家庭訪問は恋のはじまり【完】

くっきぃ♪コミカライズ配信中

第45話 帰省

翌日、私は車で実家へと向かう。

同じ県内だけど、私のアパートから実家までは、1時間以上掛かる。

普段は、帰っても何もしない私だけど、今回、生まれて初めて、晩御飯を作らせてもらった。

メニューは、瀬崎さんに教えてもらったハンバーグ。

瀬崎さんと一緒に作った時ほど、上手にはできなかったけど、家族は私が料理をするというだけで、感動してくれた。

「夕凪の料理だから、全然期待してなかったけど、おいしいじゃない!」

母が失礼な感動の仕方をする。

「姉貴、ようやく嫁に行く気になったのか?」

弟も失礼だが、強ち間違いではないから、コメントに困る。

「お料理が得意な友達ができて、たまに教えてくれるのよ」

私はそう答えた。

「ふーん、男だろ?」

弟はニヤニヤと私を見る。

全く、変なところだけ鋭いんだから。

「そうなの?
 だったら、1度うちにも連れてきなさいよ。
 あなたもいい歳なんだからね」

母が目をキラキラと輝かせる。

「お友達をわざわざ両親に紹介しないでしょ?
  変な期待しないでよ」

そんな会話を黙って聞く父。

そして、その会話はあっという間に離れの兄夫婦にも伝わったらしい。

翌朝、姪の美晴みはるが、

「ゆうちゃん、おはよう!!
 ゆうちゃん、お嫁に行くってホント?」

と巨大爆弾で起こしに来た。

「は!?
 みぃちゃん、そんな事、誰に聞いたの?」

「さっき、パパとママにばぁばが言ってた。
 ねぇ、ゆうちゃん、お嫁さんになるの?」

美晴は、7歳。
嘉人くんと同じ小学1年生。

お給料も貰えないのに、朝から小学生に詰問されるなんて、割りに合わないなぁ。

「そりゃ、ゆうちゃんだって、いつかはお嫁に行くよ。
 みぃちゃんだって、いつかはお嫁に行くでしょ?」

私が言うと、

「うん!
 みぃちゃん、ママみたいに白いドレス着るの」

とにっこり答える。

ふふっ
かわいい〜

「みぃちゃんはかわいいから、きっと白いドレス、似合うだろうね〜」

私がそう言うと、美晴は、

「へへっ」

と照れたように笑う。

すっかり美晴に叩き起こされた私は、諦めてベッドから起き上がる。

着替えて、朝ご飯を食べてると、忙しく大掃除をする母に言われた。

「夕凪、あんたどうせ何の役にも立たないんだから、今日から美晴の子守りしてなさい」

はぁ…

思わずため息が漏れる。

年末の忙しい時に、私ができるのは子守りだけ…

まぁ?
小学生の相手は、本職だし?
別にいいんだけど。
全く期待されないのも…ねぇ?

私は美晴の宿題を見てやり、それが終わると、一緒に縄跳びをする。

見ていると、美晴は両手を大きくブンブンと回して跳んでいる。

これじゃ、回数も跳べないし、あや跳びや交差跳びもできるようにはならない。

私はタオル2本で美晴の両腕を脇から離れないように縛った。

「みぃちゃん、これで跳んでごらん」

腕を回せなくなった事で美晴は、さっきよりも跳べなくなってしまった。

「ゆうちゃん、これ、ヤダ!
  ねぇ、取って!」

「大丈夫!
 みぃちゃんなら、絶対、跳べるから。
 これで跳べるようになったら、二重跳びだって出来るようになるんだよ」

私がそう言うと、美晴は目を輝かせた。

「二重跳び!?」

1年生にとって二重跳びは憧れだ。

出来る子はクラスに数人しかいない。

1〜2回跳べるだけで、ヒーロー扱いされる。

そうして、私の年末は、美晴の宿題と縄跳びで過ぎていった。

夜には変わらず、瀬崎さんが電話をくれる。

そして、今日、大晦日は遅い時刻に掛けてくれた。

夕凪と一緒に新年を迎えたいって言ってくれて。

『夕凪、明日の夕方、大丈夫?』

「うん」

『じゃあ、スキー場を出る前に1度連絡する。
  多分、4時くらいかな』

「分かった。気を付けて行ってきてね」

『ああ。ありがとう』

「あっ!」

付けっ放しのテレビから、カウントダウンが流れ始めた。

「3、2、1!
 あけましておめでとう!」

『くくっ
 あけましておめでとう。
 夕凪、今年もよろしくな』

「うん、こちらこそ、よろしくお願いします」

私はぺこりと頭を下げる。

よく考えたら、瀬崎さんからは見えないのに。

でも…

これで、あと3ヶ月。

3ヶ月後には、嘉人くんの担任を外れる。

『夕凪、じゃあ、また明日。いや、今日か?』

「ふふっ
 今日だね」

『くくっ
 そうだな。また後で。
 夕凪、おやすみ。愛してるよ』

「おやすみなさい」

今日の夕方には、瀬崎さんに会える。

それを思うだけで、胸がキュンとなり、眠れそうにない。

なんで、こんなに瀬崎さんに会いたいのかな。

こんな気持ちになるの、久しぶりだから、いい歳をして恥ずかしいけど、自分でもどうしていいものか、よく分からない。

だけど、瀬崎さんと話した後は幸せな気持ちで布団に入れる。

明日…

私は、瀬崎さんを思いながら、眠りについた。



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