家庭訪問は恋のはじまり【完】
第71話 本当にいい先生
離任式は終わったが、異動は4月1日だ。
離任式後も、午後は通常勤務が続く。
職員室でお弁当を食べていると、武先生が教えてくれた。
「今日の花束贈呈、1組の子、ほとんど全員が手を挙げたんですよ」
「えっ?」
普段の授業では、なかなか全員の手は挙がらない。
「自閉の真央が小さく手を挙げてるのを見たとき、夕凪先生は本当にいい先生だったんだなぁと思いましたよ」
「えっ?
真央ちゃん、手を挙げたんですか?」
真央ちゃんは、授業でも自分から手を挙げた事は一度もない。
「ええ、挙げてました。
あまりにもたくさんの手が挙がったので、困った三宅先生が『この中で1番、神山先生のお世話になったのは誰?』って聞いたら、全員が瀬崎嘉人を指差したので、嘉人が代表になったんです」
そういう事だったんだ。
1番しっかりしてる子とか、上手にお話ができる子だったら、嘉人くんは選ばれてない。
ふふっ
三宅先生、粋な選び方するなぁ。
「あれ?
でも、その時2組さんはどうしてたんです?」
「廊下に並んでたよ。
俺も廊下から、1組の様子を見てた」
武先生は、笑う。
「でも、これで晴れて担任と保護者じゃなくなりましたね」
これは、なんて返せばいいのか…
「俺、高学年を希望しないで、持ち上がりを希望すればよかったかな」
武先生は声を潜めて言う。
「なんでですか?」
「だって、授業参観に来る夕凪先生、見ものじゃないですか」
くくっと楽しそうに笑う武先生は、ちょっと意地悪だ。
「もう、知りません」
私は歯ブラシを持って立ち上がり、武先生から逃げ出した。
離任式後も、午後は通常勤務が続く。
職員室でお弁当を食べていると、武先生が教えてくれた。
「今日の花束贈呈、1組の子、ほとんど全員が手を挙げたんですよ」
「えっ?」
普段の授業では、なかなか全員の手は挙がらない。
「自閉の真央が小さく手を挙げてるのを見たとき、夕凪先生は本当にいい先生だったんだなぁと思いましたよ」
「えっ?
真央ちゃん、手を挙げたんですか?」
真央ちゃんは、授業でも自分から手を挙げた事は一度もない。
「ええ、挙げてました。
あまりにもたくさんの手が挙がったので、困った三宅先生が『この中で1番、神山先生のお世話になったのは誰?』って聞いたら、全員が瀬崎嘉人を指差したので、嘉人が代表になったんです」
そういう事だったんだ。
1番しっかりしてる子とか、上手にお話ができる子だったら、嘉人くんは選ばれてない。
ふふっ
三宅先生、粋な選び方するなぁ。
「あれ?
でも、その時2組さんはどうしてたんです?」
「廊下に並んでたよ。
俺も廊下から、1組の様子を見てた」
武先生は、笑う。
「でも、これで晴れて担任と保護者じゃなくなりましたね」
これは、なんて返せばいいのか…
「俺、高学年を希望しないで、持ち上がりを希望すればよかったかな」
武先生は声を潜めて言う。
「なんでですか?」
「だって、授業参観に来る夕凪先生、見ものじゃないですか」
くくっと楽しそうに笑う武先生は、ちょっと意地悪だ。
「もう、知りません」
私は歯ブラシを持って立ち上がり、武先生から逃げ出した。
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