さんが加勢をしてくれる。

「当たり前だろ。
 夕凪は、他の子と分け隔てなく嘉人に接してくれた初めての先生だぞ。
 これだけ嘉人が懐いてるのを見れば分かるだろ」

嬉しい。
瀬崎さんにこんな風に信頼されて、ご両親に断言してもらえるなんて。

「それは知ってるわ。
 よしくんがいつも話してくれるもの。
 でもね、他人の子を分け隔てなく扱うのと、自分の子も他人の子も別け隔てなく扱うのは違うのよ。
 幸人ゆきひとだって、それは分かるでしょ?」

それは、そうなのかもしれない。

「あの……
 私は自分の子を産んだ事がありませんし、簡単にできますとは言えませんけど、それでも、私は、嘉人くんも自分の子も同じように可愛がり、同じように叱りたいと思ってます。
 今は、信じてくださいとしか言えませんが」

私の言葉を聞いて、お義母さんはホッとしたように微笑んだ。

「そう、ちゃんと叱ってくれるのね。
 じゃあ、夕凪さん、これから嘉人をお願いね」

これって、認めてもらえたって事?

「はい!」

そこへ、タイミングを見計らったかのように、美恵さんがお茶を持ってきてくれた。

「奥様、お茶はどちらに置きましょう?」

確かにここでは、パズルが邪魔で、お茶を置けない。

「そうね。
 美恵さん、客間の方に運んでいただける?」

「かしこまりました」

そう言って美恵さんは客間に案内してくれた。

そこは意外にも洋室だった。

まだ文化財に指定されるずっと前、明治の頃に改築されたらしい。

パリポリとお菓子を頬張る嘉人くんをよそに、大人の会話は続く。

家族構成や両親の仕事、私の仕事、今後の事。

瀬崎さんがもし東京に行く事になれば、Accueilアクィーユは妹さん夫婦が継ぐことになるだろうという事。

東京に行っても、いきなり丸一の社長になるわけではなく、また下積みから始める事。

その際、瀬崎さんは、素性を隠して働きたいと思ってる事。

そして、その絶対条件として、私を巻き込まないという条件を突きつけたという事。

嬉しいけど、いいのかな。
私だけ、瀬崎さんに守られてる気がする。

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